―― 優さんが、収録曲でとくにお気に入りのフレーズを挙げるとすると?
6曲目「WINDING MIND」の<矛盾受げ入れでどんどど>ですね。
―― 地元・秋田への愛が詰まった1曲ですね。
フル秋田弁で歌うのも久しぶりで、好きな秋田弁をたくさん詰め込みました。<どんどど>というのは「勢いよく」みたいな意味なんですけど、僕は最近、矛盾を受け入れて進むことが、幸せへのいちばん近道だと思っているんですよ。もっと言えば、矛盾を楽しめたら人生バラ色。たとえば、すっごく極端に言えば、「不倫したなお前」って笑えるぐらいの夫婦関係だったら最強じゃないですか。あくまで個人的な意見ですけれども。
でも、こういうことを真面目な歌詞にしたり、話したりすると、それこそメッセージ性が強くなりすぎて、説教っぽくなってしまう。それは僕がやりたい音楽とはちょっと違うんですよね。演説家になりたいわけではないので。だから、「高橋優、いよいよ何を言っているかわからないぞ」って曲を書きたくて(笑)。実はいちばん大事なメッセージを「WINDING MIND」に込めました。MINDがWINDINGしていていいんだぞ!と。
―― あきたこまち40周年記念CMソングの5曲目「リアルタイムシンガーソングライター」の構成も衝撃的でした。まさにいろんな『HAPPY』が詰め込まれていて。
そうですね。夏頃には「リアルタイムシンガーソングライター」ができあがっていて。そこから、「先にアルバムタイトルを決めたほうがいいな」となったとき、この歌があったからこそ自然と『HAPPY』というワードに決まったのもあります。それこそ冒頭から<あぁ幸せだな>って歌っているし。
―― その<あぁ幸せだな>からのギャップが優さんらしくて最高です。
でもこれ、紙一重でね。ぐちゃぐちゃにしすぎてしまうと、お聞き苦しくなるというか。「え? 何? どういうこと?」みたいな曲になっちゃうのはイヤで、頑張って心地よいカオスに整えたんですよ(笑)。この曲も歌詞が全体的に好きで、フレーズで言うと<平和なフリをして 謝罪させるClingy(クリンギー)>とか。自分は関係ないのに、謝ってもらわないと満足しないひとって大体、“Clingy=かまってちゃん”だなと思って。
あと、<現状程度の未来に辿り着きたくてぼくらは 息を切らして駆け抜けていたのかい?>とか、<まだ傷だらけでもない かすり傷も怖がる リアルタイムシンガーソングライター>とか、自分にも、今この時代にも投げかけている気持ちですね。かつて、高橋優のキャッチコピーだったものを曲タイトルに掲げて、40歳の今の自分だから書けた歌だなと思います。
―― では、今作『HAPPY』を経て、歌詞面での今の“高橋優らしさ”とはどんなものだと思いますか?
濃厚クセ強、J-POP界の失くしてはならない珍味。
―― 珍味、いいですね。
大型薄利多売で流通されるカップ麺タイプではない気がします。いろんなミュージシャン仲間や先輩と話していても、「高橋は別にもう売れたいとかないんでしょ。こんなこと歌って」とか、「売れたいなら、フレーズを繰り返して、わかりやすい言葉にしなきゃ」とか、よく言われるんですよ(笑)。でも、wacciの橋口洋平くん、川崎鷹也くん、BLUE ENCOUNTの田辺駿一くんとかと、集合して飲み会をやったんですけど。
―― 「俺かと思った」仲間ですね。
そう、眼鏡かけていてキャラ被る仲間(笑)。そこで「もう優さんは優さんだもんな」って言ってもらえるありがたさもあって。15年間この感じでやってきてよかったなって。多分、wacciの橋口くんなんかは、今まさに一生懸命いろんなタイプの楽曲を書いて戦っていると思うんですよ。カラオケで歌えるような、キュンとするようなラブソングとかをみんなから求められているひとなので。「優さん、それ歌えるからいいよなぁ」って。
まぁ、大大大ヒットしているひとたちは、いずれなんでもできるようになりますからね。超万人ウケの楽曲を9曲ぐらい書いて、あとの2曲で珍味も出して、ちょうどいい飯になる感じ。中華料理とか、フランス料理とか。だけど、高橋優は何料理なんだろう。珍味ばっかりで…。あれ、なんて質問でしたっけ(笑)?
―― 歌詞面での今の“高橋優らしさ”とは。今のお話で十分、伝わっております。
自分としては、まっとうだと思うことを書いているんですよ。「今こそこれを歌うべきだ」ってことしか歌いたくない。だけど、ラジオとかで「またすごいクセ強いのが来ましたね!」とか言われるわけです。だから僕がカッコいいと思ってやっているものは、まわりとズレているのかもしれない。
ただ逆に、そのズレているものを15年間やれているって、しかもそれをこうしてインタビューしてくれるひともいるって、超幸せかもしれない。俺、結構、カッコいいんじゃねえの?って思う部分もある。そうやって、続けていけばいくほど、もっと唯一無二の珍味になっていくんじゃないかな。なんか…「何こいつ」って思われながら、ずっといるんですよ(笑)。特殊なタイプというか、あんまり高橋優みたいなひといないもん。
―― これだけタイアップ楽曲を手掛けながら、書きたいものを書けているというのも、カッコいいと思います。
そう、今はレコード倫理みたいなのも厳しいですからね。一応、ギリギリ通るように頑張っています(笑)。でもまぁ、僕がいつまでも元気で、変な曲を書いてきて、「あいつね、バカだけど、ちょっとウケるんですよね。41歳のおじさんのくせに」とか、関わってくれるひとたちにもおもしろがってもらえるのがいちばんですね。完全に売れ線に目がくらむような書き方をすれはバレると思うし。「ああ、高橋優がそっちに行ったな」って。
―― 何より優さんご自身がそういう自分はイヤですよね。
うん、寂しく感じます。アーティストも人間だから、結婚とか、ヒットとか、いろんな節目があるじゃないですか。それによってヒリヒリしなくてもよくなっていく。だからこそできる楽曲もある。でも、やっぱりファンとしては、「えー、もっとギスギスしていたときのあのひとがよかった」って思ってしまうこともあるんですよ。今でも僕自身めちゃくちゃ言われますし。でも僕はね、幸か不幸か、今も満足していない。全員から嫌われていると思って生きているから。
―― そんな極端な(笑)。
いや、本当に(笑)。もうちょっと好いてもらわないと…っていう努力で、ジッパーを上げ下げしているおじさんを見つけたりとか。ハイヒールが折れても一生懸命に歩いている女のひとの後ろ姿を見て「かっこいい」と思ったりとか。常になけなしの引き出しを増やして、おもしろい歌詞を書こうとしている。そんな今の僕だからできたのが、この『HAPPY』というアルバムだなと思いますね。