ありがとう あいしてる ごめんねずっと作りかけのラブソング いつか君に聴いてほしくて
どんな言葉もメロディも どこかがまだ 足りない気がして
書き続けている ただ 君だけを思い浮かべてもっと歌詞を見る
―― 秦さんに取材させていただくのは、2015年リリースのアルバム『青の光景』以来、10年ぶりとなります。この10年のなかで、ご自身がよく考えていたこと、変化したことなどは何かありますか?

10年か…あっという間ですね。まさに取材していただいたタイミングの少し後ぐらいから、音楽や創作との向き合い方を変えてきたのは大きいと思います。とくにアルバム『青の光景』は、アレンジまですべて自分でやると決めて、自分を追い込んで、削って、歌詞や曲を書いていて。でも、そうじゃない頑張り方があるんじゃないかなと。もっと音楽自体を楽しみながらいられる自分で在ろうと、シフトチェンジしていったように感じますね。
―― それは何か大きなきっかけがあったというより、徐々に大事にしたいものが変わっていった感覚でしょうか。
そうですね。デビューから10年目ぐらいまでは、キャリアを重ねるなかで自分のやり方を模索して、オリジナリティーを見つけて、それを追求していく時期だったと思うんです。そして、もともと好きで楽しくてやっていただけの音楽がちゃんと仕事になった。同時に、向き合う責任や重圧の比重も大きくなっていって。根本の楽しい気持ちにあらためて目を向けたいというか。
そういうなかで、「一生音楽を続けていくのなら、生みの苦しみも含めて、すべてを楽しめる自分でいたい」と思うようになっていったんですよね。それは、ただ気持ちを切り替えればいいということでもなくて。たとえば、環境作りから変えたり。音楽との向き合い方で“自分自身が楽しむ”というところをかなり重視するようになりました。
―― 『青の光景』の収録曲「あそぶおとな」のお話をお伺いした際も、「真剣に遊んでいる」「音楽を純粋に楽しんでいる」そういう先輩たちを“カッコいい大人”だと感じるとおっしゃっていましたね。
そうそう。そういう悩みを抱え始めたタイミングだったのを覚えています。当時、僕はデビュー10周年を迎える直前で。20年、30年と音楽をやられている先輩たちが、ピュアに楽しそうに、仕事としての音楽に向き合っていらっしゃる姿を見て、すごく眩しかったんですよね。そこから徐々に、「自分もそうなっていくためには、今どんなことをしたらいいのか」みたいなことを考えるようになっていきましたね。
―― また、10年で世の中も大きく変化しました。コロナ禍があったり、よりコンプライアンスが厳しくなっていたり。それに伴い、歌詞面での難しさを感じるところはありますか?
いわゆる“世の中的に”というところは、あまり考えてないかもしれません。だけど、自分自身がクリアしなければならない課題の難しさはありますね。年齢や経験を重ねれば重ねるほど、曲を作れば作るほど、「これはもう歌ったな」みたいなことが増えてくるじゃないですか。すると、自分が何をまだ歌っていないか、いかに新しいものに気づけるか、そこが大事になってくる。
―― セルフ被りをしないようにというか。
はい、歌詞もメロディーも、自分にとって少しでも新しい気づきを音楽にしたいなと。だから、優しい曲ばかり作るわけではなく、かといって「世の中に対してこれは言っちゃいけないかな」とか考えすぎるわけでもなく、自分なりの言葉で、時代に即した歌詞を書いていけるのが理想だなと思っていますね。
―― 歌詞面で“秦基博らしさ”みたいなものを確立したと実感されたタイミングというと?
2010年にリリースした「アイ」はひとつターニングポイントだったように思います。“愛”という普遍的で大きなテーマを、秦 基博なりのラブソングとして形にしたいと挑戦して作った楽曲だったので。それを表現できたという手応えは、自分にとっての自信になりましたね。
―― では、ご自身の歌にとって「必ずこれは大事にしよう」という“源流”というと何でしょう。
景色が立ち上がってくるか、色が浮かんでくるか、そこはマストだと思います。作為的にそうしているわけではなく、僕はそれがないと歌にならないんです。
―― 歌詞も、景色や色が言語化されていくような感覚なのでしょうか。
そうなんです。僕はメロディーから作るんですけど、そこから見えてくる景色や色、あと言葉になる前のニュアンスみたいなものを掴んでいく。この曲は何がメインなのか、取っ掛かりを見つける。その最初の立ち上がりがいちばん難しくて、毎回苦しんでいる気がします(笑)。曲を作ったあとの作詞のほうが、圧倒的に時間がかかりますね。すべての決着をつけていくのが歌詞だからこそ難しいなと思います。
―― タイアップが関係ないとしたら、どんなときに曲や歌詞が生まれることが多いですか?
降ってくるというよりは、「作ろう」と思って作るタイプで、曲作り期間があるんですよね。それで楽器を持ったり、パソコンに向かったりしながら、なんとなくいろんな音を鳴らして、断片から作っていくことが多いです。時には「こういう曲を書きたい」という入り口から作る場合もあるんですけど。とくにアルバム制作期なんかは、もう思いついたものをとにかくすべて作ってみて、判断していきます。「これは今じゃないな」とか。
―― 自然と今のモードに即した楽曲が集まってきて、さらに言葉が見えてくるんですね。
わりとそうですね。今の自分のモードを知るために、まず曲を書いてみる。すると、何曲か「このあたりが根っこだな」という基本が見えてくるので、そこからバリエーションを広げて他のタイプの楽曲を書いたり、足りない要素を補ったり。そうやってアルバム全体像ができあがる。そして、曲が持つイメージを歌詞にしていくとき、気づくと自分のマインドが言語化されている感覚ですね。