自身の“幸福=曲作り”を停滞させないため変わり続ける…。全12曲入りアルバム!

 2025年5月14日に“日食なつこ”が5th Full Album『銀化』をリリースしました。今作は、2024年開催の“未発表曲ツアー「エリア未来」”で演奏された10曲、さらにツアーでの披露は見送られた「i」と、回想的トラック「(an unknown crew)」の全12曲で構成されております。インタビューでは、その収録曲の歌詞についてじっくりお話をお伺いしました。さらに、「原動力はない」「欲もない」という自身が唯一、抱き続けている“とにかく曲を書き続けたい”という想い。もっとも大事なものを停滞させないために、ずっと意識していることとは…。ぜひ今作と併せて、歌詞トークをお楽しみください。
(取材・文 / 井出美緒)
閃光弾とハレーション作詞・作曲:日食なつこまだ なんにも成していない 々 々んだ 焦燥
まだ なんにも手にしていない 々
生きてるだけでいいって そうじゃないんだ 々 々
愛し優しい人のそばで 揺れる花にはついぞ成れず
朽ちては落ちていく自らのため あとは燃えてゆこう
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私は原動力みたいなものが最初から今まで何もない。

―― いつも「今日のうた」に素敵なエッセイをありがとうございます。先日、今作『銀化』の記事も公開させていただきました。もともと日食さんは感情や思い出の言語化が得意だったのですか?

いえ、むしろ苦手としているくらいです。というより、長文は無限に書けるからこそ、歯止めが効かず難しい。書いているうちに、どんどん広がっていき、まとまりがなくなってしまうんです。エッセイを書かせていただくときも毎回、言葉に溺れていくような感覚になります(笑)。そういう意味では、短歌とか俳句のように、型が決まっているものがやりやすいのかもしれません。

―― ご自身の文章力・歌詞力はどのように培われたのでしょう。

国語や英語は得意でしたが、培った感覚はなく…。唯一、心当たりがあるとすれば、小学1年生あたりから自主的に絵日記を書き始めたことですかね。何度も読み返していたので、1ページ目を今でも覚えています。「7月○日、地区の子ども会でサンピアかねがさきに行って、プールで泳ぎました」。それが私のスタート地点です。

それから中学生になっても、高校生になっても、枕元にはノート1冊とペン1本を置いていて、何かあったら書く。必ず1ページは埋める。そういうことを定期的にやっていたので、誰にも見せない自分の本音を言語化するという力は、枕元で培ったのかなと思いますね。

―― その積み重ねは着実に筋トレになっていますよね。ポエムなどは書かれていましたか?

photo_01です。

書いていました。ただ、それが特別である環境ではなかったんです。というのも私の小学校、もしくは私の学年には、創作をする子が何人もいたんですよ。私よりずっと上手な子もたくさん。だから小学生の頃から、「お前、曲を作れるらしいじゃん。歌詞を書いたから、メロディーをつけてよ」ってポエムを持ってこられるみたいなことが何度もあって。受け取るだけ受け取って、ほとんど返さずに終わっていたのですが(笑)。

―― それはなかなか特殊な環境ですね。日食さんは作詞より曲作りのほうが先だったのですか?

同時進行だったのだと思います。曲作りは小学校3~4年生あたりから。通っていたピアノ教室でレッスンの一環として、「作曲コンクールに出してみましょう」というカリキュラムがあったんですよ。一方で、自分の趣味として、物語のようなものを書くことも始めていて。その両方が小学5年生ぐらいで合致したというか。「それなら作詞作曲という行為をしてみたらおもしろいんじゃないか」という感じでしたね。

―― 当時はどんな歌詞の曲を作っていたのでしょう。

本当にお下劣なので具体的には言えませんが(笑)、まさに日記のような内容ですね。「今日は○○とこういうことがありました。楽しかった」みたいな。あと、飼い犬のテーマソングを家族と一緒に作ったり。日常からこぼれない、生活範囲内のことを書いていました。そこは今も同じかな。

―― では、今思う“日食なつこらしい歌詞”とはどんなものだと思いますか?

実はあまり自分で解析しないようにしているんです。自分で自分の型を作ってしまうと、そこから抜けられなくなりそうな気がして。ただひとつ、「作文のようにはならないように」というところだけは気をつけています。音楽である以上、音的な楽しさやおかしみは必ず大事にしたい。ディベートのようにもしたくない。だからなるべく句読点は打たず、接続詞も使わず、一文で言い切り続ける。そこは“らしさ”と言えるのかもしれません。

―― 1リスナーとしては、日食さんの歌詞で知る新たな言葉が非常に多くて。今回のアルバムタイトル『銀化』も然り。そのインプットはどのようにされているのでしょうか。

いちばん多いのは辞書。好きなんですよ。国語辞典・英和辞典・和英辞典は3冊セットで家に積んであり、昔から暇さえあれば開いて読んでいます。あとはいろんな雑誌。そこで目に留まった言葉を携帯にメモしていて。そういうチリツモだと思いますね。

―― とくに自然現象や宇宙にまつわるワードが多いように感じるのですが、それはどこに惹かれているのでしょう。

完全に語感です。別に天文学に詳しいわけでもなんでもなく(笑)。ただ、パッと文字を見たとき、意味を理解する前に入ってくるニュアンスがカッコいいというか。直感で言葉を把握する感覚。たとえば『銀化』もそうです。“銀色に化ける”ってカッコいいじゃないですか。それでメモしておいて、意味はあとから調べる。

さらに今作でいうと、6曲目「leeway」も、まず頭に“l”がストーンッとあって、そのあとに可愛らしい小文字の“e”がコロンコロンと2つ転がっていて、「なんか可愛いな~」みたいな感じだったんですよ。非常に表面的とも言えるのですが、かなり言葉をビジュアルで見ているところがありますね。

―― 日食さんの最新のエッセイには、「30歳くらいまで感性が枯れず気力が続けばまあ万々歳、という程度に当初見ていた~」と書かれていましたが、インプット力を含めまったく枯れていませんよね。ずっと活き活きされている。

なぜでしょうね。私は原動力みたいなものが最初から今まで何もないんですよ。エッセイには「30歳くらいまで」と書きましたが、本当を言えば、「大学4年間、まあ22歳まで続けばいいか。そのあとは綺麗さっぱり社会に出て、勤め人になろう」と思っていたぐらいで。それがなぜか、ここまで続いている。自分でもその理由がわかりません(笑)。ずーっと「とりあえず曲が生まれてくるから、書いておくか」くらいの感じというか。

―― 小学生の頃から曲作りをなさっていたがゆえに、もう理由が要らないぐらい当たり前の行為になっているのかもしれませんね。

本当にそのとおり。別の雑誌さんでも似た話をしたのですが、私にとって曲作りって鼻歌の延長線上にあるものなんですよ。もっと言えば、皿洗いをする、歯磨きをする、掃除機をかける、曲作りをする、すべて横並びにある。皿洗いをする理由なんて、「だってやらないと汚いじゃん」みたいなものですよね。私にとっては曲を作る理由も同じなんだと思います。だから別に原動力も要らないですし。

―― 昨年、日食さんの展覧会『エリア過去』にお伺いしたのですが、その「プライベートルーム」という場所で映像を観た際、「日食さんにとって、暮らしこそ音楽なんだろうな」と感じました。今、お話を伺っていても、やはり音楽と生活は地続きなんだなと。

ああ、まさにそうだと思います。よく考えてみると先ほどの感性の話においても、「生活の土台をしっかりしておくと曲を書き続けられる」というのは、自分の方程式の答えとしてひとつありますね。だから、「とりあえず曲を書けるような生活だけは死守しよう」と決めて、映像に出てきたような山奥の家に引っ込んでいるわけです。

曲を書くより、草刈りしたほうがいいこともある。草刈りをしている2時間ほどは、携帯なんか絶対にいじることはできませんから。横やりを入れてくる情報が何もない状態で、謎の棒を握りしめて草を刈りながら、ずーっと自分の頭のなかだけで対話していると、気づけば曲が生まれてくる。あるいは、真白い雪原で、ただただ大きなスコップで雪かきをしていると、その景色から言葉が出てくる。そういう生活は維持したいんですよね。

―― 仮にその暮らしが崩れた場合、曲はどうなるのでしょう。

崩れたなりのダークな曲が出てくるのでおもしろいですよ(笑)。ずっと山に籠っていると、まあ美しくて楽しそうな曲ばかり生まれてくるじゃないですか。それもそれで変化がなくてつまらない。だから、そういうときにはあえて面倒くさそうな人混みに飛び込んでみたりします、実はわりと自分の心身の置きどころをコントロールしながら曲作りをしていますね。おっしゃるとおり、すべてが地続きです。

―― 年齢や経験を重ねるにつれて、変化してきた考え方や在り方などはありますか?

いちばん変わったのは他者の見方だと思います。昔は、「自分こそが正しい」と全力で思い切っていたので、他者の考え方を否定しかしなかったんです。でもいろんなひとと関わるようになり、「そうでもなさそうだな」と気づいた。それによって、自分が主張することの怖さを抱いてしまった時期もあったのですが、そこも今ある程度は乗り越えて。「他者には他者の考えがあり尊重されるべきであり、私の主張も尊重されるべきだ」と。

―― ちなみに今の日食さんにとって、他者とはどういう存在ですか?

私の楽曲に100%は同意しないひと。100%同意するひとは、自分しかいない。だからこそ、私の歌詞に対して、「え、それは違くない?」と思うひとの存在をちゃんと尊重した上で曲を作ろう、と常に思っていますね。

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