古本屋のワルツ

昔なくした本を探して
今さら私は古本屋を訪ねている
誰が書いたのか
タイトルすら思い出せないけど

緑の布張りの表紙には
金の飾り文字があったことだけ
手掛かりにしているだなんて
誰もが笑うけど

白いはね橋 両腕をのばし
すりぬけて飛ぶカモメ
思い出したい 思い出せない
記憶の糸をたぐりよせても

昔なくした思い出探して
今さら私は古本屋を訪ねている
クルクル回るようなステップ
いつの間にかワルツ

あの本はまだ読みかけのまま
いつかの列車で置き忘れてしまったまま
時は流れて 少年の日は遠くておぼろげ

私も あの本もきっと
物語りのような旅を続けているのさ
きっと いつかレールは交わって
再びめぐりあう

銀色の舟 揺れて躍る胸
あの人の手をとれば
思い出しそう 思い出せなそう
記憶のかけら つなぎ合わせる

旅を続ける本の停車場
鈴鹿に古本屋で次の出発を待つ
クルクル回りだす車輪が奏で出したワルツ

昔なくした思い出探して
今さら私は古本屋を訪ねている
クルクル回るようなステップ
いつの間にかワルツ
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