前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて分析し、キラっと輝くキラーチューン(名付けて“キラ☆歌”)を発掘しようというこのコーナー。今回は、昨年末に放送された第60回NHK紅白歌合戦(以下「紅白」と略する)で歌唱された楽曲に着目した。
第7回:2009年紅白歌唱曲TOP20 (2010年2月:1月データより分析)
テーマ
順位
当月
総合
順位
前月
総合
順位
アクセス指数
タイトル
アーティスト
紅白
発売日
1位
1
13
100
Butterfly 木村カエラ 紅組 09.6.24
2位
2
25
55.1
YELL いきものがかり 紅組 09.9.23
3位
6
15
31.2
Believe 白組 09.3.4
4位
8
11
27.6
はつ恋 福山雅治 白組 09.12.16
5位
15
-
18.8
また君に恋してる 坂本冬美 紅組 09.1.7
6位
17
58
16.4
みんな空の下 絢香 紅組 09.7.8
7位
30
56
12.8
A・RA・SHI 白組 99.11.3
8位
34
50
12.4
Someday EXILE 白組 09.4.15
9位
35
120
12.4
星に願いを flumpool 白組 09.12.23
10位
38
66
12.3
ヒーロー FUNKY MONKEY BABYS 白組 09.11.18
11位
39
184
12.3
手紙 〜拝啓 十五の君へ〜 アンジェラ・アキ 紅組 08.9.17
12位
44
62
11.4
Love so sweet 白組 07.2.21
13位
54
-
9.7
その先へ DREAMS COME TRUE
feat. FUZZY CONTROL
紅組 09.9.9
14位
59
136
9.1
逢いたい ゆず 白組 09.4.22
15位
63
85
8.6
ひまわり 遊助 白組 09.3.11
16位
81
114
7.7
Happiness 白組 07.9.5
17位
83
-
7.6
RIVER AKB48 紅組 09.10.21
18位
87
67
7.3
アニマロッサ ポルノグラフィティ 白組 09.11.25
19位
97
107
6.9
粉雪 レミオロメン 白組 05.11.16
20位
134
176
6.1
Stand by U 東方神起 白組 09.7.1
※第60回での紅白歌唱曲のみを対象とした。
※前月順位は09/12/1〜12/28集計のもので、「−」は200位圏外を示す。
 2002年の中島みゆき「地上の星」以来、秋川雅史「千の風になって」、すぎもとまさと「吾亦紅」、秋元順子「愛のままで・・・」など、ほぼ毎年のようにCD売上げが急増し、注目を集める“紅白”(出演)効果だが、今年はそういった話をあまり聞かない。それどころか、視聴率が前年割れだの、出場者が不足していて見所がないだの、とマスコミからのバッシングはヒートアップするばかり。本当に、紅白効果は薄れてしまったのだろうか。

 ランキング表を見てみると、総合TOP10には、木村カエラ、いきものがかり、嵐、福山雅治の紅白歌唱4曲がランクイン、しかもそのいずれもが12月度(09/12/1〜28の集計)から上昇している。このような現象は、他のTV番組ではまず有り得ない。年末の他の特番などで何度か歌われ12月中に上昇していた楽曲でも、紅白であらためて観て、あるいは初めて観て楽曲が気になったという人が遥かに多いようだ。特に、木村カエラは着うた解禁から7ヶ月目にして初の月間1位となった。

 これと並んで上昇著しいのが坂本冬美の「また君に恋してる」。同作は、中村あゆみ作詞・作曲のシングル「アジアの海賊」のカップリングに収録されたフォーク系バラードだが、10月発売のJ-POPカバーアルバム(これを“E-POP”と呼んでいただければ幸いである)『Love Songs』のリード曲として徐々に注目され始め、年末の日本レコード大賞・金賞受賞と紅白出演で一気に上昇した。それまで、焼酎のCMや、音楽番組、アルバム記念のインストアイベント等で着実に浸透させて紅白での歌唱を確実にしつつ、紅白リハーサル時に“初の洋装”とスポーツ紙や情報番組で話題を集め一気に注目させ、更に年明けに「着うた」ダウンロードが伸びた事もしっかりネットや携帯ニュースに載せる、といったレコード会社側の制作・宣伝の連携プレーが、今回の急上昇に大きく繋がったように思う。単に、良いカバー曲を制作しても、CDを出して放置しているようではヒットなんて生まれないのだ。

 デビュー11年目にして初出場となった嵐も、メドレー内で歌った4曲いずれもが上昇。「Believe」以外の3曲は08年以前に発表された旧作だ。他の旧作でも、アンジェラ・アキ「手紙〜拝啓 十五の君へ〜」や、レミオロメン「粉雪」が上昇しており、時代に関係なく“歌の力”が通じたということだろうか。

 意外なところでは、17位のAKB48「RIVER」も急上昇。これまでは、生写真、ポスターなどのグッズやメンバー別握手会など、“特典ありき”で、CDヒットが先行してきたが、この結果から紅白出場によって楽曲自体が浸透したことが見て取れる。やはり、常連ファン以外をも惹きつける重要な番組なのだ。

 以上のように、紅白歌合戦は、昨今の音楽の楽しみ方の多様化によって、その効果測定が難しくなってはいるものの、こうして歌詞検索数を見てみると、現在もなお様々な楽曲を再注目させる一大番組である、ということがよく分かる。最近は、「紅白?もう○年は観てないなあ」と、○の数をサバ読んでまで、個性をアピールする20代〜30代も見受けられるが、実際はこっそりチェックしている人が案外多いはず(笑)。なお、上位20曲だけでその人気曲のポイントを紅白に分けて計算してみると、紅組=220ポイントに対し、白組=160ポイントで、紅組が“歌の力”では勝利している。にも関わらず、実際は白組が5連勝中だ。いかに、一般視聴者を偏重した現在の審査方法が実情を反映していないか、ということについては問題提起しておきたい。



YELL
いきものがかり
 

 “歌ネット”ヘビーユーザーには、言わずと知れたゼクシィCM曲。昨年5月からタイアップ表記なしでオンエアされ始め各コミュニティで話題とした盛り上がった後の6月1日、実際に結婚式のゲストとして歌唱すると同時に「着うた」配信を解禁し、その後の収録アルバム『HOCUS POCUS』のヒット(前作の約4割増)に貢献した。彼女にとって初となる明解なバラードというのもあるが、何より親友の為に作ったというリアルなエピソードへの共感も大きかったのだろう。(ちなみに、作曲はSUEMITSU & THE SUEMITHとしてアーティスト活動もしていた末光篤。彼の制作能力は要チェック。) 2月3日には、5周年ベスト『5years』を発売、「おどるポンポコリン」や「マシマロ」のカバーなど話題曲は2枚組の初回盤にしか収録されていないのでご注意を。


「Butterfly」木村カエラ


ここではデビュー1年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。

 
今月は、2月24日に歌手デビューする北乃きいに注目。彼女は、1991年、神奈川県出身で、ティーン誌の雑誌モデルから女優に転向したが、転機は07年に中島美嘉「LIFE」が主題歌となったドラマ『ライフ〜壮絶なイジメと闘う少女の物語〜』での主演抜擢だろうか。以降、演技の幅を大きく広げた。
CDデビュー曲「サクラサク」は、本人出演の『キットカット』CMソングとして既にオンエア中。同作は、島谷ひとみやMAXなどの楽曲を手がけてきたBOUNCEBACKが作詞、浜崎あゆみの初期楽曲を手がけてきた星野靖彦が作曲、そのためか、2000年頃のエイベックスのヒット曲同様に、キャッチーで覚えやすく、高めのボーカルが際立った作品に仕上がっている。GIRL NEXT DOOR同様に、“ちょっと懐かしいガールポップ”のリバイバルヒットの火付け役となるか期待したい。

※北乃きいは、「サクラサク」のみがランクイン


北乃きい


つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!などでヒットチャート解説に関する連載を執筆中。2月3日に女性アーティストの卒業ソングばかりをボッサ風にカバーした『部屋カフェ #1』の選曲部分を担当。柏原芳恵「春なのに」や斉藤由貴「卒業」といったベタはまりなものから、松田聖子「制服」や南野陽子「春景色」などシングルカップリングやアルバム曲まで幅広く収録。歌詞の素晴らしさは、歌ネットでご確認ください♪