前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて分析し、キラっと輝くキラーチューン(名付けて“キラ☆歌”)を発掘しようというこのコーナー。今月は、ノンタイアップ曲に着目した。
これまでの連載で、ドラマや映画などタイアップ別にランキングを分析してきたが、やはりタイアップがある方が歌詞検索数の上昇、ひいてはCDや着うたでのヒットに繋がりやすいことがあらためてよく分かった。では、その真逆のパターンとなるタイアップなしでも歌詞に人気のある楽曲とはどんなものなのだろうか。今回は、そんな逆境ヒットについて分析してみた。

第15回:ノンタイアップ曲TOP15 (2010年10月:前月データより分析)
テーマ
順位
総合
順位
アクセス
指数
タイトル アーティスト 発売日
1位 4 100 泣き砂 海風 城之内早苗 2010.9.22
2位 12 65 ミスター KARA 2010.8.11
3位 20 53 ポニーテールとシュシュ AKB48 2010.5.26
4位 21 52.5 T.A.B.O.O 櫻井翔(嵐) 2010.8.4
5位 28 42.7 over 2010.9.8
6位 41 36.1 GENIE 少女時代 2010.9.8
7位 45 32.3 2人のストーリー YUKI 2010.9.15
8位 56 27.5 リフレイン 2010.8.4
9位 58 27 マダ上ヲ 2010.8.4
10位 61 26.5 1992*4##111 二宮和也(嵐) 2010.8.4
11位 63 25 RIVER AKB48 2009.10.21
12位 65 24.9 おしゃかしゃま RADWIMPS 2009.3.11
13位 66 24.9 Summer Splash! 2010.8.4
14位 75 21.6 マニフェスト RADWIMPS 2010.6.30
15位 76 21 言い訳Maybe AKB48 2009.8.26
※レコード会社が公式で発表しているタイアップ情報に基づき選別した。

 ランキング表を見ると、なんとTOP15のうち11曲がいわゆるアイドル勢が占めた。しかも、K-POPのKARA、少女時代、ジャニーズ系からは嵐、女性アイドルからはAKB48、と一部に集中している。つまり、人気アイドルの中でも“楽曲も支持されているアイドル”と、そうでないアイドルがいることがこのランキングからもはっきりと分かれていて、前者はよりメガヒットに繋がっているようだ。しかも、アイドルでもノンタイアップの人気曲は、アイドルを侮りがちな自作自演系のアーティストの楽曲よりも人気が有り、実は“楽曲”だけでも人々の心をつかんでいるのだ。

 しかし、このようなトップ・アイドル勢よりも今回上位なのが、80年代におニャン子クラブに在籍していた元・アイドルの城之内早苗「泣き砂 海風」。これは、Yahoo!ニュースに“城之内早苗 EXILE抑え有線1位”と掲載されたことが主たる要因だが、同時に人々が「1位ならば、いったいどんな歌詞なのだろうか」と、歌詞に期待していることを如実に表わしている。その意味では、ノンタイアップでもチカラのある作品は、今後“音楽ランキング→歌詞検索サイトで上昇→CD店や配信サイトで注目度アップ”という流れでのヒット・パターンが、今後増えていくかもしれない。重要なのは、有線など局所的な1位で制作サイドが自己満足することではなく(それで終わってしまった“有線ヒット”は星の数ほど存在する)、その人気を多くの人に知らせて本当のヒットに繋げること、そしてその橋渡しとして歌詞検索サイトでも注目されることだろう。

 ノンタイアップTOP15中、最多の6曲ランクインさせているのが嵐。うち5曲が、オリジナルアルバム『僕の見ている風景』の収録曲で、いかに今の嵐が幅広く、そして深くファンが浸透しているかが分かる。その5曲中、KinKi Kids「硝子の少年」風の「リフレイン」、二宮和也の作詞能力が開花した「1992*4##111」(←意味はau携帯を触って確かめましょう)を除くと残り3曲はいずれも櫻井翔のいわゆる“サクラップ”が登場する楽曲というのも興味深い。また、アルバムのdisc1,disc2から万遍なく人気なのも凄い。つまり、ちゃんと聞き込まれているのだ。(90年代のアルバムならば、前半の3〜4曲に人気が集中して、それゆえベスト盤が出れば、すぐに中古に売り飛ばされていたのとは雲泥の差!)

 他には、YUKIの最新曲とRADWIMPSの2曲がランクイン。彼らの安定したセールスが多い理由には、歌詞が非常に重要な位置を占めているということだろう。逆に言えば、今後の新人でも、彼らのように歌詞が信頼されるアーティストとして育っていけば、アイドル的な芸能活動が少ないとしても、長期的な人気が期待できるということだ。
 以上のように、ノンタイアップ曲の大半はアイドルやロック勢の、既にカリスマ性の高いアーティストが占めていることが分かったが、その一方で今回の1位の城之内早苗のように、キッカケ次第で注目されるノンタイアップ曲もあるということだ。総合TOP20のうち、ノンタイアップ曲はわずか3曲(しかも2曲はアイドル勢)という事実からも、いかに貴重なパターンだということが分かるだろう。




「ミスター」
KARA

 城之内早苗のレコード会社移籍第1弾となる通算20作目のシングル(布施明とのデュエット作「この街で」を含む)。イントロで慟哭するようなトランペットの音色から、冬の日本海を彷彿とさせる哀愁歌謡。しかし、かぐや姫「神田川」などの喜多條忠が作詞、中森明菜「難破船」などの若草恵が編曲することで、決してドロくさくなく、穏やかに聞ける仕様。そこには、哀しみに耐えるような切ない歌唱と、泣き叫ぶような熱唱を使い分けるという絶妙なバランスによる所も大きいだろう。デビュー25年目だからこそ成せる熟練の業を感じさせる。ドラマティックな楽曲構成から、カラオケで歌いたい人も多そうだ。
 なお、カップリングは、24年前オリコン1位となったデビュー曲のニュー・バージョンを収録。力みっぱなしだったオリジナルよりも、前半はより可憐に、サビはより鮮伸びやかに、歌っていてこちらも安心して聞ける。デビュー当時、アイドル的な勢いで不当に(?)売れすぎたせいか、その後は逆に正統派歌唱が認められず20年以上TOP50に入れずに過ごした彼女。しかし、近年の作品には、そんな下積みが活きていて、歌声からも彼女の優しさや朗らかさが感じられ、それはまさしく今のエルダー世代が求めている部分だ。それゆえ、この秀作をキッカケに復活を遂げる気がする。

 


ここではデビュー1年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。


 今月は、ノンタイアップ曲でも第2位の「ミスター」を歌う5人組アイドルグループのKARAに注目。彼女たちは、2007年3月に韓国でデビュー、その後2009年頃では同国のヒットチャートで1位を獲得するようになり、日本でも話題が高まってきた中で、今年8月11日にシングル「ミスター」で日本デビュー。♪NaNaNaNaNa〜というキャッチーなメロディーと、インパクトの強いヒップダンスが特長的で、これを日本デビュー曲に持ってきたスタッフのセンスの良さも見事。しかし、何より女子が真似したくなるようなファッションセンスと、それでいて到底真似できない部分=リズム感やダンスのキレという“親しみ易く、近寄りがたい”というバランスが絶妙(だからといって、渋谷のど真ん中でイベントを強行し、3分で終わらせるなんて確信犯すぎ!(笑))。9月29日には、韓国での活動を集大成したベスト盤『KARA BEST 2007-2010』を発表、こちらには韓国語バージョンの「Mr.」も収録。これを機に、女子ファンの厳しいジャッジにも堪えうる歌、ダンス、スタイルと三拍子そろった日本人アイドルグループが出現することにも期待する。




K ARA



つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と熱に満ちた連載を継続中。10月20日に岩崎宏美さんのカバー・シリーズ『Dear Friends』の5枚を集めた高音質CDと特別DVD、さらには60ページブックを付けた『Dear Friends BOX』が発売されます。そのライナーノーツを担当しましたが、デビューから35年経っても彼女が愛される理由がなんとなく分かりました。やっぱり、努力と感謝って、人生においてかなりの位置を占めているなぁ〜。(←今頃気付くなんて遅すぎ(苦笑))