前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて分析し、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて"キラ☆歌")を発掘しようというこのコーナー。今回は、前回とは真逆にタイトルの文字数の少ない人気曲をランキングしてみた。
前回、タイトルやバージョン名を長くすることで、その楽曲のイメージをより具体的にイメージしやすくなるという効能を考察したが、それとは対照的に短いタイトルだとどのような楽曲傾向になるのだろうか。詳しく見てみよう。
第35回:短文タイトルランキングTOP15 (2012年6月:2012年5月のデータより分析)
テーマ
順位
歌詞
順位
アクセス
指数%
楽曲名 アーティスト CD発売日
1位 1 100 私たち 西野カナ 2012/5/23
2位 3 48.7 ハルウタ いきものがかり 2012/4/25
3位 5 42.4 告白 平井堅 2012/5/30
4位 7 37.2 オレンジ GReeeeN 2012/4/25
5位 8 35.9 Shine 家入レオ 2012/5/16
6位 13 23.9 キセキ GReeeeN 2008/5/28
7位 15 23.1 愛してた ナオト・インティライミ 2012/3/28
8位 20 19.8 Sign Mr.Children 2004/5/26
9位 25 19.3 Be... Ms.OOJA 2012/2/29
10位 28 17.5 GIFT Mr.Children 2008/7/30
11位 31 15.7 花束 back number 2011/6/22
12位 33 15.6 サブリナ 家入レオ 2012/2/15
13位 38 14.3 しるし Mr.Children 2006/11/15
14位 39 14.3 エソラ Mr.Children 2008/12/10
15位 47 13 ずっと。 ハジ→ 2012/4/11
次点 48 12.7 箒星 Mr.Children 2006/7/5
※タイトル文字数および読み仮名数で5文字以下の楽曲の中から人気順に並べてみた。

 1位は西野カナの「私たち」。彼女は、"着うたの女王"として大ブレイクを果たし、その経緯から説明的な長文タイトルが多いと思いきや、意外にも「君って」「もっと・・・」「Distance」など短文タイトルで端的に示したものが目立つ。本作も"私たち"と聞けば、「あー、きっと女の子同士の友情ソングだろうな」というのがすぐに想像できるし、「会いたくて 会いたくて」や「たとえ どんなに・・・」など短文タイトルじゃない場合も、非常に分かりやすい。考えてみれば、着うたに強いという女性ボーカリストの中で、この分かりやすさがズバ抜けているのも、彼女の人気の秘訣なのかも。

 2位のいきものがかりの場合は、「ありがとう」「SAKURA」など圧倒的に短文タイトルが多い若手アーティストだが、彼らの場合は幅広い世代に向けた歌謡曲全"肯定"なスタンスゆえに、曲調だけでなくタイトルも短いのが多そうだ。また、例えばアルバム収録曲で比較的長文タイトルを探しても、「KISS KISS BANG BANG」や「センチメンタル・ボーイフレンド」など、まるで80年代アイドルのようなキャッチーなタイトル。西野カナのように明解さは必ずしもないものの、この「ハルウタ」しかり、歌詞を読んでみたいと思わせるタイトルが多いように思う。
5位と12位に今月の歌ネット・ルーキーにもなっている今年デビューの家入レオがランクイン。発売された2枚のシングルで、「サブリナって何のこと?」と気にさせたり、夢追いを"Shine"という言葉で象徴的に示したり、タイトルのセンスもヒットに貢献しているのではないだろうか。少なくとも、今のアイドル・グループとは大きく差別化できているだろう。

 そして、今回のテーマで最も多くの楽曲がランクインしているのが5月に20周年ベストを発売したMr.Children。2001-2005の"micro"盤も、2005-2010の"macro"盤も共に5文字以下のタイトルが、約半数となり、明らかに短文タイトルが多い。これもミスチルの歌が名作映画、名作小説を想起させるのは、もちろん作品の完成度の高さがあってこそだが、このどこか余韻を感じさせるタイトル・センスも大いに奏功しているのではないだろうか。(ちなみに、桜井和寿がカラオケの十八番と様々なメディアで公言しているaikoの「カブトムシ」や中島みゆきの「糸」も短文タイトルで、両者とも短文タイトルが多い。これも必然的?)

 前回、ソナーポケットやももいろクローバーZに代表されるように、面白い長文タイトルの旬なアーティストが増えているように述べたが、今回のMr.Childrenにより短文タイトルで名作感があらためて認識されたことで、今後は長短の両極が増えるような気がする。とはいえ、「母」「山」「川」「道」「歩」「橋」など漢字1文字シリーズは北島三郎が大半を押さえているので、注意(?)が必要だ。(ご丁寧に『"一文字シリーズ"』という企画CDまで発売されている。誰か対抗して英単語シリーズもやって欲しいなぁ〜。)




私たち/西野カナ



ハルウタ/いきものがかり



告白/平井堅
 

 通算35作目のシングル。平井堅も「楽園」「why」「Ring」「アイシテル」など短文タイトルが多いが、これも彼の歌謡曲やニューミュージックへのオマージュ魂の表れだろうか。本作は、届かぬ愛を歌った歌詞だが、これがサスペンス・タッチの曲調に乗ることで、その切迫感が増幅する様が面白い。これも、造詣の深い彼ならでは。
 しかも、本作はシングル・パッケージでの購入がお買い得。カップリングでは、(主題歌ドラマが『Wの悲劇』ということもあろうが)歌謡曲マニアの中でも"作詞家・松本隆の中での最高傑作"と言われる薬師丸ひろ子「Woman"Wの悲劇"より」をカバーしたり、アルバム前作に収録されていた沢田研二リスペクト・ソング「お願いジュリー」をこれまた歌謡曲へのリスペクトが強いヒャダインが緻密なリミックスを施したり(そのリミックス名「お願いジュリー☆ -ヒャダインのリリリリ☆リミックス-」も最高!)、「いとしき日々よ」を島健のしっとりアレンジでより上質に蘇生したりと、シングル1枚が多面的な音楽愛に満ちている。惜しむらくは、「お願いジュリー」や「いとしき日々よ」の別バージョンが収録されているのは、通常盤のみで、コミカルな平井堅満載のDVD付き限定盤には収録されていない事か。CD市場縮小の救済策とはいえ、こんな優れたアーティストまで複数買い推進仕様になるなんて、ちょっとやるせない。


※ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。
 今月で、きゃりーぱみゅぱみゅが2か月連続4度目の1位、これを追い上げる形で上昇中なのが3位の女性シンガーソングライター、家入レオだ。シングル2作でルーキー部門3位というのは、かなりの大健闘。彼女は1994年福岡県生まれの現役高校生で、今年2月15日シングル「サブリナ」でデビュー、いきなりオリコンTOP10入りを果たした。人気アニメ(『トリコ』)のテーマ曲とはいえ、インディーズでの苦労話や動画サイトでの再生回数実績がない新人アーティスト−感動的なプロモーショントークがしづらいという点で不利−、アイドル・グループのように何百枚も買ってくれるファンがいない中でTOP10入りしたということは、潜在的なファンが相当数いるものと思われる。今回の上昇はドラマ『カエルの王女さま』主題歌に起用された2ndシングル「Shine」の検索数が急増したことが要因。この1st、2nd共に、洋楽ファンも口ずさみたくなるちょっと懐かしめのメロディー、夢追いの歌詞をリアルに伝える眼力(メヂカラ)の強さ、歌声は等身大のティーンらしい繊細さという、安定と不安定の絶妙なバランスこそが彼女の最大の魅力だろう。ちなみに、CDもダウンロードも2作連続TOP10入りを果たしているので、これはアルバムで大化けの可能性大。同じ音楽塾出身のYUI、絢香に次いで1位アーティストとなるか期待したい。
順位 占有率 楽曲 初収録CD 発売日
1 65.7% Shine 2ndシングル 2012.5.16
2 28.5% サブリナ 1stシングル 2012.2.15
3 2.0% Hello 2ndシングル c/w 2012.5.16
4 1.9% カラフル 2ndシングル c/w 2012.5.16
5 1.9% ripe 1stシングル c/w 2012.2.15
   ※発表されているのは5曲のみ。


つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic
 今、私が気になっているアーティストは男性シンガーソングライターのジャンクフジヤマです。3秒聞いたら「うわっ、山下達郎のこと、意識しすぎ!」と、そのあまりの似方に拒絶反応を示しそうになったのですが、聞き込んでみると、この人の音楽愛がハンパでないことが分かるし、自分を"ジャンク"だと自虐的に認めているし、トドメにあまりにユニークな風貌だったり、ちょっとファンになってきました。今後、売れるかもしれないので要チェックです。そして、ユニークといえば、松崎しげるの12バージョン違いですべて「愛のメモリー」が収録されたメガ・ボリューム・シングル(笑)『愛のメモリー(35周年エディション)』を企画しました。よろしければ、ネタとしてお買い上げ下さい。なんたって14トラック入って1000円という出血大サービスですので♪