前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて分析し、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて“キラ☆歌”)を発掘しようというこのコーナー。今回は、苗字抜き&ニックネーム・アーティストの人気曲にスポットを当ててみた。(以下、便宜上“苗字抜きアーティスト”と略記する。)
なんとなくだが、西野カナ、加藤ミリヤ、木村カエラなどの女性シンガーがブレイクして一段落した為か、 “漢字+カナ”アーティストが一時期よりも少なくなったように感じる。(実際には家入レオもブレイクしているが。ちなみに、このスタイル、山本リンダ、夏木マリ、金子マリなど昭和40年代にも、流行しており、ある種の不思議な感覚は確実に演出できるようだ。)そして、さらに少なくなったように感じるのが、苗字抜きアーティストで、確かにMISIA、AI、MINMIなど2000年前後のデビュー組に多く見られ、新人は少ないように思える。そこで、実際、どんなアーティストがいるのか人気曲ランキングから抽出した。
第38回:苗字抜き&ニックネーム・アーティストTOP10  (2012年9月:2012年8月のデータより分析)
テーマ順位 歌詞順位 アクセス
指数%
楽曲名 アーティスト 発売日
1位 2 100 ヒカリヘ miwa 2012.8.15
2位 3 85.3 ビリーヴ シェネル 2012.7.4
3位 22 25.8 つけまつける きゃりーぱみゅぱみゅ 2012.1.11
4位 36 21.4 片想い miwa 2012.2.1
5位 37 21.3 ただいま JUJU 2012.6.13
6位 40 20.4 あなたに出会わなければ 〜夏雪冬花〜 Aimer(エメ) 2012.8.15
7位 42 19.6 ベイビー・アイラブユー(English Ver.) シェネル 2011.7.20
8位 45 18.9 crossing field LiSA 2012.8.8
9位 48 18 fight YUI 2012.9.5
10位 50 17.9 もっと愛したかった KG 2012.6.27
次点 54 16.3 441 miwa 2011.6.29

※KGは、もともとユニット名だったが、現在は本人の呼称であることからカウントした。
また、きゃりーぱみゅぱみゅは、フルネームが「きゃろらいんちゃろんぷろっぷきゃりーぱみゅぱみゅ」とのことなので、ここでは苗字抜きにカウントした。

 その結果、なんと総合TOP50内に苗字抜きアーティストの楽曲は10曲も見られた。ちなみに、“漢字+カナ”は、4曲、漢字フルネームは3曲で、実はソロの中では、苗字抜きアーティストが現在でも一番多いのだ。昨今は、女性アイドルグループ全盛で、そこに所属する女性たちの名前ばかりを漢字フルネームで見かけることから、筆者自身が錯覚してしまったのかもしれない。

 具体的に見ると、1位はフジテレビ月9ドラマ主題歌にもなっているmiwaの9作目シングル「ヒカリへ」。初のエレクトロポップ調が斬新だったこともあり、CD、ダウンロード共に過去最高の出足で、旧作「片想い」「441」も上昇していることから、本作から過去に遡って聞き始めたファンも多いのだろう。
5位にはJUJUの21作目シングル「ただいま」。彼女は1976年生まれで、他の苗字抜きで人気の女性歌手に比べ、(女性に失礼な話だが)一回りほど上の世代だ。前述のように、苗字抜きアーティストは、UAやCharaなどその上の世代にも活躍中の人たちはいるが、ここにランクインしているのはJUJUだけなので、歌詞検索に強い若手女性アー
ティスト並みに若いファンの共感を得ているということだろう。ジャズアルバムの発表で、上の年代にもファンを広げている彼女。11月発売のベストアルバムがどこまで伸びるか注目したい。

 今回は、男女ともに苗字抜きアーティストの楽曲を探してみたが、TOP10内の男性はKG一人のみとなった。総合ランクでその下を見ても、ハジ→がいるくらいで、極端に少ない。男性アーティストはバンドやダンスグループが大半で、桑田佳祐や山下達郎などのベテランを除くと男性ソロ自体が少ないが、だからこそ楽曲も名前も存在感を示せる男性アーティストの余地がありそうだ。既にナオト・インティライミ(今回はフルネームとしてランキング対象外)がブレイクしてはいるが、彼は名前も、そのキャラクターも強烈なので、もう少し正統派(?)も1〜2枠あるのではないだろうか。
 
 以上のように、苗字抜きアーティストは、実は今でも多く、しかも本名非公開のケースもかなり多いことが分かった。ファン・イベントやブログ更新など、何かとプライバシーを切り売りしなければならない時代の中で、苗字抜きアーティストだと、より音楽に焦点を当てた活動を選択出来るというメリットもありそうだ。(無論、きゃりーぱみゅぱみゅのように、それを強みとして、更に謎の行動パターンを公開していくのも有りだろう。)




ヒカリヘ/miwa


ビリーヴ/シェネル


つけまつける
きゃりーぱみゅぱみゅ
 

 本名や出身地、年齢などプロフィールの大半が非公開の女性歌手。(しかし、ハスキーな声の要因は「15歳の頃、喉を酷使し、その治療のために発声が出来なくなり、その後現在の歌声と歌唱法になった」という理由づけをしっかりアピールしているのは、今の日本が“ストーリー・プロモーション”を重視しているためだろう。)
 2011年9月にシングル「六等星の夜」でメジャー・デビュー、以降4枚のシングルを発表。本作はその4thシングルの表題曲で、過去にあった奇跡的な出逢いを振り返ったバラード。このシングルのカップリング曲「星屑ビーナス」も、別れ間際での笑顔を回顧した切ないバラード。3rdシングル「雪の降る街」(このCDシングルのペーパー・カッティング・ジャケットがなんとも斬新!)もそうだったが、どの楽曲も“大切な人と離れてしまったこと”が大きなテーマとなっており、それがAimerの儚げな声と相まって、聴き手をしみじみとさせる。世界観としては、中島美嘉に近いし、声質はUAと似た系統だし、ヒット・ポテンシャルは十分有している。人の琴線に触れられる歌声を武器に、どこまで伸びていくのか大いに期待したい。



※ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。
 今月の6位には、1991年フィリピン生まれで、日本とスペイン&フィリピンのクォーター、中村舞子が初のランクイン。彼女名義での初作品は、2010年のミニアルバム『CURE』だが、2008年から、LGYankeesの作品に参加し、特に着うたではミリオンヒットになるほど配信世代では知名度が高い。安室奈美恵や倖田來未にも共通する、ちょっと鼻にかかったセクシーな声質で聴き心地が良いためか、とりわけコラボレーション楽曲が人気で、自身名義以外でも、童子-T、ISSA×SoulJa、NERDHEAD、リサ・ハリム、SO-TA等の作品に参加し、その多くが歌詞検索で上位入りしている。
 8月22日は7曲入りミニアルバム『7→9』を発表。本作は、夏の間の出会いから、ラブラブ真っ最中、別れの瞬間、そして回想するまでを閉じ込めたコンセプト・アルバム。1曲ずつ歌詞を読むと、「えっ、そんなに早く次にいっちゃうの??」と展開の早さに驚くが、彼女の愛おしそうに歌う声やインタールードの波音などを聞くと、すんなりと納得できるから不思議。彼女より上の年代でも落ち着いて聞ける安定感のあるボーカルなので、今後は恋愛にとどまらずスケールの大きな作品も聞いてみたくなる人だ。


※大手レコード会社への移籍から2年内なので、ルーキーとしてカウントした。


順位 占有率 曲名 初収録作品 発売日
1 49.50% まだ、そばにいたい ミニAL『7→9』 2012.8.22
2 6.80% End Roll ミニAL『7→9』 2012.8.22
3 4.20% 何度目の恋でも calling 童子-T 2ndAL『HEART』 2012.1.25
4 3.50% The Answer feat. CLIFF EDGE 1stAL『Answer』 2011.1.12
5 3.10% First Desire feat.HIRO
from LGYankees, 山猿
ミニAL『CURE』 2010.1.20
 


つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic
 私の仕事ではありませんが、とても丁寧な制作ぶりなのでご紹介します。9月26日に松本伊代の30周年ベスト『オールウェイズI・Y・O [30th Anniversary BEST ALBUM]』が発売に。本人が選曲、本人作詞の新曲収録、当時の作家陣のメッセージやインタビュー、バックダンサーとの座談会、貴重なTV映像(これ、許諾を取るのが結構大変!)と、これでもか!と言わんばかりのサービスっぷり。仕事にどれだけ愛情を注ぐかで内容が変わるという好例で、とても勉強になります。