Q)往年の昭和歌謡の名曲から、桑田佳祐、井上陽水、SMAPなど最近のJ−POP、ポール・アンカなどのアメリカンスタンダード、果てはシャンソンまで、数え切れないくらい、ありとあらゆるジャンルの曲をカバーして歌われていますが、何かきっかけがあったのですか?
実は、デビューしてわりと早い時期から、古賀メロディを歌ったり、先輩方のカバーを歌って継承するってことを、やっていたんですよ。今も、昭和の流行歌のアルバムを出し続けていますけど、昭和の流行歌の中には、ジャズっぽいのもあれば、ポップなものもあるし、叙情的なものもあれば、とても暗い演歌があったりと、いろんなジャンルの歌が、流行歌としてあったんですよ。そういうのをずっとカバーして歌っていますから、洋楽は別にしても、最近のJ−POPは、全部僕のジャンルなんですよ。みんな、もともとあったんですよ…当時はね。それが、最近は、演歌とか、なんとか、ジャンル分けされてから、逆に狭くなってしまったと思うんです。
Q)選曲もご自身でされるのですか?
もちろん、自分で全部、選曲します。昭和の流行歌やアメリカンスタンダードなんかもそうですが、世の中には、いい歌がたくさんあっても、そういうのを聴く機会がない人たちもいるわけですよ。だから、そういう人たちにも、五木ひろしの歌を通して知ってもらえればいいなと思っているんです。そういう意味で、いい歌はどんどん歌っていきたいし、サザンの桑田くんなんかも、ステージで演歌歌ったりと同じようなことやっていますよね。そういう歌い継ぐということが、とても大事だと思っています。たとえば、ずいぶん前ですけど、ブラジルで「NHK のど自慢」があって行った時、現地の人が、僕がカバーした曲を歌ったんですけど、その人は、てっきり僕の歌だと思っていたんです(笑)。
Q)いろんな歌をカバーで歌われて、難しい、歌いにくいと思われることはありませんか?
外国語は、やっぱり難しいですよ、使い慣れていない言葉で歌うんですから。日本語の歌でも難しいと思うことありますよ。たとえば、昨年出したカバーアルバム「流行歌2(はやりうた2)」では、山下達郎くんの「Ride On Time」とか、コブクロの「蕾」、平原綾香さんの「Jupiter」とか歌っていますけど、最近の歌は、詞と曲のバランスが、僕らが聴いてきたころのものとは違ってきているんですよ。「この詞にこのメロディはつかないだろう…」っていうものが出てきてるんですよ。完全にメロディやサウンドありきで出来ていますからね。それに、馴染めないというか、そういうのにぶつかった時は大変難しいです。「どうして、そういう言葉がここにはまるの?」「この言葉なら、こういうメロディでなきゃだめなんじゃないの?」ってよく思いますね。自分の中にないから、なかなか入り込めないんですよ。でも、今それらを聴いている世代にとってはごく普通のことで、全然不自然じゃないんですよね。そういう意味では、自分が古いのかなぁって思いますけどね。でも、やっぱり違和感ありますよ。
Q)レコーディングの前にカラオケで歌ってみたりするのですか?
家にカラオケもありますけど、それで歌ってみることはしないですね。詞を見てとにかく聴きます。聴いて聴いて聴いて、とにかく聴きこみますね。自分が入り込めるまで。普通の演歌なら、だいたい1回聴けば歌えますけど、最近の歌は難しいですよ。先が見えないんですもん(笑)。そこには、僕の常識を超えたある種の難しさがありますね(笑)。もちろん、譜面とか見れば歌えますけど、それじゃあ自分のものになっていないんで、入り込める状態になるまで聴いて覚えます。
Q)そこまでされるのには、とても時間とエネルギーが必要だと思いますが。
大変ですよ。でもね、自分がこうして歌っている以上は、そういう最近の人気のある歌も、知っておかないといけないと思うんです。そこには、何か必ずヒットする要素があるはずですから、EXILEの歌だって知っておかなきゃいけないし、AKBの歌だって聴いておかなきゃいけないと思うんです。洋楽にしてもそうですね。昔から洋楽も聴いていましたし、最近も聴いてますよ。歌う歌わないは別にしても、聴いておかないといけないですね。洋楽も日本と同じ状況で、ラップとかはとてもできませんけど、でも、そんな中でも、メロディのいいもの、これは歌ってみたいなと思うものがありますね。アンテナを常に立てながら、それに対して、僕自身をどうするのかってことを、常に考えていますよ。
Q)これほど多くのカバーを歌われている人はいないと思いますが、これからも続けられるのですか?
でもね、ひばりさんは、若かりし頃から、ジャズとかいろんなものを歌っていましたからね。その当時の評価は高くなかったかもしれなかったですけどね。あの当時の人が、既にそういうことをやっていたわけですからね。逆に、今、やらないのが、みんなチャレンジ精神が全くないのかなって思うんですよ。だって、実際、やるとなれば大変ですもん。覚えなきゃいけないし、勉強しなきゃいけなしですし、みんな勉強するってところを避けて行っているように思いますね。出来る出来ないは別として、チャレンジ精神はないとダメだと思うんですよ。歌える限りは、ずっとやりますよ。
Q)「よこはま・たそがれ」の英語バージョン、「契り」のイタリア語バージョン、「そして…めぐり逢い」のフランス語バージョンなど、ご自身の歌を外国語でセルフカバーもされていますが。
ある種の遊び心もありますが、それもチャレンジですね。「契り」のイタリア語バージョン(2009年発売、アルバム「哀愁のヨーロピアンワールド 〜雪が降る〜」収録)のアルバムを作っている時は大変でした。イタリア語の先生に付いて、発音を練習して、とにかく聴いて聴いて、しかもそれを歌わないといけない(笑)。でも、あれが60歳の時で、その歳でそいうチャレンジが出来るっていうことも幸せなことですよね。
Q)「契り」のイタリア語バージョンは、もともとヨーロッパの歌に聴こえますね。
よく言われます(笑)。日本語でメロディーを作っているんですけどね。向こうの人が、何かの機会に耳にして知ってもらえたら嬉しいですよね。
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