100年後の誰かと語り合える歌か。

 2023年1月25日に“坂本真綾”が両A面シングル「まだ遠くにいる/un_mute」をリリースしました。タイトル曲「まだ遠くにいる」は、WOWOWオリジナルアニメ『火狩りの王』のEDテーマ曲。「un_mute」はTVアニメ『REVENGER』のEDテーマ曲です。そして、坂本真綾が作詞・作曲を手がけた「こんな日が来るなんて」がカップリング曲として収録。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“坂本真綾”による歌詞エッセイをお届け!綴っていただいたのは、今作に収録される新曲「こんな日が来るなんて」に通ずるお話です。自身が歌詞を書くとき、常に頭のどこかにある大切な視点について明かしてくださいました。ぜひ、歌詞と併せて、受け取ってください。



私が今歌っている歌を、ひょんなことから100年先の未来の誰かが偶然耳にして、気に入ってくれるかもしれない可能性について、ときどき考える。
 
私が日々聴いている音楽の中には、私が生まれる前の時代の歌もある。その声や言葉に今この瞬間心を動かされて、力をもらっていたりする。彼らは想像しただろうか。その音楽を作っている時、もしかしたら何十年も先の未来に生きる誰かにとって特別な1曲になるかもしれない、なんてこと。
 
これは、もうずっと人々の夢として想像されていながらいまだに実現しないタイムマシンなんかよりも、かなり現実味のある時間旅行への切符かもしれない。もちろん、時の流れは一方通行で行き来ができるものではないけれど。
 
あるいはボトルレターみたいに、一か八かで放ってはみるけど、誰かに届く保証はない。運良く拾ってくれた人がいたとして、その人が気にとめるとも限らない。だけど、時を超えて国境を超えて人種や宗教や文明を超えて、もしかしたら信じられないくらい遠くまでたどり着くことができるかもしれない。
 
私が死んで、もう覚えていてくれる人なんて誰もいないくらい時が経って、その頃何かのきっかけで私の歌を再生する人が一人でもこの世に存在するとしたら。だいぶロマンのある仕事をしているのかもしれないな、と思う。だから適当なことは書けないぞという緊張感もあるし、目の前の瑣末な問題に心を煩わせている場合じゃないやというバイタリティーも生まれる。
 
100年後、文明は驚くほど進化しているかも。あるいはすごく困窮した時代なのかも。人口は違うだろう、自然の在り方も違うだろう。でもそこにいる人間は相も変わらず恋をしたり、生きる意味を探したり、失って傷ついたり、間違いを犯しながら成長して、愛や幸せを噛み締めたりしながら生きているに違いない。きっとどの時代に生まれても、人間の生きる姿ってそんなに変わらないんじゃないだろうか。だったら、今私が考えてることや伝えたいことばを、遠い未来でうなずきながら聴いてくれる人だって、いるんじゃないだろうか。
 
そんなわけで私が歌詞を書く時、誰かに寄り添いたいとか、自分の想いをぶちまけたいとか、何かを伝えたいとかいろんな思いはあるけれど、それと同時に常に頭のどこかにあるのは、100年後の誰かと語り合える歌かどうか、という視点。
 
ちょっと大袈裟な話ですが、わりと本気なのです。

<坂本真綾>



◆紹介曲「こんな日が来るなんて
作詞:坂本真綾
作曲:坂本真綾

◆両A面シングル「まだ遠くにいる/un_mute」
2023年1月25日発売
初回限定盤 VTZL-220 ¥3,300(税込) 
通常盤 VTCL-35349 ¥1,540(税込)
 
<収録曲>
01.まだ遠くにいる
02.un_mute
03.こんな日が来るなんて
04.まだ遠くにいる -Instrumental-
05.un_mute -Instrumental-
06.こんな日が来るなんて-Instrumental-

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