不自由な自由

 “ビジュアルからインスパイアされた曲を作る”をコンセプトにした、アマアラシと千鎖による男女混声ユニット・ミセカイが、2024年2月7日に1stアルバム『Artrium』をリリース! 今作には「アオイハル」や「104Hz」などこれまで発表してきた7曲に加え、アルバムのために書き下ろした新曲が収録。彼らの「足跡」と「未来」が詰まった作品となっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな“ミセカイ”のアマアラシによる歌詞エッセイを3週連続でお届け! 第1弾は収録曲「コインロッカーベイビー feat.泣き虫」にまつわるお話です。この曲がどのように形になっていったのか。元イラストから何を受け取ったのか…。また、今回は音声版もございます。ぜひ本人の朗読と併せてお楽しみください。


アマアラシの朗読を聞く
<踊り明かそうぜ、すべて蹴飛ばして>
 
この曲のレコーディング予定は10月29日、この曲のインスパイア元イラストが決まったのが10月17日だった。
何も音楽が生まれていない状態でレコーディング日だけは確定している、そんな状況だった。
このサビの一節は、とんでもないスケジュールの中で制作していて早く温泉にのんびり浸かりたい一心だった自分の心情が現れたんだろうなと、無事予定通りにアルバムを発売できる今は呑気に思えている。
 
遡る事6月、Feat.泣き虫さんということで、尊敬する大先輩を迎え入れての楽曲制作が決まった。もちろん気合十分。
しかし元ビジュアルがなかなか決まらない。決まったと思ったら権利の問題で使用できなくなってしまったり、途中で連絡が取れなくなってしまったり。
制作途中で頓挫してしまったデモ音源も無論沢山あり、自分の感性を浪費している感覚と“自分たちにもっと影響力があれば”と嘆くことしかできない日々が募り気づけばそこから3ヶ月が経っていた。
 
そうした状況で巡り合った亞門弐形さんのイラストは、自分の感性にはない狂気で溢れているように感じた。けれど決して怖くはなかった。
吹き荒れた感情ではなく、例えるならサイコパスを演じる聖者のような、あくまで美しい理性が舵をとり続けているような、そんな二面性を感じてその時の自分には子供も救世主に見えた。
 
華奢な身体に浮浪者と呼ぶべき身形、背後には血の滴るロッカー。状況だけ見るなら圧倒的弱者であろうアルカイックスマイルをこちらに向けている彼は、あくまで“人生の主役は自分だ”と僕に訴えている。
 
僕にはその強さが心の根っこに張られたものだと受け取った。けれど虚勢だと、そもそも強さなんてない、と受け取る人もきっといる。
結局受け取った気でいるものは自分がそう思いたいだけなのかもしれない。
新しく創造された音楽の大半が今までのインプットの掛け合わせでしかないように、元ビジュアルが示すもの(と自分で思い込んでいるもの)=僕の人生で得た主観と俯瞰のバランスが丁度いい所なんだと思う。
 
そう考えると俯瞰も主観の1番外側だ。
それって恋人にするなら内面が大事か外見が大事かって論争と少し似ている気がする。
 
余談だけれど、僕は人と眼を見つめて話すとその人が嘘ついているかどうか分かる。と思っている。
たまたまかもしれないけど。
今までの人生でそれが外れた事は残念ながらまだ一度もなくて、だからこそ大切な話し合いの時目を合わせて人と話すのがとても怖い。疑いたくない自分と経験上確定だと脳内で叫び散らかすアラートでぐちゃぐちゃになる事が何度もあった。
なので僕は外見は内面の1番外側だと思っている。
<踊り明かそうぜ、すべて蹴飛ばして>
なんて言ってみても、実際僕にそんな行動をとれる勇気はない。
どう見られるかという客観的目線で考えたのなら、それも内面の1番外側だからだ。
 
けれどこれは「僕が描いた音楽」であって「僕の音楽」ではない。
“当たり前のことのように聞こえる”のではなく実際当たり前のことだ。
ミセカイの掲げる“ビジュアルからインスパイアされた楽曲を作る”という、自ら窮屈さに身を置いているとも捉えられるコンセプトの行き着く先はこれが全てで、そこには自由と新たな可能性が詰まっていると思う。
 
音楽においての“自由”は作り手の行動力・行動原理あってのもので、さらにそこには経験・知識が伴って、そして最後は自分の感性を頼りに一つの曲にしていく。
その時点で既に自由の定義は作り手それぞれ千差万別で、結局は自分のインプットの中で納得のいく選択をし続けているだけなんだと思う。
 
「食材は何を使ってもいい、なんでも好きな料理作ってください」よりも
「ジャンルは中華、エビは必ず使ってなにか創作料理を作ってください」のように絞られた中での選択がある方が僕にとっては自由だと思える。
そして聞き手も楽曲の先に僕ではなくビジュアルを想像する。
それこそがミセカイのコンセプトの持つ「不自由な自由」であると僕は思う。
 
内面の1番外側であっても、自分の行動原理にそぐわなくても、表現することはできる。
 
音楽の中でなら僕は踊れて、蹴飛ばして、叫べる。
 
コインロッカーベイビー、今までのシングル曲に対して反撃の狼煙となるような位置付けの楽曲。
僕達らしくない、けれど明確に僕達から生まれた異端児がArtriumという空間をどこまでも大きく広げ、アルバムを引っ張っていってくれると信じている。
 
<ミセカイ・アマアラシ>



◆1stアルバム『Artrium』
2024年2月7日発売
『Artrium』特設サイト:https://misekaimusic.com/

<収録曲>
 
1.{ New World
2.アオイハル
3.104Hz
4.Ever
5.カラフル
6.C.A.E.
7.藍を見つけて
8.浮きこぼれ
9.催涙夜
10.コインロッカーベイビー feat.泣き虫
11.スクレ
12.Re-plica
13.唄を教えてくれたあなたへ
14.World End }

◆2/7(水)21時~ MV YouTubeプレミア公開!