コンプレックスに刺されて

 2024年12月11日に“十明”がファーストフルアルバム『変身のレシピ』をリリースしました。全12曲に加え、デビュー前にTikTokで公開されていた人気曲「人魚姫」をボーナストラックとして収録。ちょっと気が強く、ある種異端的な考えを持ちながら、理想の自分へ向けて「変えたい」「変わりたい」とひた生きる女の子たち。そんな主人公像に寄り添いながら、鮮やかな歌声で13篇の物語を彩ります。
 
 さて、今日のうたでは“十明”による歌詞エッセイを2週に渡りお届け! 今回は第1弾です。今作『変身のレシピ』に詰め込まれているものとは…。コンプレックスを抱えるあなたへ、変えたい変わりたいあなたへ。今作と併せて、エッセイを受け取ってください。



変化は常に意思に基づくものでありたいと思う。
変化したいと願う、今の自分ではいられない、そう思わせるコンプレックスこそがわたしの姿である。
 
 
血管のように頭から足先まで巡らされたコンプレックスがどろどろと身体と心を支配して、わたしはずっと閉じ込められているみたいだった。
 
「こんなじぶんではいられない」
早く殻を破って、解放されたい。
そんなことを思いながら、存在してしまっていた。
 
誰かに許されたかった、こんなわたしでも。
 
そうして数年前、やっと縋り付いたのが歌うことだった。SNSに投稿した弾き語りから、「すずめ」という楽曲を歌わせてもらえることになった。
 
歌声を認めてもらったら、わたしの存在そのものも世間に認めてもらいたくなった。だから曲を作った。
 
コンプレックスが初めて役に立った瞬間だった。
果てしない劣等感や焦燥感は表現として受け入れられた。今やどくどくと脈打つそれがわたしを生かし、動かし、歌わせている。
 
『変身のレシピ』は、そんなわたしの姿を曝け出すようなエグみがある曲を詰め込んだ、自己紹介アルバムである。そして、歌という呪文でわたしを"十明"に変身させるためのレシピ本でもあるのだ。
 
 
 
このアルバムの楽曲たちは、それぞれがある物語に基づいて作られている。
 
素敵な物語はいつだってわたしを逃がしてくれた。
自分の存在しない世界の優しさ、穏やかさ。そして孤独からの解放。
 
だけど、時々物語の世界から自分の存在を完全に消すことはできなくなる。物語を自分のコンプレックスに重ねてしまうのだ。そうして紡ぎ直された物語のキャラクターは、いつもこう望んでいる。
 
美しくなりたい。
強くなりたい。
愛されたい。
 
愛され方を知らなかった人魚姫も、美しさを失えなくなった白雪姫も、誰かに認めてもらいたくて強くなりたいシンデレラも、みんなわたしだ。
 
みんなわたしのコンプレックスから生まれた。
 
みんな弱くて、狡くて、悲しくて、欲しがりだ。
コンプレックスが消えることはないと知りながら、抗う者たちだ。
 
だからどうか、この『変身のレシピ』に出てくる彼女たちを、許してほしい。綺麗なことばかりは言えない。彼女たちは、矛盾に満ちていて、人を傷つけ壊そうとすることさえあるだろう。そんな彼女らを、肯定するでも否定するでもなく、受け入れてほしい。
あわよくば、愛してほしい。
それは、わたしであり、コンプレックスを抱える誰かだから。
変身したくてたまらないあなただから。
 
コンプレックスに刺されて、
わたしは変身する。
 
<十明>


◆ファーストフルアルバム『変身のレシピ』
2024年12月11日発売
 
<収録曲>
1 灰かぶり
2 Discord-disco
3 僕だけが愛
4 メイデン
5 NEW ERA
6 夜明けのあなたへ
7 Dancing on the Mirror
8 蜘蛛の糸 (変身のレシピ mix)
9 るららのワルツ
10 君のヒーロー
11 魚服記
12 革命
13 人魚姫