“Sensei Said It” - 校長センセを知る方にインタビュー

 2025年2月12日に“Dreamers Union Choir”が配信シングル「校長センセ宇宙人説」をリリースしました。同曲は、2月2日からNHK『みんなのうた』で放送されて以降、“耳に残る”、“おもしろくてクセになる”など、リリース前からSNSで話題の楽曲となっております。メジャーデビュー日に公開されたMVも併せて、ぜひチェックを!
 
 さて、今日のうたではそんな“Dreamers Union Choir”の木島タローによる歌詞エッセイをお届け! 綴っていただいたのは、新曲「校長センセ宇宙人説」にまつわるお話。この歌で噂されている<校長センセ>を知るQ氏(仮名)へのインタビューを敢行し、私たちに届けてくださりました。また、今回は音声版もございます。本人の朗読も併せてお楽しみください。


木島タローの朗読を聞く

NHKみんなのうたで「校長センセ宇宙人説」が放映された後、あの校長センセを長く知っているというQ氏(仮名)にインタビューをすることに成功した。 
 
インタビューの場所は、とある学校の応接室だったが、場所の詳細や、どのようにしてQ氏にコンタクトできたかは非公開とさせていただく。 


私:今日はお時間を取っていただいてありがとうございます。 
 
Q氏:いえいえ、彼のことが噂になっていて楽しいですね。彼はかなり遠くに行っているのでお会いできないようですが、私にわかることがあればお話しします。 
 
私:ちょっとベタな質問からかもですが、校長センセのことを子どもたちが宇宙人じゃないかと噂していました。実際はどうなのですか?(笑) 
 
Q氏:ああ、そうですね、宇宙人ですよ。私も、あなたもそうだと思いますし、子どもたちもね(笑)。この地球も含めて宇宙ですし、宇宙っていいところですよね。 
 
私:…はは、そうですね。でもそういう意味ではないのですが…つまり、地球外生命体かということなのですが。
 
Q氏:ああ、そうですね。それはわからないです。私も、あなたもそうだと思いますし、子どもたちもね(笑)。
 


Q氏が私をからかっているとは思わないが、どうも気のいいAIと話しているような印象を受ける。
あまり質問を深掘りしても、答えが繰り返されるような予感がする。 



私:校長センセは何ヶ国語か喋れるのですか? 知らない言葉で話すのを子どもたちが聞いたそうなのですが。
 
Q氏:ああ、そうですね。私も彼が聞きなれない言葉で誰かと通話しているのを聞いたことがあります。何語かわからなかったのですが、楽しそうでしたので、かなり喋るのでしょうね。
 
私:左のほっぺのほくろからビームを出すとかいう噂もあったようなのですが。
 
Q氏:ああ、ほくろはありますし、毛も生えていたような気がしますが、ビームはちょっとわかりません。出すにしても何のためのビームかもわかりませんし、ビームならそこから出さなくてもいいように思いますし。ただ、何かそういうものを出してもおかしくないような空気を持った人ではありますね。 
 
私:そういう変な噂を彼は否定しなかったのですかね?
 
Q氏:わざとほくろ毛を生やしていたわけではないでしょうが、噂は放っておいたのでしょうね(笑)。彼は「人間は言葉を入れる器だ」と言っていました。「器が面白くてみんな言葉に興味を持ってくれるならいいじゃないか」ってね。 
 
私:なるほど、そうして彼が子どもたちに残した言葉は、子どもたちにとても特別なものに響いたようですね。 
 
Q氏:そうですね。彼が話してくれたことがあるのですが、彼は「先生」の仕事を「自分を救ってくれた言葉」と「自分を救ってくれるはずだったのに誰も言ってくれなかった言葉」の二つを子どもたちに伝えることだ、とそう言っていました。 
 
人を愛し、人をゆるす、それは、彼が先生と呼んだ人たちから彼が学んだことだそうです。それは長い間、彼の地元で伝えられてきたとても大切なことだそうで。「ゆるすとは、ゆるせることをゆるすことではなく、ゆるせないことをゆるすことだ」と教わった、と言っていましたね。 
 
「ばかげた夢こそ見続けなさい」、それと「変わらない世界を変えなさい」、それは、「誰も彼に言ってくれなかった言葉」だそうです。変わらない世界を憎みながらでは、夢を叶えることはできない。人を愛することと夢を見ることは別々のこととして教わったが、それらが1セットの出来事なのだいうことは、誰も教えてくれなかった、と言っていました。 
 
私:なるほど。それが「自分を救ってくれた言葉」と「自分を救ってくれるはずだったのに誰も言ってくれなかった言葉」ということですね? 
 
Q氏:自分を救ってくれたはずというか、自分の地元を? 自分の星を? なんかそんなことを言っていたような…。戦争について何か言っていた気もしますが、何だったかな。 
 
私:何でしょう、ずいぶんむかし苦労なさった方なんですかね?  
 
Q氏:そうですね。私も、あなたもそうだと思いますし、子どもたちもね(笑)。
 
私:子どもたちが? どういう意味ですか? 
 
Q氏:子どもっていいですよね。記憶や経験に凝り固まって狭い世界にいる私たちと違って、何の記憶もないまっさらな脳みそで生まれてくる。新しい世界って、まさに世界についての彼らの新しい理解から生まれるんでしょうね。だから彼は子どもたちに新しい常識を伝えるんだと思います。 



何か話をはぐらかされているような気もするが、Q氏の言葉には柔らかな説得力があり、不審点につっこむよりも別の質問を続けたくさせられる。 
 


私:やっぱり、変わらない世界を変えなさい、っていうのは、新しい常識なんですかね?
 
Q氏:そうですね。彼が言うには「世界は変えられる」って教えると、あとで「センセは嘘つきだ」と言われかねないというのです。大人たちは変わる気がないからです。 
 
子どもたちの頭はいつも世界を変えるアイディアでいっぱいです。それで、子どもたちは大人にたくさんの提案をします。「こうすればもっと楽しいよ!」とか、「こうすれば平和になるよ!」とかって。彼らはウキウキしながらそのアイディアを大人に話すのですが、大人たちが子どもたちのそういう意見に興味がないことを知って、すっかり世界に失望するのです。 
 
だから、「君たちの意見を大人たちは理解できない。だから、それを世界に聞いてもらうためにはたくさんの工夫が必要なんだ」と、彼は子どもたちに言っていました。世界は変わらないということを最初に伝え、その変わらないという大前提に挑む。それが夢を見るというゲームで、ワレワレの目的なんだ、と言っていました。 
 
私:あ、気になってたんです。彼の言ってた「ワレワレ」って誰のことですか? 
 
Q氏:私や、あなたや、子どもたちのことみんなだと思いますよ。
 
私:そうかもしれませんが、子どもたちに「ワレワレは待っています」と言い残した、その待ってるワレワレ、っていう人たちのことです。 
 
Q氏:ああ、彼が誰のことを指してワレワレと言ったのかはわかりませんが、すごくいいじゃないですか、子どもたちにとっては。自分たちが世界を変えるのを待っててくれてる誰かがいるなんて。それが彼一人だったら、彼はいつか世界からいなくなってしまうかもしれませんが、彼のように考える「彼ら」がどこかにいるんだったら、どこかでずっと待っててくれるじゃないですか。子どもたちの夢が世界を変えるのを。
 
そのことはずっと覚えててほしいなあ。夢を追いかければ心が折れそうな時ってきっとありますよね。その時に、校長センセたちが待っててくれるって思えたらもうひとがんばりできたりするんじゃないですかね。 
 
私:なるほど、そうですね。最後に一つなんですが、校長センセは自分についての歌が今こうして多くの人に聞かれていることについてどう思っているのですか?
 
Q氏:ああ、楽しんでいましたよ。「歌は言葉を入れる器だ。器が面白くてみんな言葉に興味を持ってくれるならいいじゃないか」って。
 
私:そうですか。それならば彼の噂を歌にすることができて本当によかったです。今日はありがとうございました。
 
Q氏:はい、ありがとうございました。
 


Q氏はお仕事中でこれから授業ということだったため、短いインタビューで終わった。 
授業の差し支えになるといけないので、インタビューの場所やQ氏の身元については非公開でお願いします、とのことで、例の校長センセの所在も同様の理由で伺えなかった。
 
もちろん、取材にあたってそのような秘密を守るのは当然のことだが、実際のところ、インタビュー場所や、どのようにしてQ氏にコンタクトできたかについて、奇妙なことに、私はよく思い出せないのだ。
 
<Dreamers Union Choir・木島タロー>



◆紹介曲「校長センセ宇宙人説
作詞:木島タロー
作曲:木島タロー

◆配信リンク:https://lnk.to/kochosenseuchujinsetsu