夢の跡

 2025年9月3日に“松室政哉”が4th Album『Singin’in the Yellow』をリリースしました。今作は松室が2025年の音楽活動の指針としている「ハッピー・多幸感」をテーマに、編曲から演奏・歌唱に至るまでのほとんどの作業を自身で行う“DIYスタイル”で制作。荒々しさもありながら、松室のポップネスがこれまで以上に前面に押し出されたカラフルなアルバムとなっております。
 
 さて、今日のうたではそんな“松室政哉”による歌詞エッセイをお届け。最終回は収録曲「夢の跡」にまつわるお話です。アルバムの最後を彩る、自身に今までなかったタイプのバラードが生まれたきっかけは…。ぜひ楽曲とあわせて、エッセイをお楽しみください。



この曲は、石田玄紀くんのスタジオで制作した。
最初から「アルバムの曲を作ろう」と決めていたわけじゃなくて、なんとなく「良いのができたらいいよね」くらいの軽い気持ちで、彼のスタジオに遊びに行ったのがきっかけだった。
 
5月のはじめ。まだ夏が来る前の、よく晴れた気持ちいい日だった。彼のスタジオには大きな窓があって、そこから差し込む日差しが柔らかくて、空気も穏やかだった。その空気感に引っ張られるように、玄紀くんがピアノでふとコードの流れを弾いてくれた。シンプルなのに、優しさをまとった進行だった。
 
そこからは、あーだこーだ言いながら他のトラックを重ねていく。その間に、僕の中でメロディーが少しずつ浮かんできた。
サビはロングトーンにしたいなと思って、その場でエセ英語(意味のない音だけの仮歌)でメロディーを入れてみた。コーラスワークも、同じタイミングで自然に乗っけていく。
 
このあたりで、「これはアルバムの最後に入る曲かもしれない」と直感していた。
次の日、できたばかりの仮デモをスタッフに聴いてもらったら、概ね評判がよくて、そのまま完成に向けて動き出した。
 
歌詞は金木和也にお願いした。僕が伝えたのは、「何か大きな冒険を終えた後の帰り道のような、夕暮れの道を、少し疲れた主人公が歩いている感じ」。かなりぼんやりしたイメージだったのに、彼はその空気をちゃんと受け取って、時の流れの残酷さと美しさが共存する、美しい言葉にしてくれた。
 
「風とは呼べないほど 穏やかな風」──それはたしかに、あの日スタジオに吹いていた風だった。デモのサウンドを聴いて、それを言葉にしてくれた金木はやっぱり頼もしいなと思った。
 
出来上がったこの曲は、松室には今までなかったタイプのバラード。
玩具箱のようににぎやかなアルバムの最後を、優しくまとめあげるエンドロールのような一曲になったと思う。
 
<松室政哉>



◆紹介曲「夢の跡
作詞:金木和也
作曲:松室政哉・石田玄紀

◆4th Album『Singin’in the Yellow』
2025年9月3日発売
 
<収録曲>
1.未来ある馬鹿者からのセイハロー
2.渚のメイキャップ
3.ふたりよがり feat.金木和也
4.コンバート
5.うるう
6.人生はロマネスクさ
7.ゆとりましょう
8.Singin’ in the Yellow
9.世界中を敵に回しちゃうな
10.夢の跡