―― 今作に収録されている4曲を作るために、夏合宿が行われたんですよね。どんな話の流れで行くことになったのでしょうか。
先ほどもお話にあげていただいたように、ここ数年ありがたいことに、タイアップをいただく機会が多かったんですよね。そういった状況のなかで、100%の力で返していくということを続けてきて。ただ…その状況って、内側にいたらすごくハッピーで、しかもやりたいこともやれているので、後悔はないんですね。でも、外側から見たときに「このひとたち曲を書かされているのかな」って気持ちになったら残念だなと思って。僕はsumikaのイチメンバーなんですけど、イチファンでもあって。そのsumikaというバンドに対するファン心が一瞬ざわついたときがあったんです。それはもう正直にメンバーに話そうと思って、「そういうふうに見られちゃったらもったいないよな、違うのにね」って話をしました。
これまで、メンバー以外の方にいろんな力をいただいて、おんぶにだっこという状況ではあったんです。先に〆切を決めてもらって、それに対してやっていくというか。そこを今回はメンバー4人という最小単位で、今までやったことがないところから作っていくのも楽しいんじゃないかなって。だから「この曲たちを詰めたいから合宿に行く」ではなくて、「まずは0から1を作る人間としての絆をさらに強固にすべく、俺たちは山に籠ろう!」っていう感じで(笑)。少年漫画みたいなことがしたかったんだと思います。
―― 長年一緒にいるメンバーでも、合宿でともに生活をするといろんな新しい発見がありそうですね。
そうなんですよ。意外とメンバーの日常生活って全然知らなかったから。めちゃくちゃ面白かったですね。音楽をやっている以外の時間もメンバーと一緒じゃないですか。ご飯を食べたり、掃除をしたり、お風呂に入ったり。そういうところを目にして「へぇー、普段こういう感じなんだね」ってわかったことによって、メンバーというものを想像したときの情報量や解像度がすごく増えた気がしますね。
―― 4曲それぞれのテーマはどのように決めていったのですか?
最初に「どういうものを表現したいか」を話し合いました。まず今年のリリースの流れを見ていて、それこそ喜怒哀楽のなかだと「怒」や「哀」の感情メーターがちょっと下がって見えた気がしたんです。でもそれは人間として当たり前のように持っているものだから、アウトプットしたいって話をして。「毒」がテーマの曲を作ろうってところから、1曲目の「Babel」は始まりました。2曲目の「アンコール」は、冬だからバラードを作りたいとか。そういう大きな枠組みから決めていって。その枠組みに対して、合宿で作った曲だったり、それぞれのボイスメモに入っていた曲だったりを合わせて、一日に20数曲ぐらい録って。そのなかから「このパートはここかな」とかパズルをしていった感じですね。すごく楽しかったです。
―― 1曲目「Babel」はすでにMVも公開されております。ファンの方からの反応はいかがですか?
やっぱり怖いって言われます。MVなんてだいぶサイコでしたよね。僕もあれ観ていて怖いですもん。怖いって言われる機会って、僕ほとんどなかったんですよ。周りから「よく笑っているよね」って言われるし、自分でもその感覚はあるし。でも、それが逆に怖い方向に作用したらいいなと思っていたので、よし!という感じです(笑)。
―― 「sumikaの新境地」という印象もありますが、歌詞は難産でしたか?
いや、これはスラスラ書けましたね。この聴こえでこの表記だったら、みんな気づかないだろうなっていう意味合いの仕掛けもいっぱい作って、めちゃくちゃわかりづらく忍ばせました。あまり深く考えずに、遊び心で感じたままに書いた歌詞ですね。
―― ハッとするようなワードが潜んでいますよね。<サイコ記念死す>とか<岐路Km帰路>とか。
歌詞カードというものをすごく大切にしていて。もちろんCDに封入されている物理的なものもそうですし、それこそ歌ネットさんで見ることができるようなテキストもそうですし。文字になったときに驚けること、そこが立体的であることって、結構大事だと思うんですよね。聴こえたままのものがあると平面に感じてしまうというか。そう考えると、こういう書き方をしたほうが面白いだろうなって。このブロックはとくにそうですね。
―― <せからしか せからしか>は博多弁で「やかましい」という意味の言葉なんですね。
曲を作っているときにツアー中だったというのもあって、各地で聴こえてくるワードがいろいろあったんですよね。方言が良いフックになったら良いなと、言葉遊びをしてみました。あと僕は出身が神奈川県なんですけど、自分が生まれ育った街では使われてないワードを使うことで、感情を外に逃がしているところもあります。「うるさい うるさい」って言葉にするのとはまた違った感情を伝えられるのかなって。
―― この主人公は<あなた>に対して<気を配ったり 服無理したり 文選んだり>自分を偽っていた部分もあると思うのですが、この<せからしか せからしか>で思わず方言が出て、素の感情が溢れてしまっているイメージも湧きました。
あー!それもありますね。まさにここからどんどんギアが上がっていきますし。なんか方言って、かしこまってない口語なので急に日常感が出てくるというか。テキストに起こすことも少ないじゃないですか。それが歌詞になることで、より急な温度感が出ますよね。鉄ぐらいに冷たいと思っていたのに、36.2ぐらいの体温を感じちゃうというか(笑)。そういう生々しさも落ちサビなので必要でしたね。
―― また、歌詞の前半と後半で対になっているようなフレーズもありますね。たとえば<一生涯>というワードは、前半では<一生涯一緒って思っていた>と綴られていましたが、後半ではそれが<一生涯 さようなら さようなら>と意味がひっくり返ったり。
この曲はそういうフレーズがいっぱいありますね。リフレインしている<さようなら>もそうですね。<さようなら>って別れの言葉でもあるし、「それならば」っていう意味もある。だから、何回も何回も使っているワードで、ずっと同じ表記なんですけど、最後は「それならば、こうするね」と繋がるようにしたかったんですよね。
もっとも使っているワードを最後にひっくり返すのがいちばん面白いかなと。でもそれを最後だけ漢字にしてしまっても「やってやった感」が出るから、表記は変えずに。何回も聴いているのに、実は意味がころころ変わっていたというような歌詞が結構好きですね。この曲はライブでもやっていくと思うんですけど、きっと「ライブで聴いたら違う感情になりました」ってこともあると思うんですよ。ここから育てていくのが楽しみな1曲ですね。
―― ちなみに「Babel」のような毒気がある歌詞は、ご自身としてはまったくの新境地なのでしょうか。それともその片鱗はこれまでも楽曲やご自身のなかにあったものなのでしょうか。
今までこういう歌詞の楽曲をリード曲にしたことはありませんが、実はめちゃくちゃ得意だと思います。好きだという感情を表現する上で、言葉として「好き」だということが必ずしも正しいとは思っていなくて。泣きながら「大嫌い」って言ったほうが、好きが伝わることもあると思うんですよね。言葉の意味って、辞書で引いたとおりではないなって。言葉は入れ物なので、どういう感情を入れて歌っていくかで意味合いが大きく変わってくる。とくに日本語は含みがあるので、それは書いていて面白いところですね。