愛情も、愛憎も、どちらも肯定したかった。

―― 2曲目「アンコール」は「Babel」と同じく別れを描いた曲ですが、まったく伝わってくるものが違いますね。1曲目とのふり幅が大きいです。

根底は一緒なんですけど、アウトプットの仕方でこうも変わるんですよね。「Babel」も「アンコール」も最後にイコールで答えが来るものって「愛」だと思うんですね。でもその前の式が違うというか。「愛」というものに対して、愛情もあるし、愛憎もある。僕はどちらも肯定したかったんです。憎しみになるぐらい愛していた気持ちも肯定したかった。基本的に曲って自分自身に書いているんですけど、誰かが肯定してくれないとやっぱりつらい。生きづらい。だからネガティブもポジティブも肯定していきたいなという気持ちがすごくあります。

―― 「アンコール」というタイトルに、もう切なさが含まれている気がします。

photo_01です。

そうですよね。ひとつのことが終わったときの心理というか。僕らはバンドマンなので、ライブが終わった後に、アンコールをいただく機会も多いですし。あと、海外のアーティストとかに多いんですけど、アンコールしてもなかなか出てこないパターンがあるじゃないですか。必ずしも出てきてくれるわけでもないし。それでもアンコールをして「待つ」という覚悟をするような意味合いもありますね。

―― どのように生まれた楽曲なのでしょうか。

もともと、タイトル「アンコール」とサビの<あまりにも君が あまりに素直に泣くから>というフレーズだけあって、あとのメロディーはラララで、ボイスメモに入っていたんですよ。それを合宿所で合わせたときに、まずタイトルとワンフレーズは一緒に出てきたものなので、これは変えないほうがいい気がして。

そこからみんなで「じゃあなんで君は泣いたんだろうね」っていう話し合いをしました。この登場人物に何があったんだろうとか、涙の質とか理由とか、虫食い状態のところをメンバー全員で話して埋めていって。そうやって合宿所で決めたお題を、僕が家に持ち帰って完成させた曲なんです。歌詞もメロディーも今まで試したことがないプロセスを踏んで作ったので、個人的にも新鮮でしたね。

―― <あまりにも君が あまりに素直に泣くから>というワンフレーズから、「平凡な僕には釣り合わないほど 自慢の愛しい君でした」という<僕>の像も出来上がっていったんですね。

そうですね。これ、端的に見ちゃったら<君>って結構ずるいと思うんですよ。なんでそっちが泣くの!って。でも結局、惚れたもん負けというか。好きになっちゃったら<僕>はこうなるしかないよね、ってところから歌詞が出来上がっていきましたね。いやぁ…この<僕>はだいぶつらいと思いますね。

―― 歌の後半<変わらない君を 頭の中で描いて イメージしたのに 準備したのに>という部分は突然、生声のようになり、より生々しい孤独を感じました。

嬉しいです。まさに生々しい孤独を表現したかったんですよね。ラジオのオンエアを聴いてくれた方からは「お風呂の中で歌ったの?」って声もあったりして(笑)。これは部屋でギターとボーカルを一発録りしました。あと、ここからがアンコールという説もあるんですよね。この曲がひとつのライブだとしたら、ボーカルとピアノだけで幕を開けて、途中でバンドインして、生声の部分でいったん本編が終わって、ここからアンコール。そういう構成面でも「アンコール」というタイトルにかかっているなと思います。これもやっぱりツアー中だったから、自然とそうなったのかもしれないですね。

―― 健太さんは本当にいろんな主人公を描かれていると思うのですが、ご自身の書く主人公にはなんとなくこういう特徴があるなと感じるところはありますか?

なんだろうなぁ…。でもフワフワしていますね。どんと構えてないというか、あっちに行ったりこっちに行ったりしています(笑)。僕自身がそうだっていうのもあると思うんですけど。興味があるもの、固執したいものもその時々で全然違って、移ろいでいくから「今日はこうしたいけど、明日はこうしたいかもしれない」みたいなフワフワ感が如実に表れている気がします。だから主人公にもあまり一貫性がないですね。

僕は付き合う友だちもバラバラなんですよね。同性異性関わらず、こういうタイプのひととよく一緒にいるよねっていうのがない。ジャンルも、音楽関係者の友達もいれば、お笑いをやっているひと、絵を描いているひと、写真を撮っているひと、中学の同級生だったサラリーマン、様々で。曲を作る上で、友だちからインスピレーションをもらうことも多いんですけど、いろんな感性を自分のなかにいただけているなと思います。歌詞を書く上で、友だちとの会話ってかなり大事ですね。

―― 3曲目の「一閃」は入りのサウンドがカッコいいですね。これは逆再生ですか?

そうですね。ギターの隼ちゃんが入れてくれたんですけど、僕とか小川くんが作った過去の曲とか世に出ていない曲とかをいろいろミックスしてリバースしてかけてくれて。過去を超えていくところから始まる、短距離走のような1曲になりましたね。

―― 歌詞には<“一瞬で心掻っ攫うヒーロー” あのステージに嫉妬した>というフレーズがありますが、sumikaさんはすでにヒーロー側の存在になっているんじゃないかなと。

いやいやいや、まだまだですよ。今年ツアーをまわっているなかでも感じましたし、リアルタイムの心情です。もちろん今やれていることも素晴らしいということを、自分たちで十分に自覚した上で、それでも足りないものがあるから。もっと来てくれる方の心をちゃんと沸騰させられるような存在で在りたいなと。これは多分、一生思って生きていくんじゃないかなと思います。

―― 4曲目「Marry Dance」はウェディングソングですが、なかなか男性目線で結婚する親友に贈る気持ちを描いた歌ってありませんよね。

これはテーマ勝ちだなと思います(笑)。でも僕も結構こういう心情になるんですよね。ずっとつるんでいた友達が結婚したり家庭を持ったりすると、どこかで孤独感が生まれるというか。あー、もう気軽に夜中に誘えないな、みたいな気持ちにもなるし。ただ、それでも変わらないものはちゃんとあるよってことを誓っておくのは、すごく良いことだなと思って作った1曲ですね。

―― では、今回の収録曲のなかで、健太さんが「書けてよかった」と思うフレーズを1曲ずつ教えてください。

「Babel」はやっぱり<せからしか せからしか>かな。ここで切り替わったなというフックのワンフレーズになったなと思います。「アンコール」は最後の<もう消えない>ですね。「一閃」は<地味でもいいよ>。これは僕らの活動にも当てはまるというか。sumikaはめちゃくちゃ派手ではないけれど、一歩一歩やっていきたいなという気持ちを表現できたかなと。「Marry Dance」は<俺も誓うよ>ですね。え?君も入ってくるの?って(笑)。勝手だなと思いつつ、好きなフレーズですね。この曲もライブでやるのが楽しみです。

―― 健太さんにとって、歌詞とはどういう存在のものですか?

自分の心のなかにあるけど、まだ言葉になっていないものを歌なら言える。そういうものだと思います。

―― 歌詞面で影響を受けたアーティストというと?

松本隆さんですね。はっぴいえんどというバンドを通してもそうですし、作詞家として提供されている曲もすごく面白いと思っていて。「このひとだったら、この表現をしても許される」という、歌うひとありきで歌詞を書かれているというか。斉藤由貴さんの「卒業」とかも<卒業式で泣かない>のか!って。ちょっとひねくれているけれど、斉藤由貴さんが歌うことによって、成立するんですよね。誰が歌うか、どんな表情をして演奏するか、そういうことまで包括して“作詞”なんだと考えるきっかけをくださったのが、松本隆さんです。

―― 歌詞を書くときに、いちばん大事にすることは何ですか?

自分に嘘をつかない。

―― 今回の「Babel」のような曲を書くときにも、どこかに自分がいるのでしょうか。

いや、これなんてもろ僕ですよ(笑)。「アンコール」ももろ僕ですね。たとえばインスピレーションを他の方から得たとしても、自分で咀嚼した上でアウトプットしていきます。借りてきた言葉をそのまま使っても、それは響かないと思うので。自分の言葉で、というところは大事にしていますね。

―― ありがとうございます!では、最後にこれから挑戦してみたい歌詞を教えてください。

それこそ松本隆さんのように詞先で書いてみたいですね。sumikaは曲を作るメンバーが4人いるので、いつも曲先なんですよ。みんなからラララで送られてきたものに対して、僕が歌詞を書いていく感じで。だから歌詞を先に僕が投げて、他のメンバーが作曲するとか、すごく面白そうだなと思います。


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