―― 普段、曲作りはUZさんが楽曲のデモを作り、そこにMOMIKENさんが歌詞を乗せるんですよね。その歌詞のイメージはどのように見えてくるものなのでしょうか。
他のバンドさんのデモを聴いたことはないけど、UZのデモってほぼできあがっているんですよ。「こういう方向でこういう雰囲気です」というのが明確。だから歌詞に乗せる感情を曲が導いてくれる感覚で、その感情から言葉や物語を派生させていきます。激しさを受け取ったら、それに合うものを書くし。「オレンジ」のようなエモい雰囲気だったら、普段は言語化しにくい自分の憂いみたいなものを表現したくなるし。かなり書きやすいですね。
―― MOMIKENさんが描く主人公像には何か共通する特徴や性質はあったりしますか?
僕の歌詞はネガティブとポジティブの両方が共存してないと書けないなというのがあって。それが主人公像にも通じていると思います。AメロやBメロで打破したい状況とか、ネガティブな感情を吐露して、サビでは前向きに突き抜けていく。そういう主人公が多いですね。そのネガティブが大きければ大きいほど、その反動で真っ直ぐな言葉がちゃんと刺さるんじゃないかなって。
―― それはご自身もなるべく深くまで落ちてこそ、よりポジティブに飛べるタイプだからでしょうか。
あぁー、どうだろう…。いや、俺自身はまずネガティブにならないかもしれない(笑)。というか、考えないようにしているところがあります。だって、自分が考えようが考えなかろうが、生きていくなかでいいことよりイヤなことのほうが多いじゃないですか。だから、悪いことばかり考えてもしょうがない!って思うんですよ。
歌詞を書くにしても、ずーっと落ち込んで、「俺はもうダメだ。全然書けない…」とか思っていたら生産性が下がるし。ずーっとモヤモヤしているのも不健康でイヤだし。だからもう、考えない! で、歌詞を書くときだけ、その「大体悪いことばかり」の部分を引っ張ってくるんです。
―― そのポジティブマインドがこれだけSPYAIRというバンドの個性として成立しているということは、メンバーみなさんどこかそういう面があるのかもしれませんね。
あ、そうそう! メンバーみんな、暗いことをいつまでも考えないんですよ。もちろんお互いに皮肉を言い合ったりはしますよ。でも、落ち込んでずーっとモヤモヤしている、みたいな状態でいることはないですね。たとえ一瞬そうなったとしても、ちょっと時間が経てばすぐ復活しているんですよ。俺も含めて。むしろ俺がネチネチどんよりした歌詞を書いていったら珍しすぎて、「どうした!?」って心配されると思います(笑)。
―― MOMIKENさんが歌詞面で影響を受けたアーティストはいらっしゃいますか?

まずはMr.Childrenさん。小学生ぐらいのときに「名もなき詩」を聴いて。すごい歌詞だなと思って。中学生に上がったタイミングで「終わりなき旅」を聴いて。あれが青春時代の自分に響いたんですよ。「こうすればいいんだよ」という導きを素直に受け入れられたというか。で、ミスチルさんの歌詞もやっぱりドーンと落ちてからちゃんとサビで上がるじゃないですか。多分、それが自分に根づいているんだと思います。
あと、いろんな歌詞を読んでいるなかでやっぱりすごいなと思うのは、秋元康さん。本当に天才だなと思います。「川の流れのように」のような抒情的な歌詞も書ける。組み立て方がお上手ですよね。きっと、ストーリーや構成を考えて、そこに言葉をハメているんじゃないですかね。これはまたバンドにない要素でおもしろいですし、勉強させていただいています。
SUPERCARも好きですね。言葉の雰囲気が残っていくような、ああいう歌詞。僕らはロックバンドだから、意味にこだわりすぎると必ずしもいい方向に転がっていくわけではなくて。ニュアンス面での言葉選びも大事にしていきたいなと思いますね。
―― 歌詞を書くときにいちばん大切にされることはなんですか?
「いつどこで誰に聴いてほしいか」を考えることですね。まさにデビュー前に歌詞の千本ノックをしていて学んだことです。やみくもに書いていると、最初に書いていたことと180°変わって、また回ってきて360°…みたいなことになるんですよ(笑)。方向性が定まってないから、ただいろんな方向に球を打っているだけで、誰にも当たらない。それに気づきました。
だからあまり中度半端なところを狙わないように、とくにメジャーデビューしたばかりのSPYAIRは、何かを言い切っている歌詞が多いんです。届ける先が明確なメッセージこそ、ちゃんと刺さるんじゃないかな。誰かを救うんじゃないかなと思ったので。その軸からの派生で今のSPYAIRの歌詞があると思いますね。
―― 歌詞を書くとき、使わないように意識している言葉などはありますか?
あまり制限はないようにしています。とくに、「今まで書いた歌詞のことはいったん忘れよう」って思うんです。以前SEAMOさんとコラボさせてもらったとき、歌詞も共作したんですけど、「紅白で歌ったヒット曲のワードをこれからの曲に使っちゃいけないわけじゃない。逆に、今まで売れなかった楽曲のワードを使いまわしちゃいけないわけでもない。何度使ってもいいんだ」って言ってくれたのが俺にとって救いで。
たとえばこの先「イマジネーション」や「アイム・ア・ビリーバー」の言葉を使ったって、悪いことじゃない。「あ、これ書いたことあるな…」って思考が止まってしまうほうがよくないだろうし。その時々の曲に導かれる言葉として出るフレーズなら、何であれそれが正解なんだろうなって思いますね。
―― MOMIKENさんにとってSPYAIRの歌詞とはどんな存在のものでしょうか。
歌詞はSPYAIRを形づくる代名詞だと思いますね。最初はそうじゃなかったけど、書き続けてきたことでそうなっていったし、自分でもそう思えるようになりました。前向きになる言葉の持つパワー、同じ方向性のものをやり続けることの大事さ、自分という作詞家は何を書いていくことが求められているのか。そういうことをこの十何年間の活動で気づかされました。
―― ありがとうございます! では最後に、これから挑戦してみたい歌詞を教えてください。
本当は常日頃から、抒情的でふわっとした落としどころのない歌詞を書いてみたいとは思っているんです。でもそれだけだと、多分うちのメンバーは誰も理解してくれないなと(笑)。「〆はラーメン!」みたいなわかりやすいオチがやっぱり必要だよね…って。やるべきこととと、やりたいことはまた別なのかなとも思っていて。
だけど、やるべきことのなかでやりたいことを書いていくのも楽しいですし。自分のやりたいこともエッセンスとして盛り込みつつやって行きたいかな。そういった意味でも「オレンジ」は今の自分の120点満点だなと思いますね。