佐々木想という人間の本当の言葉は歌のなかにある。

―― 今作のタイトル曲「ヒカリアウ」はどのように生まれた楽曲でしょうか。

メジャーデビューシングルのタイトル曲、ということを意識して書いた曲ですね。今年4月、締め切りも迫っていて何を書くか迷っていたときに、大阪のthe paddles(ザ・パドルズ)というバンドと対バンをしまして。彼らのライブを観て、涙が出るほど何か感じたもの、胸を打たれたものがあったんです。

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そして、その衝動を引っ提げたまま家に帰り、朝になり、「よし、作ろう」という気持ちになって生まれたのが、冒頭の<こんな暗い場所にも 目を瞑っても分かる光がある>というワンフレーズで。そこからこの曲のコンセプトがぼんやり見えてきて、作っていきました。タイトルをつけたのも本当にギリギリ。マスタリングの前日まで考えていて、ふとたどり着いたのが「ヒカリアウ」という言葉でした。

―― この歌詞は“光のバトン”のような構成になっていますよね。1番で<僕>は<いつか君に貰った>光に照らされていて、2番で今度は<僕>が光ることで、また違う誰か=<君>を照らしているような。

おっしゃるとおりです。自分が誰かに照らしてもらった記憶があるからこそ、自分もそういう存在になりたい。もう最初のワンフレーズを書きながら、まさに“光のバトン”を繋いでいくような構成にしたいと思っていました。だから1番の<君>と2番の<君>は意味合いが違うんですよね。

―― 想さんにとって<いつか君に貰った 呼吸の仕方>のように、誰かからもらった大切な光というと、何を思い出しますか?

僕の親父はとてもキザな男でして、詩のように言葉をくれるひとなんですよ。もともと詩人になろうとしていたけど、諦めて教師になったという背景もあって、すごく詩も音楽も好きで。だからこそ、ことあるごとにいろんな言葉をくれて、そのひとつひとつが自分にとっての光になっているところがありますね。

―― そのなかでも今、パっと浮かぶ言葉というと?

ひとつ選ぶなら、“笑い”と“涙”をフィーチャーしてくれたもので。「人生を豊かにする“笑い”というものと、自分を楽にしてくれる“涙”というものを、大事にして生きるんだぞ」と。その言葉にすごく救われたんですよね。多分、これから生きていくなかでもずっと大事にするし、何かにつまずいたときや落ち込んだとき、もうダメだと思ったとき、思い出す。

人間って、そういう言葉がひとつ胸のなかにあるだけで、次の行動が変わると思うんです。そして、いい方向に自分を運んでいってくれるんじゃないかなと。だから親父からもらった言葉は、すべて大事にしていますね。

―― 少し話が逸れますが、詩人を目指していたお父さんが想さんの歌詞を読んで、何か感想をくださることも多いのでしょうか。

はい。親バカなところもあると思うんですけど、「お前はまわりとは違うものを持っているよ」とか「すごくいい歌詞を書くな」とか、ずっと言ってくれていますね。今でも地元の広島に帰って会ったとき、よく歌詞のことを褒めてくれますし。でもそれは親父のいろんな言葉をたくさん浴びてきた経験とか、遺伝の影響も大きいんだろうなと思っていますね。

―― 「ヒカリアウ」はサビで主語が<若者>になるのも印象的で。想さんはどのような視点でこの歌を書いたのですか?

まず、自分の歌であり、誰かの歌でもあるという意味合いも、<若者>というワードに繋がる要因のひとつではあります。一方で、自分も同じ若者として、同じ視点で言えることがあるなとも思ったんです。<若者>って限定していないようで限定する言葉なので、そこも聴き手に刺さってくれたらいいなって。

―― なるほど。客観的に<若者>を見つめているのではなく、肩を組む感覚というか。どちらかというと“俺たち”というニュアンスなんですね。

はい、それに近いです。歌詞で「俺だってそうだよ」と言ってあげることって、大事だと思うんですよね。あと、若いのに自分を傷つけてしまうひとも見てきたので、そういうひとが「これは自分のことだ」と思いながら聴いてくれて、少しでも負の考えが変わってくれたらなと。そういう僕の視点というか、想いも伝わってくれたらいいな、と思いながら歌詞を書いていました。

―― そしてラストでは<悩むことに疲れたって 生きることは素晴らしいって ひとりぼっちの君に何度だって歌いたい 若者よいつだってまだ見ぬ光があるから 生きて 生きて 生きてみようぜ>という大きな光が放たれます。

なんか…歌のなかだから言えることがあるなと思いますね。僕はずっと、佐々木想という人間の本当の言葉は歌のなかにある気がしていて。だから最後にここまで強く言えたというか。自分自身にも言い聞かせているような節もあるんでしょうね。願いに近いのかもしれません。

―― 想さんがとくに「書けてよかった」と思うフレーズを教えてください。

自分が好きで、伝わっていたらいいなと思うのは、サビの<若者はいつだって飛び降りる夢を見ては 足踏みをして抱きしめてくれる人を待っている>というフレーズですね。これがないとこの曲は成立しない。これがあるからこそ、最後の大きな光が活きる、大事なワンフレーズだなと思います。

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