―― 歌詞面では、「366日」という楽曲を知っているからこそ、「恋をして」の1番サビラスト<それでもよかった>というひと言が、深い意味を持ちますね。
仲宗根 ここだけが唯一、「366日」との繋がりをわかりやすく残したフレーズです。私としては、ザ・アンサーソングとしてすべてをリンクさせたくはなかった。だけど、何かしらのテイストは残したい。というところで、イントロを似た感じにしようかなとかいろいろ考えたんですけど。結果的に「366日」の<それでもいい>が、「恋をして」で<それでもよかった>になるだけで、ちゃんと伝わるものがあるなと思いました。
―― <もしも貴方に出逢わなかったら もしもあの時そこに居なければ 私の人生は 私の人生は 咲くことのない花>というフレーズからは、月日を経たからこその重みや深み、泉さんご自身の説得力も感じました。
仲宗根 私自身、この16年間でわりと若いうちに、結構な経験をさせてもらったんですよね。結婚して、娘を産んで。そこから息子を死産して、同じ年に父が亡くなって。離婚もしました。それが、なんだろうな…、未浄化のままというか。自分では「もう大丈夫」と思っているんだけど、実は大丈夫じゃなかったりする部分がある。
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だから「恋をして」の歌詞には、いろんな自分がいる感覚なんです。ここは過去の私、ここは今の私、ここは家族を想っている私、ここは亡き息子を想っている私。みんなの知らない私の人生を歌っている気持ちになる。でもそうやって複雑なものを書いているのに、綺麗にひとつの曲になったのが不思議で。そこが、ヒデが言ってくれたように、ひと言ひと言はシンプルなんだけど、深みのある歌になった理由なのかもしれないなと思います。
―― また、細かいところでいうと、「366日」では二人称がひらがなの<あなた>でしたが、「恋をして」では漢字の<貴方>で表記されていますね。
仲宗根 そこはもう本当に私のニュアンスというか、曲に対する重さが表れています。たとえば、自分の思いだけを綴った、わりとシンプルな歌では<あなた>と書いている。だけど、もっと意味が深かったり、難しい恋だったり、人生の歌だったりするときは<貴方>と書いている気がしますね。
―― では、おふたりが「恋をして」でとくに好きなフレーズというと?
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新里 僕もさっきお話されていた、<もしも貴方に出逢わなかったら もしもあの時そこに居なければ 私の人生は 私の人生は 咲くことのない花>というフレーズがいちばん好きです。すべては出逢いから始まるし、そこを肯定できるのは、きっと何かを受け入れられたから、乗り越えられたからで。すごく温かな愛情を感じます。
そして、歌う側としても勇気を貰えるけれど、聴く側として僕までも救われるんですよ。離れ離れになった方が、僕を思ってこの言葉を浮かべてくれたらいいなって。歌っていても、聴いていても、「ありがとうね」という気持ちになります。大好きな歌になりましたね。
仲宗根 私は<忘れたい痛みがあるの 忘れたくない想いもある 二人で笑ったこの道 一人で歩く思い出の道>ですね。ここは亡くなった息子のことを想います。死産だったので、一緒にどこかへ行くといっても、彼はお腹のなかだったんですけど。
ちょうど彼が亡くなる頃、桜の時期で。身体的に<二人で>桜を見に行ったんですよ。「来年には今お腹のなかにいるこの子はいないんだよなぁ」とか考えながら。そして翌年、また桜を見に行って。でももうお腹に彼はいなくて。「ああ、今は本当に一人なんだ」と、その道を歩いたんです。そういう思いは、恋愛にも通じるなと思いながら、このフレーズを書きました。
やっぱりこの歌に書いたのは、私の人生そのものなんですよね。<どの道を選んでも どの答えにしても きっと貴方に 続くように何度も 貴方に向かって歩いてゆく>というところもそう。離婚はしているんですけど、元旦那のおかげで娘が生まれたわけだから。そう考えると、たとえ過去に戻れたとしても、私は離婚するとわかっていながら、娘のために彼を選ぶだろうなと思う。
みなさんにも、「これは恋愛の歌だ」という感覚だけではなく、いろんな捉え方で聴いてほしいですね。両親のこと、子どものこと、人生のこと。過去の自分、今の自分。そして、映画『366日』もまさに、簡単な恋愛映画ではなく、ふたりだけの目線でもない深い物語なんです。私はどこか、もうひとつの自分の物語を観ているような気持ちになりました。映画も「恋をして」もそれぞれの味わい方をしてほしいと思っています。
―― ありがとうございます。最後に、「恋をして」も収録されている、ニューアルバム『TIME』への想いを教えてください。
新里 『TIME』には、自分たちが今までやってきたこと、思い出、そして今とこれからが詰まっています。すごくリラックスして、それぞれの心の内を出し切ることができました。それは25周年というきっかけがあったからこそで、まさに『TIME』というタイトルがピッタリだなと思いますね。
仲宗根 できあがった曲を見てみたとき、時間にまつわる歌詞も多かったよね。別に『TIME』というテーマでアルバムを仕上げていこうという話をしたわけじゃなかったのに、自然とそれぞれがそういう楽曲を書いていました。あと、ジャケットも自分たちで手作りしたんです。よく見てみると、昔のアルバムタイトルにまつわるアイテムなどがいろいろ入っているので、そんな細かいところもゆっくり楽しんでほしいです。