―― アルバムの入口を飾る「TORIHADA」の始まりも、非常に映像的でyamaさんらしい歌詞ですね。
この歌詞は3人での共作なんですけど、まさに自分はその1番Aメロとか、2番Aメロの情景的なフレーズを細かく書かせていただきました。やっぱり映像で見えてくるんですよね。そのなかにもう<君>や<僕ら>の像も含まれていて。どこか映画みたいな感じです。必ずしも主観の視点ではなく、第三者的に彼らを映している瞬間もあるし。常にふたりのエピソードをどう切り取ろうかと考える。カメラマンのような感覚に近いかもしれません。
この曲は今、MVを作っているんですけど、そもそも脳内では最初から、その映像が見えている状態で、曲を作ったし歌詞を書いたんですよ。で、自分はイラストも描いたりするので、自分だけが見えていたものを、「これなんだよ!」ってすべて絵コンテにして。そして提出して、形になることを祈っている段階でして。自分にとって音楽って、それぐらい映像的なんですよね。
―― サビの<肌覚め、夜に落ちる 二人の世界へ>というフレーズからは、熱を帯びて盲目的になっていくというより、感覚が研ぎ澄まされて本能的になっていくふたりが見えてくる気がしました。
そうなんです。ストレートにただただ恋を描くのではなく、ロマンティックでありながら自然と惹かれ合っていく感覚を表現したくて。<鳥肌>というワードは、最初から共通の概念としてあったんですけど、そこからBBY NABEさんが「<肌覚め>ってどう?」と言ってくれて、どんどん広がっていったんですよね。伝えたいイメージを損なわない語感・言葉選びをみんなで模索して作っていきました。
―― ただ、共作となると、最初にyamaさんの脳内に流れた映像をみなさんにシェアするのが非常に難しくないですか?

ものすごく大変です(笑)。もう必死にプレゼンですよ。でも幸い、歌詞を大事にするチームなので、歌詞だけの会議もよくあって。時には、「ここのセクションどうする?」の話し合いで終わる日もありました。みんなで真剣にたった1行について考える。誰かと作るって本当に難しくて。だけど、別のひとの感覚が入ってくるのも、おもしろいし楽しいなと今は思っています。ひとりで完結しようということが少なくなってきたかもしれませんね。
―― また、今回のアルバム収録曲は、<僕>と<君>、<僕>と<あなた>、他者と一対一で向き合っている楽曲がこれまでよりも多い印象がありました。そこは制作時に意識されていたのでしょうか。
言われてみるとたしかに…。それこそ、現実でいろんなひとと向き合ってきたことが、歌詞にも反映されているのかもしれません。たとえば「TORIHADA」もそうですけど、コミュニケーションが苦手な今までの自分だったら、何人かでコライトしながら曲を作るって、苦しいことだったと思うんです。
でも、それを楽しいと思えるようになっている。少しずつ自分が変化していて、今はひととの関わりのなかで生まれる何かとか、他者から得るものの大きさを実感できているんですよね。だからこそ、孤独な<僕>の歌よりも、ちゃんと<僕>が<君>や<あなた>と深く向き合うような歌詞が増えてきたんだと思いますね。
―― yamaさんが今作で歌詞を書いていて、とくに「映像が鮮明に見えた」と感じる楽曲はありますか?
「Film」ですね。最初に1番Aメロの<重なり合うように レンズを覗いた 君の後ろで 水際駆けてく>みたいなイメージが全体の概念としてあって。もう脳内に映像はあるので、それを音楽にしたいなと思って書き始めました。これも根本にあるのがMVなんですよ。自分のなかで時間軸の構成も決まっていて。長い物語を書くというより、短編的な2人のシーンを組み立てていくような感覚で歌詞を書いていきました。
―― 最後は<さよなら、煌めいた人>と別れで終わるのですが、思い出を振り返るような過去形の曲ではないんですよね。冒頭の<君と二人で 溺れそうな日々も 今なら悪くないと思える>のもリアルタイムというか。
そう! そうなんですよ。これはフレーズによって時間軸が違うんですけど、常に“今”にフォーカスしているのがポイントです。だから走馬灯の過程を一緒に見ているようなイメージかな。書いていてもおもしろかったです。カメラをモチーフに広げていって、レンズ越しの<君>の映像がいろいろ見えてくるので。
―― そして、「悲しい」や「寂しい」と言っていないのに、何か切ない感情が見えてきます。
そこもかなり自分の歌詞のこだわりで。映像ってそうじゃないですか。セリフがなかったら、視覚的に汲み取るしかない。「なんか悲しそう」とか、「笑っているけれど、心の内には何か抱えているんだろうな」とか、想像力を働かせますよね。そういう書き方が好きなんですよ。それが上手く書けたので「Film」は自分でもとくにお気に入りの1曲です。一方で、今回は「雫(prod. indigo la End)」というすごくストレートな曲もあって。
―― とくに「雫(prod. indigo la End)」のサビでは<あなたの優しさに 心底生かされていたこと ずっと忘れないから>と、真っ直ぐに思いを伝えていますね。
たまには、比喩を使ったり、言い換えたりせず、ストレートなバラードを書いてみようと挑戦しました。必ずしも隣にいることが、お互いにとっての幸せとは限らない。執着みたいなものが愛とは限らない。“本当の幸せって何だろう”と考えたとき、離れるという選択をするのも愛なのかな、などいろいろ考えながら書いた1曲ですね。
―― <もういいよ、いいんだよ そっと手を離すから もういいよ、いいんだよ そっと手を離してね>というフレーズは、<あなた>に言っているようでもあり、自分自身に言い聞かせているようでもあり。
まさにそのとおりです。本来、こういう歌詞を書くのはすっごく苦手で。ストレートに書く感情の生々しさが苦手なんですよ。でも、生々しさがあるからこそ、伝わる温もりはあるなと思って。とくに温度感を重視しました。そしてこれは、indigo la Endさんがアレンジと演奏までやってくださったんです。
―― ちなみに、indigo la Endさんにも「雫」というタイトルの楽曲がありますよね。何か繋がっていたりするのでしょうか。
いや、実はそっちは繋がっていなくて(笑)。indigo la Endさんをよく聴くんですけど、とくに好きなのが「抱きしめて」という楽曲なんですね。今回はその曲がリファレンスとしてあって、あの世界観・空気感をイメージしながら作ったんです。だからこそ、ダメもとでindigo la Endさんにオファーをしてみたら、OKをいただいて。本当にありがとうございます、という気持ちです。
―― ありがとうございました。最後に、今のyamaさんにとって歌詞とはどんな存在のものですか?
とっても必要なもの。受信・発信するときの“言葉選び”にこそ人間性が詰まっている気がして。価値観、生き方、感性、などなど。だから、歌詞は“そのひと自身”だなと思いますね。自分は作詞者としてまだビギナーですけど、人間は日々、変わっていきますから。変わり続けていく自分の言葉を、どんどん歌詞に残していけたらなと思っています。