濱野裕生作詞の歌詞一覧リスト  16曲中 1-16曲を表示

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曲名 歌手名 作詞者名 作曲者名 編曲者名 歌い出し
母のクーデター濱野裕生濱野裕生濱野裕生濱野裕生2003年、夏 母が突然、騒ぐ! こんなとこまで連れてきて あんたはひどい息子さ 今すぐ私は帰るよ 母が身支度を始める よろける足を踏ん張りながら 帰り支度をする 理由なんて分からない だけど母にとっては大切な事 今でも独りで暮せると言う それはそれで大事な事 私のバッグはどこにある 黄色の財布はあるだろうね? バスはどこから出るのかい ここから佐世保は遠いかい? 2003年、夏 母が突然、騒ぐ! 今から佐世保に帰るよ そこで独り暮らすから  2003年、夏、母が突然騒ぐ こんなとこまで連れてきて あんたはひどい息子さ 左手は私の腰のベルト 右手で身支度を始める よろける足を踏ん張りながら 帰り支度をする 悲しさ辛さは誰にでもある 思い通りにならない事も ひどい息子につれない嫁だと 何と言われても構わない 私の腰のベルト 母には必要なはずなのに 静かな暮らしの中で 母は私に気づかない 2003年、夏 母が突然、騒ぐ! 母が佐世保に帰ると言う 私のベルト握ったまま  悲しさ辛さは誰にでもある 思い通りにならない事も ひどい息子につれない嫁だと 何と言われても構わない 私の腰のベルト 母には必要なはずなのに 静かな暮らしの中で 母は私に気づかない 2003年、夏 母が突然、騒ぐ! 母が佐世保に帰ると言う 私のベルト握ったまま
ひととき濱野裕生濱野裕生濱野裕生濱野裕生母はコタツの中で両手を擦る そして、痛む膝をさすり出す 私は少し猫背で頬杖をつき 薄目をあけてTVを見ている やがて母はミカンに手を伸ばす そして、右の頬に当てている 私は穏やかな時を感じながら いつか眠りに落ちていく 漂う香りの中私は目覚める 母は‥座椅子を枕に眠ってる 私の目の前には袋まで剥かれたミカン そして肩には毛布が掛けてある 嗚呼、こんなにのどかで穏やかなのに こんな暮らしがずっと続けばいいのに‥ 尽きることない命がずっとあればいいのに 母を見ていて‥そう思う 母は生きている それは事実 今は私のソバに居る 何も望まない 健やかであればいい 母を見ていて・そう思う  誰もがそうだろう 私は18で親の元を遠く離れた 親は頼るもの 永遠にいるものだと 勝手に思い込んでいた そして幾年月を過ぎ 気づけば父は世を去り 老いに戸惑う母が居た 立つ事さえもままならぬ母を見た時 私は自分の生き方を悔いた 時に他人を傷つけ 時に父さえ憎み 祈ることさえなかった私が 老いた母を見た時 曲がった背中に手を添え 泣いた事など初めての事 嗚呼、こんなにのどかで穏やかなのに こんな暮らしがずっと続けばいいのに‥ 尽きることない命がずっとあればいいのに 母を見ていて‥そう思う 母は生きている それは事実 私と共に暮らしてる 妻さえ許せば私の命の残り 母に返したい・そう思う  やがて母が静かに動き出す 自分で剥いたミカンに目をやる これはあんたが剥いたの 袋まで取ったの?母はもう忘れてる 私は無言で一つ摘んで 母の口に放り込む 「ああ、冷たいね 美味しいね これなら歯茎を痛めない」 お茶でもいれましょう チャンネル変えましょう 相撲が終ってしまうから 貴女の大好きな朝青龍‥一番だけでも見たいでしょう 嗚呼、こんなにのどかで穏やかなのに こんな暮らしがずっと続けばいいのに‥ 尽きることない命がずっとあればいいのに 母を見ていて‥そう思う 母は生きている それは事実 私のそばで暮らしている 何も望まない 健やかであればいい 母を見ていて・そう思う
花ミズキ濱野裕生濱野裕生濱野裕生濱野裕生過ぎゆく季節の中で 母が老いを急ぐ 移ろう季節が・まるで‥私まで弄んでる 二年前、母の為にと植えた花ミズキ 私の背丈と同じくらいネ‥って 母が言ってた 朝な夕なに水をやり 大事に育てたが ふと・気付けば・母の身体が 随分小さくなってる 花ミズキ・君の背丈が伸びたからだけじゃない 母の‥母の身体が少しずつ‥縮んでる 教えてくれ花ミズキ・母の心が分からない 近頃・母はめっきり 言葉数が減ってきた Uh hoo hoo hoo Uh hoo Uh hoo hoo …  寒さもどうやらやり過ごせたね ほら・見てごらん 施設の庭には赤い花ミズキ 夏はもうすぐ 「うちにもあるよね?花ミズキ」母は覚えてる 「もう、見る事もないだろうね」って・哀しい事を言う 「よせよ、そんな言い方は‥頑張るのはあんただろ!」 突然、母は黙り込む 時折、私をにらむ 花ミズキ・君と私は似たもの同士だね 香り持たない君も‥母の心に入れない 過ぎゆく季節の中で 母が老いを急ぐ 移ろう季節が・まるで‥私まで弄んでいる Uh hoo Uh hoo hoo Uh hoo Uh hoo hoo …  花ミズキ、君の事を母が気にしてた 私はまだ家には帰れない「歩くのがちょっとネ」ってさ 花ミズキ、そしてこうも言ってたよ 随分、大きくなったろうネって 「処で赤かい?白かい」ってさ少し寂しいね だけどそれでいいと思うよ つかず離れずって言うのか 母が振向けば・君はいつも母の帰りを待ってる 花ミズキ、待ってろよ 必ず母を連れて帰るからさ 老いた母の為に君は‥背丈は余り伸ばすなよ 過ぎゆく季節の中で 母が年を重ねる 過ぎゆく季節の中で 母が老いを重ねる 過ぎゆく季節の中で…過ぎゆく季節の中で… Uh hoo Uh hoo hoo Uh hoo Uh hoo hoo …
ふるさとへ帰ろう濱野裕生濱野裕生濱野裕生濱野裕生ふるさとへ帰ろう 君が育った町へ 君の母が待ってる 老いた身体を横たえて‥君の帰りを待ってる 自分の命を削り 君を育てた母が 君が忘れかけたふるさとで 老いた身体を横たえて・君の帰りを待ってる ふるさとへ帰ろう 君が育った町へ 老いゆく母は語らない 救いなど求めもしない・それが何故だか分かるかい ふるさとへ帰ろう ふるさとへ帰ろう 老いた母の為に あの日、優しさを‥ふるさとに残し 君は都会に憧れて‥しまった そして、君はそこで何を‥得たのだろう 今でも拘る何かが‥あるのかい ふるさとに沈む夕陽は‥あの日と同じ、だけど 君が母を最後に見たのは‥いつ 君が何かと闘い‥もがく間に‥君の母も老いに苦しんでる ふるさとへ帰ろう ふるさとへ帰ろう 君自身の為にも  ふるさとへ帰ろう 君が育った町へ そこで君は必ず 大切なモノを見つけるだろう・今の君が忘れてる何かを 自分の命を削り 君を育てた母が 君が忘れかけたふるさとで 老いた身体を横たえて・君の帰りを待ってる ふるさとへ帰ろう そして、多くは望まない 君は母の手を取り 「今、帰って来たよ」・と・声を掛けてくれ ふるさとへ帰ろう ふるさとへ帰ろう 老いた母の為に 私も自分の暮らしに‥疲れた時 ふるさとに救いを求めてた だけど、今、思えば‥母はその頃 老いの狭間に喘いでいた 今でも母であって‥欲しいとは思うが 母がいるのは私の記憶の‥中 それは、母との暮らしを‥始めればこそ‥分かり出した事 ふるさとへ帰ろう ふるさとへ帰ろう 君自身の為にも
風よ光よ‥濱野裕生濱野裕生濱野裕生濱野裕生風よ君に・心あるなら 頼んでおきたい‥事がある もしも母が・ふさぎ込む日は 語り掛けてくれ‥母の耳元で そして、君は・届けてくれるか 私の思いをそっと‥母のもとへ  光よ君に・優しさがあれば 頼んでおきたい‥事がある 母が遠い・記憶を探し 空を見あげて‥ため息つく時 そんな時には・空一杯に 母のふるさと‥描いてくれないか 母の悲しさなら 私が背負うつもり 辛さなら それも私にくれ 苦しい事なら慣れている 母の痛みなら すべて私がもらう そして、今際の時には 神に伝えてくれ‥ 母の命なら・それはやれないと 欲しいなら私から奪えと… 母には・誇るものがまだまだあると 私より・生きる価値があると 風よ光よ・そう‥思うだろう?‥  もう少し君らに・言っていいだろうか 私が母を外にいざなう時 その時、君らは・ほんの少しだけ 遠慮してくれ‥母は目が弱い 光よ柔らかに‥そして、そよぐ風よ 君は季節季節の香りを運べ 母の悲しさなら 私が背負うつもり 辛さなら それも私にくれ 苦しい事なら慣れている 母の痛みなら すべて私がもらう そして、今際の時には 神に伝えてくれ‥ 母の命なら・それはやれないと 欲しいなら私から奪えと… 母には・誇るものがまだまだあると 私より・生きる価値があると 風よ光よ・そう‥思うだろう?‥  風よ光よ・今暫くは 母の記憶と遊んで‥やってくれ 時には母には・言葉はいらない 優しい風と光が‥あればいい 風よ光よ・頼まれてくれ 母の命の続く限り 母の命の続く限り
秋:夕暮れ濱野裕生濱野裕生濱野裕生濱野裕生ほら・どう思う・あの空を 母が古い映画のヒロインみたい 夕焼けを前にして椅子に座ってさ 私の・そばで腕組みしてる 母にはあの空・見えるだろうか 弱った視力が少し気に掛かる 長い道のりを歩いた母は 時に・ああして昔を探してる 生きる事に疲れた・とか 足でまといになりたくない・とか そんな思いは持って・欲しくない 生きてきて良かった・とか それなりに幸せだよ・とか そう思って・欲しい ほら・見てご覧・夕陽が動く オレンジみたいな顔して こっちを見てるよ  母が・私を見る・空を指さす お前は飛行機・乗った事があるかいって・さ 私は・そんなモノはいらない もうすぐ・あそこに行けると 哀しいジョークを言う 突然・母が口にする夕餉の仕度 買い物に行くのを忘れた・と言う お前は今夜・何が食べたいかと あり合わせでいいよ・私は答える そうじゃないでしょう・とか 何回言ったら分かるの・とか こんな時には言わない方が・いい 母が母であろうとする・事 柄の間であっても・いい それは・とても大事な・事 もう・陽が沈む・家の中に戻りましょう 山積みの洗濯物でも畳んでみます・か  生きる事に疲れた・とか 邪魔者にはなりたくない・とか そんな思いは持って欲しくない あんたと暮らして良かった・とか 親ってやっぱりいいもんだよ・とか そう・思わせてくれ ほら・見てご覧・もう日が暮れた 部屋の窓から町灯り・見える・はず
春は・まだ濱野裕生濱野裕生濱野裕生濱野裕生春はまだ薄目を開け・そっぽを向いてる 風はまだ白いガウンを羽織ったまま 今朝の母はベッドの中・丸くなったまま 春はまだかと春はまだかと催促してる そうだね・今はまだ枝垂れ梅の頃 昨日・デイへの途中で見掛けたじゃないか? 今は如月の頃・あんたの生まれた月 桜はまだ・松葉ぼうきみたい・さ 春はまだ薄目を開け・そっぽを向いてる 風はまだ白いガウンを羽織ったまま  ためらいがちなスローペースの春はまだ 風はまだストーブ回りをウロウロしてる ドライブしよう桜が見たいと母が言う 今はまだ枝垂れ梅くらいと応えたばかりさ そうだね・行ってみようか代継神社に たしか・大きな桜の木があったと思うよ 長い坂道を上がってみるかい? あんたの気が済むように・さ ためらいがちなスローペースの・春はまだ 風はまだストーブ回りをウロウロしてる  そうだね・行ってみようか代継神社に そして・願をかけるのも・いいかも知れない 風に吹かれて・みるのもいいかも 車椅子に乗ったままだけど 春はまだ薄目を開け・そっぽを向いてる 風はまだ白いガウンを羽織ったまま  春は・まだ 春は・まだ‥そっぽを向いてる 春は・まだ 春は・まだ‥そっぽを向いてる 春は・まだ 春は・まだ‥そっぽを向いてる
施設にて濱野裕生濱野裕生濱野裕生濱野裕生窓越しに見える夕焼け空 施設の外は車の波 遅かったじゃないか 何してんだと 私を激しく叱る 買物に行くよ これから直ぐにさ お前と一緒にさ 何も分からない今が分からない 施設を自分の家と思ってる ベッドを揺らし立とうとする そして私に倒れ込む 施設の壁のチャイムが響く ここはどこ?‥母がつぶやく どうしたんだろう私は何故ここに居る 歩けないのは何故なんだと 首を傾げてる 私に聞く 深いため息をつく 窓の外‥夕陽が動く 私の心も揺れている 苦しいもんだよ毎日がさ お前にそれが分かるかい そして言ういつまで生きるのかしらって 私は目を伏せる もういいよね そろそろ・かしら ポツリと母が言う  気紛れな梅雨空は 突然、涙を流したり 真っ赤な顔で怒ってみたり 母の記憶を曇らせたり WOO‥私は憎む WOO HOO‥時の流れを WOO HOO WOO HOO  覚えてるかい ほら・いつもの散歩道 あんたと俺をいつも待ってる 足を引きずる 年老いた犬 今日も居るかしら 負けちゃいけないよ あの犬だってさ 必死に生きてるじゃないか 悔やんじゃ駄目さ 嘆いちゃいけないよ あんたは立派に闘っているよ 今は兎も角 歩けるようにさ そして家に戻る事さ 頑張ってくれよ せめて退所まではと 私は母を励ます 帰りなさい・もう、遅くなる お前は仕事で疲れただろうと 明日もおいでよ 待ってるからねと 母が母に戻りだす 送っていくよ せめて玄関まではと 母が急に騒ぎ出す  気紛れな梅雨空は 突然、涙を流したり 真っ赤な顔で怒ってみたり 母の記憶を曇らせたり WOO‥私は憎む WOO HOO‥時の流れを WOO HOO WOO HOO
母の童歌濱野裕生濱野裕生濱野裕生濱野裕生おじちゃん・あそこに連れてって 小さな祠のある所 貴方は教えてくれたでしょ ここから昔に戻れる・と だったら・私は帰りたい 自分が誰だか聞きにいく  おじちゃん・訊ねていいかしら 私のふる里どこかしら 海の綺麗な・とこでした 緑の綺麗なとこでした 私の母ちゃま・いるかしら 今日も畑で草むしり HU HU  おじちゃん・教えておくれまっせ 深江は遠いとこですか イサム兄しゃま居るかしら 私を待っているかしら 深江に私を連れてって もう一度一緒に暮らすから  父ちゃま・自慢の菊作り 母ちゃま隣で針仕事 飴玉・一つおくれませ せめて砂糖のひと摘み くれたら私は庭先で 一人で姉しゃま待ちまっしゅう ああ・沖合に船が来る 私の姉しゃま連れて来る せめて艀で行けたなら 手荷物持ってあげるのに HU HU  母ちゃま・逝って禅宗の 笛に太鼓にかき消され 私の涙は・どこ行った 私の母ちゃまどこ行った 酒に溺れる・父ちゃまの 帰りが遅いと泣きました  母の代りと姉しゃまは 毎日せっせとご飯炊き 歌が浦から・平戸まで やがて通った女学校 あれほど焦がれた・寄宿舎の 壁に凭れて泣きました HU HU  おじちゃん私は帰りたい 連れて帰っておくれませ 一緒に遊んだミッチャンを 誘ってみとうございます おじちゃん貴方は進さん 誘ってテニスをいかがです?  紘子は平戸に居たかしら いやいや・それはみつ子さん 紘子にゃ辛抱させたから 私はいつも詫びている おじちゃん平戸に連れてって 紘子に会いとうございます ああ・船が出る 平戸まで 私を乗せておくれませ 姉しゃま・今度はいつ帰る しけたら平戸は遠い島 HU HU
露草濱野裕生濱野裕生濱野裕生濱野裕生貴女の乗った車椅子 ほら・その少し先 小さな花が見えるでしょう そう・あの露草が‥ 今年も咲いてくれたよね そう・いつもの場所にね 朝一番の涙の滴を ほら・今朝も湛えてる 摘んで帰りましょうか そして飾りましょうか? 貴女が休むベッドの隣がいいかしら‥ そして流してくれよ いつもの私に代わって 幾つもの‥幾つもの涙を… 貴女の乗った車椅子 ほら・その少し先 小さな花が見えるでしょう そう・あの露草が‥  生きる事を・悔やむんじゃないと よく言うよね 命は神様からの授かりものだと 確かによく言うよね だけど時に・疑ってしまう 生きるって意味をね こんな不自由な身体のままで 夢を語れるはずがないと 露草よ教えておくれ 母に伝えておくれ 年に一度の花を咲かせる為だけに そして 耐え続ける強さを 母に教えてくれ 今の私はそれができない だけど無理かしら・露草よ 午後まで待ってみるよ だって朝の君は私と同じさ いつも泣いてる気がする  今日は少し遠くへ・行ってみますか あの・橋のある場所 車椅子を押すには傾斜があってさ 辛い・場所だけど もう貴女は忘れたでしょう 姉なら憶えているかしら 露草がひっそり咲いていた 束の間の朝日を浴びてネ 摘んで帰りましょうか そして飾りましょうか? 貴女が休むベッドの隣がいいかしら‥ そして流してくれよ いつもの私に代わって 幾つもの‥幾つもの涙を… きっと流してくれるでしょう いつもの私に代わって 幾つもの幾つもの涙を‥ そう・涙を 幾つもの幾つもの涙を‥ そう・涙を
綿雪濱野裕生濱野裕生濱野裕生濱野裕生ホラ・綿雪が踊りだしたよ 青く澄んだ空から デイへの途中のいつもの交差点 貴女は空を指差す‥ 「雪を掴んでみようかしら・ちょっと窓を開けておくれ」と まるで子供のように貴女はハシャギ出す 窓に顔を 擦りつけてる ホラ・ご覧よあのビルの角 身体寄せ合う鳥が居る 3羽の鳩が寒さに首を縮めてる きっと・家族だよね もう・何度目の冬を過ごしたかしら 貴女は・目を伏せる そして・「こんなに晴れた冬の日なんて久し振りだよ」・私に・ 言う 母が両手を出す 綿雪が舞う中に やがて・雪が溶けてゆく 母の手のひらに まるで・雪は自分の命を 母に与えるように ホラ・綿雪が踊っているよ 貴女を励ますように そして無口な冬はなにも応えない 母は今日も施設へ向かう  去年までなら ずっと見とれていた 施設の二羽の紅鶯宿 今年の貴女は振り向きもしない 小振りの梅の事‥ ホラ・綿雪が蕾の頭に乗ったよ 冷たさにクシャミをするかも‥ でも・雪は消えたよ直ぐに 姿を消したよ これが命の儚さだってネ こんなに晴れ渡る青空なのに 雪はどこから降るんだろうネ・って そんなに急ぐ旅でもないはずなのに 母は何でも知りたがる そして、ホラ・春はすぐそこなのに いつも貴女は急ぎ足 冬よ母にもっと言葉を語り掛けてよ だけど無口な冬は何も応えない 母が両手を出す 綿雪が舞う中に やがて・雪が溶けていく 母の手の平に まるで・雪は自分の命を 母に与えるように そして、ホラ・春はすぐそこなのに いつも貴女は急ぎ足 冬よ母にもっと言葉を語り掛けてよ だけど無口な冬は何も応えない
八年目の蝉しぐれ濱野裕生濱野裕生濱野裕生濱野裕生貴女に聴こえるかしら・あの声が 岩倉台の貯水池あたり ほら・蝉が鳴いてるよ 貴女は分かるかしら 一緒に暮して八度目の夏 短命を知るや知らずや・蝉しぐれ いつか貴女が詠んだ歌 古い団扇の裏に 自分で書いた歌を 誰の歌だ?と貴女は聞く 車椅子で散歩を・しますか 陽射しの弱い朝のうちに 思い出すかしら 佐世保に暮した頃・それとも深江の夏を‥  そして・髪を切りましょ・陽のあるうちに 髪を切ったらシャワーを浴びましょう 風呂場の窓を開ければ 聴こえるはずさ 今年・最初の蝉しぐれ 短命を知るや知らずや・蝉しぐれ いつか貴女が詠んだ歌 古い団扇の裏に・自分で書いた歌を 今の貴女は思い出せない ほら・蝉がまた鳴き始めたよ 貴女にとって97度目の夏・ ほら・聴こえるでしょう あの蝉しぐれ 今日の貴女に分かるかしら  だけど貴女は応えない・ただ私に微笑むだけ‥ 移りゆく季節の中で ただ老いを急ぐだけ せめて蝉しぐれ‥ 母の傍で鳴け  行ってみますか・山が色づく・前に 貴女が育った歌が浦まで‥ 今が盛りかも・あの百日紅 姫神社の傍にあったね ミチエさんから・贈り物がきたよ 貴女が好きな[平戸恋しや]がね 少し身体が弱って この夏が辛いと 添え書きがあったよ ミネコさんが・亡くなったってさ 昨日・電話があったよ 貴女に伝えましょうか・ それともそっとしときましょうか・ 窓の外は蝉しぐれ  だけど貴女は応えない・ ただ私に微笑むだけ‥ 移りゆく季節の中で ただ老いを急ぐだけ 何故か私に悲しく響く 八年目の蝉しぐれ
蝉しぐれ ~老いゆくいのち~濱野裕生濱野裕生濱野裕生濱野裕生鈴木豪外は蝉しぐれ 風が途切れた早い朝 早朝野球を終えた 私を母が待つ ほら見てご覧 母が空を指差す 遠く青く澄んだ空に浮かぶ ちぎれ雲一つ 目を落とせば 庭に白い花生姜 名前は何かと尋ね 母が歩み寄る 香り届かず 母への思い届かず いつか母と共に植えし記憶 母にはもう昔 時に母は童になり 時に母に戻る事も いつも同じ言葉探しながら 昔を語り出す まるで92年の人生 紐解くように 母に届け母に響け ああ蝉しぐれ 母に届け母に響け ああ蝉しぐれ  目を移せば 遠い空に浮雲 古里離れて暮らす 母が悲しい 母は浮雲 流れゆくちぎれ雲 遠い記憶の狭間を彷徨う 老いた旅人 ああ、蝉しぐれ 母の心に歌えよ 92年の月日を愛でるように 知るや知らずや 一夏の蝉しぐれ 今日も母の心に叫べよ 命ある限り 肩を抱けばいつの間にか 母は娘になりハシャギ そして幼い日の兄と私を 取り違えてる まるで92年の歳月 昨日のように 兄を慕う母に届け ああ蝉しぐれ 兄を慕う母に届け ああ蝉しぐれ  時に母は童になり 時に母に戻る事も いつも同じ言葉探しながら 昔を語り出す まるで92年の人生 紐解くように 母に届け母に響け ああ蝉しぐれ 母に届け母に響け ああ蝉しぐれ
ホッホ濱野裕生濱野裕生濱野裕生濱野裕生鈴木豪人生って老いてからの方が 辛い事が多いね‥ホッホ・母が笑う 朝から何を食べて お昼はどこに居て‥ホッホ‥それさえ分からない それでもいいじゃないか 生きてみせるって事は 俺達に勇気をあたえる事 この4年間の 俺をよく見てみろよ 随分・我慢強くなったさ お前にもやりたい事が あっただろうに‥ホッホ・母が聞く こんな思いの深い息子に 育てた覚えはないよ‥ホッホ・母が笑う そして私はもういい お前は元の暮らしに‥ホッホ・戻れと言う 私はそろそろ向こうに行って 春の七草粥でも ホッホ・作ると言う  いつも済まないねと 母が言う 言ったさきから忘れるけど‥ 俺の事ならもう・いいよ 人生棄てたよ ホッホ・今度は私が・笑う 俺の事ならもう・いいよ 人生棄てたよ ホッホ・今度は私が・笑う  時々・思う事があるよ・と母が口にする お前はまるで私の母の・生き写し お前の背中をこうして見てると 母はお前の身体を借りて 私の傍にいるようだ・と  いつも迷惑掛けるねと 母が詫びる 俺が選んだ生き方なのに‥ 俺の事ならもう・いいよ 人生棄てたよ ホッホ・今度は私が・笑う 俺の事ならもう・いいよ 人生棄てたよ ホッホ・今度は私が・笑う  連れて行っておくれよ 博多の町に‥ホッホ・母が言う みね子サンと通った あの桜坂は今でもあるかしら‥ もう一度よく見てごらん ちょっと違うんじゃない? みね子サンは隣の人 母がアルバム広げて 指さす人は 母の見知らぬ人 少し部屋が暗い気がする 目のせいかしら‥ホッホ・母が笑う 人前で弱音を吐くのが 嫌いな母は‥ホッホ‥いつも自分を隠す 私にはお前の顔が よく見えないよ ホッホ‥母が笑う とても不安なはずなのに 気になるはずなのに ホッホ・笑って誤魔化す  いつも済まないねと 母が言う 言ったさきから忘れるけど‥ 俺の事ならもう・いいよ 人生棄てたよ ホッホ・今度は私が・笑う 俺の事ならもう・いいよ 人生棄てたよ ホッホ・今度は私が・笑う  時々・思う事があるよ・と母が口にする お前はまるで私の母の・生き写し そんな事ってあるかしら 母はお前の身体を借りて 私と暮らしているようだ・と  いつも迷惑掛けるねと 母が詫びる 俺が選んだ生き方なのに‥ 俺の事ならもう・いいよ 人生棄てたよ ホッホ・今度は私が・笑う 俺の事ならもう・いいよ 人生棄てたよ ホッホ・今度は私が・笑う  ホッホ・私が笑う‥
兄ちゃま濱野裕生濱野裕生濱野裕生濱野裕生鈴木豪兄ちゃま、あれはどこ? 綺麗な水がいっぱいあってさ 白い鳥が泳いでいたよね 貴方はパンくず投げたよね  八景水谷の公園の事? 水が湧き出る公園だよね 水鳥が確かに居たよね 陽射しをいっぱい浴びてね  兄ちゃま、私をもう一度 あそこに連れて行ってよ  私を母が呼ぶ 私の事を兄ちゃま、と呼ぶ‥。  兄ちゃま‥、兄ちゃま 兄ちゃま‥ 兄ちゃま 母が私を そう呼ぶ‥  そして、今は夜中の午前2時 私は闇を睨みつけてる これが俺の人生なのかと この為だけに俺が居るのかと そして、時折、俺は狂う 得体の知れない運命を憎む だけど命は一つ 細る命を見捨てちゃいけない、と やがて、命は動きだす 兄ちゃま、私を起こしてよ 母がベッドで声を出す 私をトイレに連れて行って、と‥  兄ちゃま‥、兄ちゃま 兄ちゃま‥ 兄ちゃま 母が私を そう呼ぶ‥  命を看るって事が これ程大きな事だと 最初は思わなかったさ 俺が愛に飢えていただけ それが間違っていた 俺は一気に大人になったよ 母に命を返す時 今になってそれが見えてきた もしも、このまま俺が死んでも 母は気づかない 兄ちゃま、どこに行ったの? きっと、そう‥言うはず  兄ちゃま‥、兄ちゃま 兄ちゃま‥ 兄ちゃま 母が私を そう呼ぶ‥  兄ちゃま‥、兄ちゃま 兄ちゃま‥ 兄ちゃま 母が私を そう呼ぶ‥
金木犀濱野裕生濱野裕生濱野裕生濱野裕生鈴木豪いつになく冷えた朝 窓の外は深い秋 雪のように舞い落ちる金木犀 白い季節はすぐ‥そこ 静かな寝息立て 今朝は母がまだ眠ってる 昨日、届いたばかりのハーモニカ 枕のそばに置いたまま 窓を少し開けましょうか? 母の眠りを邪魔せぬように そして香り放てよ金木犀 今朝は君が母を起こせ  カーテン越しに朝日が射します 窓の外は深い秋 庭の隅に積もった金木犀 白い季節はすぐ・そこ 風が部屋を訪ねます 母に季節を届けます やがて母が静かに眼を覚す まるで幼子のように お茶でも飲みましょうか? 耳元で母に尋ねましょう そして香り放てよ金木犀 君が窓辺に母を・呼べ  今は秋? 母が聞く 春はまだ? 母が聞く‥ 途切れ途切れの記憶の中に 忘れられない事がある 古びたアルバム 開く度に 破れた写真 継ぎ足す度に 母の記憶が つかの間・戻る  92度目の冬が来る 辛い事など一つもなかった 愉しい事だけ覚えているさ 私にいつも‥言う 母が昨夜の夢を話します 幼い頃は近所のミッチャンと 川に水汲み山には小さなビャラ集め みつえサンも同じ夢をみたかも 会いに行きましょうよ 貴方を慕うみつえサンに そして、姉のふじえサンにも会えるかも 歌が浦は‥母のふるさと  花言葉は「気高い人」 母には似合うかしら? 香り届けよ思い伝えよ金木犀 母には「素朴さ」が似合う 日毎夜毎に匂い立ち 日毎夜毎に舞い落ちる やがて命短かし金木犀 希望を母に与えて・くれ 厚めの布団に替えましょうか それとも薄手を重ねましょうか 部屋に飾り続けた金木犀 今日で君とは・お別れ  今は秋? 母が聞く 春はまだ? 母が聞く‥ 途切れ途切れの記憶の中に 忘れられない事がある 古びたアルバム 開く度に 破れた写真 継ぎ足す度に 母の記憶が つかの間・戻る  いつになく冷えた朝 窓の外は深い秋 秋の終わりを告げて散る金木犀 白い季節はすぐ‥そこ
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