前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて分析し、キラっと輝くキラーチューン(名付けて"キラ☆歌")を発掘しようというこのコーナー。今月は、CD発売から3年以上経過した、いわば"世代超え"の歌詞人気曲に着目した。
 第2回の連載で、発売から1年以上経過した"旧作ランキング"を分析したが、歌詞検索ではロングヒットが多いことが分かった。では、中学生だった人は高校生に、高校生だった人は大学生や専門学校生、社会人へと一新する"3年"という単位を超えてヒットする楽曲にはどんな傾向があるのだろうか。

第16回:世代超えヒットTOP15 (2010年11月:前月データより分析)
テーマ
順位
総合
順位
アクセス指数
タイトル
アーティスト
発売日
1位
29
100.0
会いたかった AKB48
2006.10.25
2位
66
58.4
愛唄 GReeeeN
2007.5.14
3位
70
58.0
小さな恋のうた MONGOL800
2001.9.16
4位
72
57.8
天体観測 BUMP OF CHICKEN
2001.3.14
5位
81
51.0
有心論 RADWIMPS
2006.7.26
6位
95
47.3
睡蓮花 湘南乃風
2007.6.6
7位
99
45.2
ふたりごと RADWIMPS
2006.5.17
8位
106
44.4
Love so sweet
2007.2.21
9位
128
41.1
ハナミズキ 一青窈
2004.2.11
10位
140
39.9
カルマ BUMP OF CHICKEN
205.11.23
11位
145
39.3
me me she RADWIMPS
2006.12.6
12位
153
38.2
なんちって RADWIMPS
2005.3.8
13位
154
38.1
最大公約数 RADWIMPS
2006.2.15
14位
166
37.1
創聖のアクエリオン AKINO
2005.4.27
15位
169
36.5
05410-(ん) RADWIMPS
2006.12.6
次点
170
36.4
チェリー スピッツ
1996.4.10
※CD発売から3年以上経過した楽曲のみでランキングを作成

 早速ランキング表を見ると、1位はAKB48の4年前のメジャーデビュー作「会いたかった」。これは、AKB48のセールスが巨大化したことに加え、彼女たちのレギュラー番組のジングルやBGMに使われたり、更には『爆笑レッドシアター』などお笑い芸人がネタにしたりで、この1年で検索が再浮上してきたヒット作だ。その点では、発売以来3年間ずっと上位にいるGReeeeNの「愛唄」とは傾向が異なり、むしろ当時知らなかったファン層が支持しているのだろう。

 3位のMONGOL800「小さな恋のうた」も、当時主に聞いていたリスナーではなく、倖田來未新垣結衣がカバーすることで、再び注目されてきたようだ。ちなみに、カバーによって歌詞の検索数が伸びるのは、他でも頻繁に起こっており、JUJUのアルバム『Request』においては、「Hello, Again〜昔からある場所〜」「There will be love there -愛のある場所-」「First Love」「ギブス」「Time goes by」「すき」と合計6曲の世代超えの名曲が、オリジナルではなく、"JUJU"名義で総合TOP100レベルの人気となっている。

 さらに興味深いのは、RADWIMPSがTOP15中の4割に当たる6曲ランクインしていることだ。しかも、ノンタイアップ曲、もしくはタイアップ曲でもドラマ主題歌など大ヒットが約束されていない楽曲ばかりで、いかに歌詞のチカラ、歌詞を気にさせる歌や演奏のチカラで、多くの人から支持され続けているか、そしてそれが彼らのCDのロングセラー化にも繋がっているかが分かる。なお、これらの人気曲は、昨年の同時期よりも歌詞検索数が伸びている。これは、今年発売された「マニフェスト」や「携帯電話」をキッカケとして、旧作にも興味を持ったという、まさに理想的な"世代超えヒット"が起こっているという何よりの証拠だろう。2曲ランクインしているBUMP OF CHICKENや、圏外に人気曲のあるHYについても同様の現象が起こっている。

  つまり、歌詞が注目されるアーティストは、"世代超えヒット"によって、より長らく活動することが出来、またそのようなアーティストは、意外にもバンドが多いということだ。いや、バンドが多いのではなく、他の歌姫系やアイドルグループが次から次へと"消費される"タイプばかりとなっていて、歌詞で残るタイプが少なすぎるのかもしれない。その意味で、このランキングに様々なタイプのアーティストが挙がってくるようになれば、音楽マーケットはより面白くなるのかもしれない。




「愛唄」
GReeeeN

 一青窈の5作目のシングル曲で、過去にNHK紅白歌合戦で3回も歌われ、OLさん達のカラオケ定番からママさんコーラス等まで幅広く人気を得て、今や国民的に有名なバラードの一つ。
 2007年初頭に、不倫疑惑報道があって以来 、特にネット系を中心に猛烈な批判を浴び、本人のオリジナルアルバムの売上げも激減、この「ハナミズキ」の人気も下降線をたどっていた。しかし、本作をモチーフとした生田斗真、新垣結衣主演の映画『ハナミズキ』が今年8月に公開されるやいなや、純愛ソングとして、再び脚光を浴び、歌詞検索や着うたで再浮上、カラオケランキングでもほぼ全機種で1位となっている。
 楽曲には無関係な出来事をキッカケに、急に冷めてしまったり、急に熱くなったりする大衆性にも驚くばかりだが(苦笑)、再び人気が出るのは、やはり楽曲にチカラがあるという大前提があってこそ。その点は、揺るがない事実だろう。ちなみに、徳永英明「ハナミズキ」中西保志「ハナミズキ」など性別超えカバーも好評。

 


ここではデビュー1年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。


 今月は、昨年9月にアルバムでデビューした女性アーティストの吉岡亜衣加に注目。彼女は、1986年静岡県出身で、シンガーソングライターを目指し、作詞、作曲、歌唱を学んでいたという。2008年にPS2ソフト『薄桜鬼 新選組奇譚』の主題歌「はらり」のボーカリストに抜擢され、2009年9月には1stアルバム『はらり』にて正式デビュー。
  翌2010年3月24日に発売した1stシングル「散らない花」(こちらも女性向け恋愛アドベンチャーゲーム『薄桜鬼 DS』の主題歌)からは、より一般層にもファンを増やしている。特に、人気の2曲「舞風」と「十六夜涙」は、ともにUHF系テレビ局のアニメ『薄桜鬼』の主題歌で、和風をベースとしつつ、ともに疾走感あふれるスペクタクルな作品。
 アルバム『夢花車』では、彼女の安定した歌唱を活かしたバラードや、彼女のソングライターとしての才能が垣間見える作品もあり、より多面的。また、ボーカルも愛内里菜をより落ち着いた感じに、島谷ひとみをよりシャープにした感じで、いずれにせよ、今後さらに大物に化ける可能性を感じさせる。これまでの路線を踏襲したスケール観のある作品が映画やドラマの主題歌に起用されれば更にリスナーが広がりそうだ。 




吉岡亜衣加

順位
占有率
楽曲
初収録作品
発売日
1
32.9%
舞風 4thシングル
2010.10.6
2
8.6%
十六夜涙 2ndシングル
2010.4.21
3
6.8%
はらり 1stアルバム『はらり』
2009.9.2
4
6.2%
時の栞 3rdシングル
2010.9.1
5
5.9%
紅い蜃気楼 2ndアルバム『夢花車』
2010.8.4



つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。10月より、全日本CDショップ店員組合さんにて「つのはず誠の元気が出るCDショップ」という連載を始めさせていただきました。これを読んで、CDショップの方も、またそこに通うリスナーもあらためてショップの魅力を感じてもらえればと思います。よろしかったらお読み下さい♪