前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて“キラ☆歌”)を発掘しようというこのコーナー。今月は、約2年ぶりに女性ソロ・アーティストの人気曲を分析してみた(但し、今回は1アーティスト1曲限定)。
 2013年、オリコンシングルチャートには、数多くの購入特典と抱合せのイベントや予約販売をこなすアイドルグループが次々にTOP10入りする現象が起こっている。無論、アイドルにとってのオリコンランクインは、それを足がかりに、アングラな活動からTVや雑誌とメディア攻略を展開していくという、更なるスターにのし上がっていく為の大切なプロセスだと理解はしている。しかし、その為に楽曲で勝負しているアーティストの紹介スペースが相対的に減らされてしまうのが、何とも歯がゆいところだ。(重ねて申し上げるが、決してアイドルグループを毛嫌いしている訳ではない。むしろ、その中でも幅広い世代に訴求しようとしている楽曲を見つけると、嬉しい気分になる。)もし、バンドであれば、夏フェスやLIVEツアー、音楽媒体等でプッシュされるのだが、ロック色の薄い女性ソロはそこからもはみ出てしまいがちだ。そこで、せめて歌詞検索において女性ソロにスポットを当ててみたいと思ったのが、今回のテーマを決定した経緯である。

第49回:女性ソロ人気曲TOP15 (2013年8月:2013年7月のデータより分析)
テーマ
順位
総合
順位
アクセス指数 楽曲名 アーティスト名 発売日
1位 1 100 友達より大事な人 剛力彩芽 2013.7.10
2位 3 77.1 Believe 西野カナ 2013.6.5
3位 6 52 ミラクル miwa 2013.4.24
4位 7 40 Last Love Rihwa 2013.6.5
5位 10 29.8 Contrail 安室奈美恵 2013.7.10
6位 24 20.1 にんじゃりばんばん きゃりーぱみゅぱみゅ 2013.3.20
7位 25 20 さよならをキミに... 〜キミがいた夏〜 Tiara 2013.7.24
8位 37 16.9 独り言花 LUHICA 2013.6.12
9位 43 15.4 ママへ AI 2013.7.17
10位 49 14.4 貴方が好きな私 阿部真央 2013.6.26
11位 60 13 Loveletter aiko 2013.7.17
12位 66 12.3 ベイビー・アイラブユー(English Ver.) シェネル 2011.7.20
13位 76 11.4 Best of my Love 安田レイ 2013.7.3
14位 80 10.9 SUMMER SONG YUI 2008.7.2
15位 82 10.7 夏海 山崎あおい 2013.7.10
※女性ソロのそれぞれ最も歌詞人気の高い楽曲をランキングしてみた。
(西野カナやmiwaは別楽曲も総合TOP50入りしているが、ここでは対象外とした。)

 まず、全体を見てみると1位は剛力彩芽のデビュー作、総合でも月間1位となるほどの人気。ドラマやCMでの急激な活躍ぶりから、ネット上ではネガティブな口コミが散見されるが、楽曲自体は非常に覚えやすく、更にPVや本人のTV出演であれだけキレの良いダンスを見せられたら人気が出てもおかしくないだろう。勿論、発売タイミングであれだけ多くの番組出演が決まるのは、通常の新人にはない芸能界的な威力を感じるが、例えば彼女と同じ事務所所属の武井咲のデビュー作はCDヒットしたものの歌詞ヒットはしなかったので、必ずしも彼女の境遇が楽曲ヒットのすべてではないと言えるだろう。他にも、デビュー2年以内のルーキー(表中黄色のゾーン)では安田レイや山崎あおいも健闘している。

 デビュー3年目から10年までの女性ソロ(表中緑のゾーン)では、西野カナやmiwaが上位の常連。miwaは、昨夏の「ヒカリへ」がブレイクポイントとなり、以降大半の楽曲が歌詞検索でも上位入り(それまでは男性ファンが多かったためか、CDだけが先行)。それにしても、西野カナは、09年以降ヒットを飛ばし続けていることに改めて感心。特に、10年の「会いたくて 会いたくて」などの頃は“着うたの歌姫”と呼ばれていたがご存知のとおり、その後着うたは一気に下火になった。それにも関わらず、彼女のヒットは継続し、フル音源のダウンロードのTOP10入りは勿論、時にDVDを付けない1種類のCDでもTOP10入りを続けているのだ。9月4日発売のベスト盤はヒット確実だろうが、その後、どのようにパワーを維持していくのかにも注目したい。また、歌詞検索では阿部真央のヒットも特長的。確かに、彼女のパワフルな声を離れて歌詞だけを読んでみると、主人公が意外と強がっていたり、純粋な気持ちを持っていたりすることが浮き上がってくるので興味深い。

 そして、デビュー10年以上のベテラン組(表中の桃色ゾーン)も、安室奈美恵、AI、aikoがランクイン。次回、急上昇が確実視されている「潮騒のメモリー」も天野春子(小泉今日子)も含め、偶然にもみな「ア」始まりだ。歌詞検索では、実際の音楽市場よりも若いリスナーに注目されているが、言い換えれば、ここに挙がった彼女たちはベテランの域になっても、若いファンを取り込み続けているということが分かる。つまり、その意味でも歌詞検索はアーティストのアンチエイジングのバロメーターにもなるわけだ。
 以上のように、前月はルーキー限定で女性ソロを見たが、ルーキー以外を見ても、その活動年数や音楽性の幅広さなど実に華やかなラインナップで、このリストのまま音楽プレイヤーや動画サイトで聞いてみても楽しいことだろう。但し、女性アイドルグループから派生した女性ソロはここに挙がっておらず、更に下位に掘り下げた総合TOP200でも圏外となっている。集団パワーに依存せず、楽曲単体で支持されうる女性アイドルが出現するか、それとも集団パワーを蹴散らすほどの、強い楽曲を作る次世代の女性ソロが登場するのが先か、今後も女性ソロに注目していたい。




友達より大事な人
剛力彩芽


Believe
西野カナ


ミラクル
miwa


 7月3日にCDデビューした女性シンガーの表題曲。彼女は、1993年生まれの日米ハーフで、07年、近未来をイメージした音楽ユニット“元気ロケッツ”のLumi役のボーカリストとして参加していた(当時はローズ・レイチェル名義)。このデビュー作も、元気ロケッツ同様、玉井健二によるプロデュースで、爽快かつ流麗な打ち込みサウンドが特徴で、彼女の透き通る声との相性も抜群。空や未来を彷彿とさせる楽曲ゆえにアニメ『宇宙戦艦ヤマト2199』のエンディングテーマに決定したのだろう(無論、SME所属ということも大きい)。CDはオリコン最高位21位と、最近のアニメタイアップの中では順調な成績。今後、アニメファンも従来の元気ロケッツファンも取り込んで更にステップアップするか注目したい。その為には、想像を超えるような歌唱パフォーマンスや、はたまた想像すら出来ないキャラクターが露呈することが必要かも。


ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。

 今月は、2位にランクインしたマルチクリエイターのじんに注目。彼は、1990年北海道利尻島生まれで、2011年からじん(自然の敵P)としてVOCALOIDを用いたオリジナル曲をニコニコ動画にて発表。その力強いバンドサウンドが人気を呼び、翌年から再生回数ミリオン達成曲を連発、12年5月に発表された1stアルバム『メカクシティデイズ』も、オリコン最高位6位、1年間以上のロングヒットで累計10万枚を超えた。また同月に発表された本人書下ろしの小説『カゲロウデイズ-in a daze-』は続編も含めたシリーズ合計120万部の大ヒットとなり、小説家としても音楽家としても成功を収めたことで経済誌等でも大きな話題となっている。
 歌詞の人気曲は、昨年の1stシングル「チルドレンレコード」を含め、今年5月に発売されたオリコン1位を獲得している2ndアルバム『メカクシティレコーズ』の収録曲が上位を占める。ボーカル曲はすべて初音ミクが“担当”しており、その大半が激しいサウンドなのだが、ダントツの1位となっているのは、生身のアイドルが歌っても良さそうなほど明るくパワフルなエールソング「オツキミスタイル」で、やはり普遍性を持つポップス路線がより上位になるようだ。
それにしても、この2ndアルバムのパッケージ、なんと豪華なことか!13曲入りのCDに4曲+メドレーのMV収録のDVD、全96ページのプレミアムブック(その中も多彩なイラストや、じん本人の謙虚な人柄が垣間見える解説付き)、型崩れしない縦長のハードケース仕様、これでいて3885円(市場では20%引きの3100円程度で流通)で、ファンの人はもう他のCDが高くて買えないのではないかと心配になるほどの大サービスだ。丁寧な仕事のお手本としてじっくり堪能したい逸品。

順位 占有率 曲名 初収録作品
発売日
1 18.5% オツキミリサイタル 2nd AL『メカクシティレコーズ』 2013.5.29
2 13.2% チルドレンレコード 1st Sg 2012.8.15
3 11.7% ロスタイムメモリー 2nd AL『メカクシティレコーズ』 2013.5.29
4 11.4% 夜咄ディセイブ 2nd AL『メカクシティレコーズ』 2013.5.29
5 5.5% アウターサイエンス 2nd AL『メカクシティレコーズ』 2013.5.29
6 5.3% 少年ブレイヴ 2nd AL『メカクシティレコーズ』 2013.5.29
7 4.9% サマータイムレコード 2nd AL『メカクシティレコーズ』 2013.5.29
8 4.5% 夕景イエスタデイ 2nd AL『メカクシティレコーズ』 2013.5.29
9 4.1% 如月アテンション 1st AL『メカクシティデイズ』 2012.5.30
10 3.9% アヤノの幸福理論 2nd AL『メカクシティレコーズ』 2013.5.29


つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic
日経エンタテインメント!に毎年5月頃公表されている“タレントパワーランキング”を調査されているアーキテクト社 のサイトにて、新連載『つのはず誠の“ヒットは複眼で探せ!”タレントパワーランキング編』が始まりました。CDチャートだけではないヒット感を、一般のお客様の認知度から知ろうという試みです。一体どれだけ続くかわかりませんが(笑)、頑張ってみたいと思います♪