前月の歌詞検索ランキングを掘り下げて、キラっと輝くキラー・チューン(名付けて“キラ☆歌”)を発掘しようというこのコーナー。今月は、“「の」の法則”人気曲TOP15と題して、タイトルに「の」の付く楽曲の人気を調べてみた。
  皆さんは、“「の」の法則”というのをご存知だろうか。『風の谷のナウシカ』『となりのトトロ』『紅の豚』『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』さらには『もののけ姫』など、スタジオジブリ製作の長編アニメ映画の多くは、平仮名の「の」が使われているというもので、それがいつしか、“「の」がタイトルに入っていたら大ヒットする”という風にまで拡大解釈されるようになった法則だ。これ自体は昨年の『風立ちぬ』の大ヒットによって、 “掟破り”を達成できたが、ジブリ以外でも『不思議の国のアリス』や『オズの魔法使い』など、確かにタイトルに「の」が使われると、「どういう意味なのかな?」と引き込まれるような気がする。例えば、この2作が『アリス、不思議な国へ』や『魔法使いオズ』といった物語に沿ったタイトルだと随分と凡庸に聞こえるのではないだろうか。このような法則がJ-POPでも当てはまるのだろうか・・・と、ふと気になって、今回の分析に至った。(なお、私は言語学者でも文化人類学者でもありませんので、小難しい議論は受け付けませんので念のため。あくまでも、ここではヒット曲のタイトルから歌の言葉を楽しく読み解くことを目的とします。)
第58回:“「の」の法則”人気曲TOP15 (2014年5月:2014年4月のデータより分析)
テーマ
順位
総合
順位
アクス
指数
楽曲名
アーティスト名
発売日
1位 2 100.0 Let It Go 〜ありのままで〜 May J. 2014.3.26
2位 6 39.3 炎と森のカーニバル SEKAI NO OWARI 2014.4.9
3位 9 30.9 高嶺の花子さん back number 2013.6.26
4位 21 17.5 幻の命 SEKAI NO OWARI 2010.4.7
5位 28 15.0 五月の蝿 RADWIMPS 2013.10.16
6位 38 14.0 虹色の戦争 SEKAI NO OWARI 2010.4.7
7位 40 13.9 会心の一撃 RADWIMPS 2013.12.11
8位 53 12.2 好きだよ。〜100回の後悔〜 ソナーポケット 2011.1.26
9位 55 12.0 小さな恋のうた MONGOL800 2001.9.16
10位 63 11.1 変幻自在のマジカルスター GRANRODEO 2014.2.12
11位 73 10.4 聖者の行進 back number 2014.3.26
12位 76 10.2 女の子は泣かない 片平里菜 2014.1.15
13位 82 9.4 ちっぽけな愛のうた 小枝理子&小笠原秋 2013.12.18
14位 97 8.7 思い出せなくなるその日まで back number 2011.10.5
15位 98 8.7 ごめんなさいのKissing You E-girls 2013.10.2
次点 99 8.7 銀河街の悪夢 SEKAI NO OWARI 2014.1.22
※タイトルに平仮名の「の」が含まれている楽曲を対象とした。

 表を見ると、なんとTOP15作中、SEKAI NO OWARI、back number、RADWIMPSといった3組の人気バンドが半数以上の8作を占めるという結果になった。彼らのファンからは、「歌詞の世界観が好き」や「歌詞を読み返したくなる」といった歌詞を高く評価する声がよく聞かれるが、これだけタイトルに「の」を多用していることを考えると、“「の」の法則”がJ-POPにも通用するようにも思えてしまう。(無論、彼らにはセカオワ「RPG」、back number「花束」、RADWIMPS「君と羊と青」といった超ロングヒット作もあるので、この法則がすべての楽曲に当てはまる訳ではない。)ちなみに、同じく上位常連のソナーポケットも8位「好きだよ。〜100回の後悔〜」のほか、「365日のラブストーリー。」もロングヒット中で、バンド以外でもこの法則は通用している。
  また、今回の1位は法則以前にディズニー映画『アナと雪の女王』(ここにも「の」が!)の大ヒットによるものだが、それでも、サビの部分で歌声をより豊かにする為に「ありのーーー」「ままのーーー」と、語尾を「の」にしたことが、日本での楽曲ヒットに大きく貢献したであろう。他にも、今年ブレイクが期待される片平里菜の1月シングル名も「女子は泣かない」ではなく「女の子は泣かない」とすることで、見た目は勝気だけど実は繊細で純真なイメージを抱く人も多いのではないだろうか。つまり、見た目にも言葉の響きにも「の」はプラスに作用しているように感じる。
  しかし、その一方で、歌詞人気常連の西野カナは「さよなら」「涙色」「Believe」「Always」「GO FOR IT!!」「私たち」と、09年ブレイク以降、「の」の法則は一切通用しない。むしろ「の」の文字が邪魔になるほどシンプルなタイトルが多い事が、彼女の歌詞世界を明解にしているほどだ。考えてみれば、「の」の法則を多用しているのは、いずれも男性アーティスト。そう考えると、「の」の文字は、「おやっ?」と考えさせる一方で、女性アーティストが使いすぎると「ちょっと小難しいかも・・・」と敬遠されるかもという諸刃の剣となりそうだ。(その意味で、E-girlsの「ごめんなさいのKissing You」は、「の」を使いながらもコミカルさも醸し出していて、実に上手い。)
  以上のように、“「の」の法則”は、J-POPにもある程度通用していることが分かった。今後、西野カナのシングル曲が、「の」を使った長文になった時、音楽性も大きく変わるだろうし、きっと彼女の中で何か大きな変化があった時だと妄想してみるのもJ-POPの楽しみ方の一つだろう。




Let It Go 〜ありのままで〜
May J.


炎と森のカーニバル
SEKAI NO OWARI


高嶺の花子さん
back number

 4thアルバム(メジャーデビュー以降では3作目)『ラブストーリー』に収録された新曲。アルバム初収録曲の中で、この曲がダントツ人気となったのは、朝の情報番組『ZIP!』にて、司会の桝太一アナウンサーが「毎日、気分を高めるのにオススメの曲はあるでしょうか?」と質問したことに対してメンバーがこの曲を勧めたことが大きい。実際、サビの部分「冷たい雨と分厚い壁が/また僕に手招きをしている」の言葉が端的に示すように、働く大人たちの辛さを代弁してくれるような歌詞だが、アップテンポで力強く歌っているので、奮起する人も多いことだろう。彼らのシングルでは、本アルバムにも収録されている「fish」のように女性言葉で別れの切なさを描いたものや、「繋いだ手から」のように、ちょっとダメな優男が出てくるものが多いが、この「聖者の行進」はどちらでもないシリアスかつストイックなアスリート系の作品。アルバムのみ収録の楽曲やLIVEの雰囲気はむしろ、この路線が多いので、本作が気に入った人は、LIVEに足を運んでみても楽しめるはず。それにしても、これまでのアルバムの売り上げ(オリコン調べ)は、0.3万枚→3.2万枚→5.6万枚→5.8万枚(まだ発売5週時点で、最終的には7万枚を超えそう)と、デビュー以来ずっと伸びており、これは縮小しつつあるCD市場の中で非常に稀有な存在だ。本作も、そのセールスが示すように、ドラマティックな曲想のものが多くて、ながら聞きしていてもつい聞き込んでしまうほどだ。今後、「花束」を上回る代表作が出ることも間違いない。


ここではデビュー2年内のアーティストを対象に、毎月注目のアーティストを"歌ネット・ルーキー"として紹介していく。ただし、「ルーキー」として選定するのは1アーティストにつき1度限りとする。


  今月は、7位の「ゲスの極み乙女。」に注目。彼らは、全曲の作詞・作曲を手がけるボーカルの川谷絵音(かわたに・えのん)を中心に、ベースの休日課長、キーボードのちゃんMARI、そしてドラムの ほな・いこか の4人で2012年5月に結成されたヒップホップ・プログレバンド。ちなみに、川谷と休日が男性、ちゃんMARIとほな・いこかが女性である。ヒップホップならではの超絶早口と、プログレバンドならではの随所に見られる早弾きが同居したバンドで、13年3月発売のインディーズアルバム『ドレスの脱ぎ方』(最高位123位ながら、
累計0.8万枚のロングヒット作)、同年12月の『踊れないなら、ゲスになってしまえよ』(こちらも最高位40位ながら、累計2万枚突破)と、作品を追うごとにSNS上で話題となり、歌詞人気1位の「キラーボール」は既に動画再生回数が200万回を突破。そして、インディーズ・デビューからわずか1年の今年4月2日、今回のメジャーデビュー作『みんなノーマル』が発表された。「キラーボール」と「パラレルスペック」が上位入りしているのは、その前週にフジテレビ系音楽番組『僕らの音楽』にてパフォーマンスした影響で、オリコンでも初登場11位、初動1.1万枚と順調なスタートを切った。(初登場10位ではなく、11位となるところが、大手事務所がごり押ししていない何よりの証拠(笑)。) 確かに、Aメロで、様々な問題を抱える様子が早口で語られる点は一気に引き込まれるのだが、デビューアルバムの6曲中5曲が、比較的似た曲想なので、神聖かまってちゃん のように、才能を認められつつも、飽きられるのも早いのではと心配してしまう。その意味では、男女の恋愛模様が客観的にかつドラマティックに描かれた「ユレルカレル」のような作品が今後増えていけばと感じた。ともあれ、歌詞に注がれた熱量はどの楽曲も尋常なく高いので、まさに歌詞サイトで今後ますます注目されそうだ。

順位 アクセス比率 タイトル 初収録作品
発売日
1 32.3% キラーボール インディーズAL 2013.12.4
2 17.9% パラレルスペック メジャーAL『みんなノーマル』 2014.4.2
3 8.4% 餅ガール インディーズAL 2013.12.4
4 5.3% サカナの心 メジャーAL『みんなノーマル』 2014.4.2
5 4.9% ユレルカレル メジャーAL『みんなノーマル』 2014.4.2
次点 4.5% ゲスな三角関係 インディーズAL 2013.12.4
※インディーズALのタイトルはいずれも『踊れないなら、ゲスになってしまえよ』。


つのはず・まこと。1968年京都府出身。理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽関係の広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のヒットに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽分析やCD企画をする傍ら、日経エンタテインメント!、共同通信などでも愛と情熱に満ちた連載を継続中。Twitterは@t2umusic
 5/21に発売されるアルバム『chazz -smile music life-』の宣伝文などをお手伝いしました。(公式サイトはこちら。)日々、子供向きのCDを聴いていると、「どうせ子供だから分からないだろう」という目論見が透けて見えるような薄っぺらい演奏や歌の作品が少なくありません。皆さんが子供時代そうだったように、子供たちは「馬鹿にされている」とか「もっといいものを聴きたい」とか実は分かっているのです。(その改善提案のすべや、より良い選択方法をしらないだけで) そう思っていた矢先、こういった子供も楽しめる明るいサウンドで、それでいて大人も楽しめる本格的なサウンド、しかもカバー曲ながら歌詞をよくよく聴いてみると、かなり深いことが歌われているという深みのある音楽が登場すると知って、喜んでPRのお手伝いをすることにしました。まずは、無料で公開されている「MY PACE」を聴いてみて下さい。きっと日常ももっと楽しくなりますよ♪