2022年3月23日に“あたらよ”が、1stアルバム『極夜において月は語らず』をリリースしました。今作には、MVの再生回数3200万回を突破した初のオリジナル曲「10月無口な君を忘れる」、『THE FIRST TAKE』に出演し披露された「夏霞」、揺れ動く歪な女心を繊細かつポップなメロディーで表現した新曲「悲しいラブソング」など、悲しみを繊細な歌声とエモーショナルなバンドサウンドで表現した全11曲が収録されております。
さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“あたらよ”のひとみ(Vo&Gt)による歌詞エッセイをお届け!綴っていただいたのは、歌詞に対する向き合い方のお話です。感情を表に出すことが苦手だった彼女が、自分の内側にある感情に目を向けるようになったきっかけとは。そして、そこから生まれた楽曲と歌詞の変化とは…。今作の歌詞と併せて、エッセイをお楽しみください。
皆さんこんにちは、あたらよのVo./Gt.のひとみです。
今回、歌詞エッセイのお話を頂いた時に何を書こうか迷ったのですが迷った挙句、今回は私の詩に対する向き合い方についてお話しようと思います。
あたらよというバンドは東京を中心に活動する4ピースバンドで、「悲しみをたべて育つバンド」と、紹介される機会が多々あるのですが、これには私の綴る詩が深く関係していると思います。
私が作詞する上で餌にしている感情は、簡単に言ってしまえば喜怒哀楽の“哀”の部分なのです。曲によっては“怒”を入れることもあるのですが、結局は怒りを超えた先の哀しみについて触れているので、やはり表現したいのは“哀”なのだと思います。
何故、ここまで“哀”の感情に拘るのかと言うと、実は自分でもよく分かっていないのですが、一つ明確なのは私にとって“詩は祈り”だということです。私は基本よく喋るタイプではあるのですが、肝心な本音は心の内に隠してしまうことが多いのです。それ故に、抱え込んだ気持ちに押しつぶされそうになる日々も沢山ありました。そんな日々を生きる中で私が見出した唯一の希望が「詩」だったのです。
それまで感情を表に出さない、当たり障りのない詩を書いていた私は、ある日を境に自分の内側にある感情に目を向けるようになりました。その日は確か、ある人に沢山傷つけられ泣きながら帰ってきた夜でした。冷えきった部屋で一人、暖房もつけずにソファーに座って、おもむろに手にしたギターを泣きながら夢中でかき鳴らしました。寒さも忘れるほど無心でした。
あれは間違いなく、私の心の中にあるストッパーのような何かが外れた瞬間だったと思います。これは逃したらいけない!と思い、溢れてくる詩とメロディをスマホのボイスメモに録音しました。そうして完成したのが、今ではあたらよの代表曲ともなった「10月無口な君を忘れる」という曲です。
この曲を作り終え、心の中のモヤモヤが綺麗に浄化されたのを実感した時、「あぁ、私が書きたかったのはこういう詩なのかもしれない」と気付きました。私にとってこの曲は、触れたくない、本当は目を背けたくなる感情に敢えて触れることで、痛いんだけれども、逆に言ってしまえば痒いところに手が届いたような感覚にもなる不思議な曲です。
あたらよの楽曲の特徴としてよく話題に上がる「共感性が高い」というのは、こういった“触れてほしくないけど本当は、、、”みたいな感情を私自らが引き出して歌っているからこそ生まれる意見なのかなと思います。
普段は本音を隠してしまう私だからこそ、詩でなら言えることもある。逆に詩だからこそ伝えられるものがあると思います。そしてそれは私にとって“こうありたい”、“こうあってほしい”といった祈りに近いものでもあります。
だからきっとこれからも私は私のために詩を書き、祈り続けます。そしてそれが、曲を聴いてくれた名前も知らない誰かの心に寄り添い、日々を生きる上での少しばかりの希望にでもなれば嬉しいです。
<あたらよ・ひとみ>
◆紹介曲「10月無口な君を忘れる」
作詞:ひとみ
作曲:ひとみ
◆1st アルバム『極夜において月は語らず』
2022年3月23日発売
<収録曲(全11曲)>
01.交差点
02.夏霞
03.極夜
04.祥月
05.「知りたくなかった、失うのなら」
06.悲しいラブソング
07.嘘つき
08.outcry
09.52
10.10月無口な君を忘れる
11.差異