Womanと天才

 2022年7月27日に“坂口有望”がNew EP『XL』をリリースしました。今作には、浮遊感あるオルタナティブなサウンドに失恋の想いを乗せた表題曲「XL」に加えて、ボカロP・すりぃが初めて共作詞で参加した「ティーンエイジダイバー」、コロナ禍の心境を歌った「#ボクナツ」、マカロニえんぴつの人気曲「恋人ごっこ」カバー、自身の代表曲「好-じょし-」(2022 ver.)や、表題曲「XL」のAcoustic ver.を収録し、シンガーソングライター、表現者として新しい魅力を打ち出す作品が完成。
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“坂口有望”による歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回は第2弾。綴っていただいたのは今作の収録曲「ティーンエイジダイバー」にまつわるお話です。ボカロP・すりぃと初の共作詞に至った経緯や歌を作り上げていく過程、歌詞から感じたものを明かしてくださいました。ぜひ楽曲と併せて、お楽しみください。



『XL』EPがリリースされて早速、昔から私の曲を聴いてくれている関係者の方が、「地図なしのラビリンスって歌詞は有望ちゃんが書いたの?」と、昔、国語の授業で習った、反語のニュアンスを含ませて聞いてきた。つまり、「有望ちゃんが書いたの?(まさか有望ちゃんが書いたはずがないよね)」だ。大正解。今まで、言葉にとことんこだわってきた私がついに挑戦した、歌詞の共作。お願いしたのは大注目のボカロP、すりぃくんである。
 
「テレキャスタービーボーイ」の歌ってみた動画(YouTubeで見てね!)に向けて、歌詞を読み込んでいた時、<カニバリズム踊れば>というフレーズにハッとさせられた。「カニバリズム」とは、人が人を食べる酷い行為のことだが、ワードに混じる「リズム」に掛けて「踊る」を持ってくる発想が凄い。こういう言葉遊びが、すりぃくんの曲には散りばめられていて、痛々しい中に快感を見出すような感覚が癖になる。本当に、悔しいほどハイセンス(媚びとかは売ってません)。
 
そんな彼が、なんと、七年前、クリープハイプの「二十九、三十」を歌っていた時から私を知ってくれていた。私は、YouTubeに死ぬほど感謝しながら、すりぃくんへ今回の話を持ち出した。間もなく、歌詞だけを誰かに書くのは初めてやから、難しそうやけどやってみる、という関西弁での返事をくれた。
 
「ティーンエイジダイバー」は、作詞だけでなく、作曲もLASTorderさんというメロディーの天才にお願いした。出来上がったオケを聞きながら、まずはすりぃくんのイメージのままを形にして欲しいと初回のミーティングが終わった。そして、彼が第一項で提示してくれたのは、より返す波のようなメロディーから派生した世界観だった。
 
不安は海みたいに広がっていて、そこへ飛び込む恐怖:興味=1:1のティーンエイジャーというテーマ。自分が十代の時は歌えなかったけど、振り返ればずっとそんな感じだった。これは想像でしかないけれど、もしかしたらすりぃくんの目に、あの路上ライブの時の私はそう映っていたのかもしれない。そう思った時、私はまた彼にハッとさせられた。
 
そんなわけで、私が作詞に関わったのは、最終段階。内容はそのまま、言い回しを変えてみたり、「ハート」を「波跡(はあと)」にしてみたり。今回の共作で、私は今一度作詞と真摯に向き合うきっかけをもらった。同時に、共作って良いよなと身をもって感じた。その面白さはきっと、語彙力の違いなどでは片づかない、センスというやつを融合できるところだ。とにかく、この曲は確実に特別である。天才たちと作ったのだから。
 
<坂口有望>


◆紹介曲「ティーンエイジダイバー
作詞:すりぃ・坂口有望
作曲:LASTorder

◆New EP『XL』
2022年7月27日発売
初回生産限定盤 [CD+Blu-ray]  ESCL-5693~4 ¥5,000(税込)
通常盤 [CD]  ESCL-5695 ¥2,000(税込)
 
<収録曲>
 
01.XL
02.ティーンエイジダイバー
03.#ボクナツ
04.恋人ごっこ
05.好-じょし-(2022 ver.)
06.XL(Acoustic ver.)