これは車の中からそれぞれの道へ進むふたりの話。

 2022年秋に“reGretGirl”が、3ヶ月連続で新曲を配信リリース! 今回の連続リリースは、3曲を通してひとつの恋の行方が描かれ、歌詞世界のストーリーが繋がっております。第1弾の楽曲「ルックバック」は9月14日に、そして第2弾の楽曲「車の中から」が10月12日にリリースされました。第3弾は11月2日にリリース!
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“reGretGirl”の平部雅洋による歌詞エッセイを3ヶ月連続でお届け!今回は第2弾。新曲「車の中から」の歌詞世界をさらに掘り下げる内容となっております。車の中から同じ景色を見つめ、別々のことを考える二人。それぞれの胸の内にある本音とは…。



うたコラムを3ヶ月連続で掲載させていただく第2弾として今回は、「車の中から」にまつわる文章を書かせていただきました。この楽曲の歌詞は1番は男性目線、2番は女性目線になっております。そちらも留意して聴いていただけると大変光栄です。この文章もまた前半は男性、後半は女性の目線で書いております。


 
車を走らせ彼女の元へ。
 
いつも迎えにあがる駐車場。すでに「少し話したいことがある」とメッセージを送っていたが、到着してもまだ決意は揺らいでいた。何も言わずに助手席に乗り込んで来る彼女の、顔を見ないまま緑色のフェンスの格子を見つめ、言葉よりも先に涙が流れた。鼻を啜り、例え彼女を傷つけようともできるだけ嘘を付かないように、ぽつりぽつりと話し始めた。
 
自責と反省。散々頭を掻きむしった所で、どちらが誠意ある選択かを問われると、どちらも「誠意のない選択」になるとわかっている。ならば己に嘘を付かない事が唯一、筋の通る行いだと信じ手を離すことを決意した。
 
非常に烏滸がましく、この身勝手さにひたすら己を責め立てる事でしか彼女に申し訳が立たない。ただ一つ理解していて欲しいのは「僕は君をちゃんと愛していた」ということ。この涙の理由はそこにあると覚えていて欲しい。
 
立ち行かなかったこの関係。許されたいとかそういった事ではなく、これは彼女への敬意、存在の尊重である。
 
「僕は君を忘れない」
 
 
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私は助手席で俯いていた。悪い予感はことごとく当たる。「少し話したいことがある」なんてメッセージに良い意味が込められていた事は、経験上一度だって無いのに慣れたりはしない。噛み締めた奥歯に「傷つきたくない」と怯えが挟まっている。
 
きっとこれから“前の人”のところへ行くのでしょう。貴方のその想いが実を結ぼうとも結ばずとも、此処へ帰ってくることは無いのでしょう。身を結ばなかった時、私が帰ってきて欲しいと言っても「筋が通らない」と言うのでしょう。私は貴方のそういったところが好きだった。
 
別れを告げられたのに「別れたくない」と自我を通せない自分に腹が立つ。この“優しい”とは呼ぶには頼りなさすぎる性格は、この先も私に損をさせるのだろう。
 
車内で顔を合わせず、涙を流しながら話す私たちの手だけはまだ繋がっている。今この手を強く握っているのは、「何処にも行かないでほしい」の思いが込められていることに気づいてくれるだろうか。私はこれから大切な人が離れていった事実と暮らしていかなければならない。
 
「私は貴方を忘れたい」
 
 
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二人は“別れ話”をしながら他の事を考えている。それは“ふたりで過ごした時間”。恋愛の走馬灯は同じ記憶を違う角度で辿る。同じ景色は違う色で見えているだろう。ただ、意味は違えど深い悲しみに暮れるのは同じであった。
 
これは車の中からそれぞれの道へ進むふたりの話。


<reGretGirl・平部雅洋>



◆紹介曲「車の中から
作詞:平部雅洋
作曲:平部雅洋