私は絵がヘタだ。どんなに頑張ってもダメだった。

 2022年11月9日に“BLUE ENCOUNT”がニューシングル『Z.E.R.O.』をリリースしました。タイトル曲「Z.E.R.O.」は『コードギアス 反逆のルルーシュR2』エンディング・テーマとして書き下ろされた1曲。ソリッド且つ切れ味鋭いエッジの聴いた疾走感のあるサウンドに加え、救いを求めるかのような切実な歌詞が印象的に鳴り響く楽曲に仕上がっております。
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“BLUE ENCOUNT”の田邊駿一による歌詞エッセイをお届け!綴っていただいたのは、彼の物語作りにも通ずる、小学生時代のとある女の子との思い出のお話です。みなさんは今、どんな色の道を歩いていますか…?



「ねえねえ!隣に座っていい?」
 
小学生時代、当時の私は同じクラスのとある女子の横に、昼休みの度に決まって座っていた。 
 
彼女はとても画力が高く、美術の授業も常に模範的な成績。とはいえクラスの中心にいたわけではなく、いつもほとんど一人で過ごしていた。
 
ある日の道徳の授業、先生は私たちにこう言った。「あなたたちの特技を披露してください」。
 
リフティングする子、リコーダーを吹く子、料理が得意!と言ってみんなにクッキーを焼いてきてくれた子。個性は十人十色。
 
私は歌を歌ったっけ。
 
大トリは彼女。
 
小学生の頃の集中力なんて一瞬で尽きるもので、彼女の出番の時には授業に飽きたクラスメイトたちの喋り声が教室いっぱいに響いていた。しかし彼女が一冊のノートを出した瞬間、喧騒は歓声に変わったのである。ノートの中には手作りの漫画が所狭しと描かれていた。休み時間にずっと描きためていたというそれらは、今も鮮明に思い出せるほどに高いクオリティ。みんな挙って彼女を称賛した。
 
もともと漫画が好きで以前から漫画家になってみたい!と思っていた幼き私は、その日から勝手に彼女の弟子になった。
 
ここで冒頭のくだりに戻るわけだが、弟子の仕事は昼休みに師匠の横にちょこんと座り執筆をずっと眺める。ただそれだけ。大層目障りな存在だったと思う。貴重な創作時間に突如現れたバカモノ。だが師匠の懐は深かった。最初こそ怪訝な目で私を睨んでいたが、徐々に心を開いてくれて1ヶ月経った頃には背景の木や雲を書かせてもらえるほどに受け入れてくれた。
 
しかし別れというものはいつも空気を読まずにやってくる。数ヶ月後のホームルーム、先生は私たちにこう言った。来月、彼女が遠い街へ引っ越す。と。
 
目の前の現実をただ飲み込むことしかできなかった私はそれからというもの、学校で家で机に向かい続けた。引っ越す日の数日前、私はとてつもない緊張を携えて彼女にノートを手渡した。少年田辺作、超大作漫画。たしか冒険物だった気がする。それとは別に彼女への感謝を綴った手紙を添えた。
 
次の日、師匠から呼び出された。シンプルに一言
 
「あなた、絵がヘタね。でもあなたの歌と手紙の言葉、すっごく良かったよ」
 
思い出話に花が咲きすぎた。
 
とどのつまり何が言いたいのか。
 
私は絵がヘタだ。どんなに頑張ってもダメだった。
漫画という道の上で物語は作れなかった。
 
でも今、私は歌手という愛すべき道の上で必死に歌と言葉で誰かへの物語を作っている。
 
とどのつまりそういうことだ。
 
個性は十人十色。
私もあなたも、自分が好きな色の道の上で必死にやってみよう。
 
きっとその姿は自分と誰かの物語になっていく。
 
そう信じて止まない私は、まだあの頃と同じバカモノなのかもしれない。

<BLUE ENCOUNT・田邊駿一>