じいちゃん、不甲斐ないのは俺だったよ。

 2021年9月8日に“BLUE ENCOUNT”がニューシングル「囮囚」(読み:ばけもの)をリリース!タイトル曲は、唐沢寿明が主演を務める土曜ドラマ『ボイスII 110緊急指令室』の主題歌として書き下ろされた楽曲。歌詞には楽曲の世界観に合わせた当て字の漢字を使用した“言葉遊び”が多数散りばめられております。シリアスな楽曲に詰まった“言葉遊び”をご堪能あれ!
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“BLUE ENCOUNT”の田邊駿一による歌詞エッセイをお届け!どいつもこいつも「ばけもの」ばかりだと思っていたけれど、本当の「ばけもの」とは何なのか…。新曲「囮囚」に通ずる、大切な気づきと意思を綴っていただきました。是非、歌詞と併せて受け取ってください。

~歌詞エッセイ:「囮囚」~

「実に不甲斐ない世の中だ。」

父方の祖父と祖母と
二世帯住宅で生活していた頃の幼き私は
よくこの言葉を耳にしていた。
書斎でロッキングチェアーに揺られながら
テレビの政治番組を見る祖父の口から
毎度出てきた呪文のようなもの

「実に不甲斐ない世の中だ。」

こんな言葉は無関係だと思ってた幼少期、
歳を重ね辿り着いた今。
テレビのインチより何まわりも小さい、
手のひらサイズほどの画面を見ながら
大人になった私は
祖父と同じ呪文を唱えてしまっていた。
ロッキングチェアーではなく、
様々な思想や立場や価値観とやらの上に揺られながら。

「今」が悪いということではない
きっと昔からこの世には悪しき部分はたくさんあった。
私は単純にそれらに気づけてなかっただけなのだ

テレビをつければ悲しいニュース
ネットを見れば匿名の輩が
言葉という刃物で切りつけ合い

どいつもこいつも「ばけもの」ばかり。

こんな世の中の悪にやっと気づけて良かった、、、
ん? 待てよ。
何かおかしいな。
『気づけた』?





幼い頃、全てが光り輝いてた。

夏の朝の匂い
遊び疲れたあとに飛び込んだ布団の心地良さ
母に抱きしめられた時のぬくもり
父とよく手をつないで歩いた名もない畦道の景色

言い出したらキリがないほどの
些細な事が全て嬉しかった
もちろん嫌なこともたくさんあったであろう。
でもあの頃の私はそんなのを忘れるほどに、
喜びや楽しみばかり取捨選択していた。無意識に。

私は知らぬ間にあの頃の私を見失っていった。
積んだ経験に比例して捨てていった希望。
期待しない方が楽だと吐き散らかした絶望。

輝きだけであんなに満たされていたのに
大人になった私は、
己や誰かの哀しみや怒りをエサにしていた

そうだ。
結局、
そんなことしなくて良いのに
テレビをつけ、無意識に悲しいニュースに
チャンネルを合わせたのは自分だった。
そんなことしなくて良いのに
スマホをスクロールして、無意識に中傷を
探しているのは自分だった。

悪に気づけたのではなく
悪を自ら求めてしまっていたのだ
そのくせに世の中のせいにして
傍観者のふりしていたのは自分。

なんだ、私こそが「ばけもの」ではないか。
じいちゃん、不甲斐ないのは俺だったよ。
でもね、それに気づけたことは唯一の救いだったよ。



嫌なら見なきゃいい。
昔ならそれがなんとか通用した。
しかしながら今の世界は、
指を少し動かしただけで全てが覗けてしまう。
望んでないのに自分自身に負けそうになることがある

これから大切になってくることは
心の中の ばけもの とどう戦っていくかだ

一人一人が心の中のそいつに
打ち克つことができれば、
きっともっと今は良くなるはず。

抗おう。
囮に囚われてはいけない。

あの日捨ててしまった希望を、
あの日選択できなかった喜びと楽しみを、
私たちは取り返すことができるんだ。

<BLUE ENCOUNT・田邊駿一>

◆紹介曲「囮囚
作詞:田邊駿一
作曲:田邊駿一