守りたい相手もできたんだよ、伝えたかったのにもういないんだね…。

何か大事なものを取り逃がしたときのような、
舌打ちしたいような、くやしい感じが、来た。
人が亡くなることは、くやしい。
悲しい、よりも、淋しい、よりも、くやしい、
という言葉のほうがわたしにはぴたりとくる。
(川上弘美『晴れたり曇ったり』より)

 作家・川上弘美さんのエッセイから引用いたしました。人はいつか必ず亡くなるものですが、それを受け入れるのは簡単ではありませんよね。悲しい、淋しい、苦しい、言葉にし尽くせない感情がグルグル回って、その人との記憶を何度も再生して、それでも少しずつ死と向き合っていくのでしょう。しかし、どんなに月日が経って心が大丈夫になったつもりでも、ふとしたとき、まるで初めて気づいたみたいに「あぁ、そうか、もういないのか」と思い出すことがあるんです。そのときに真っ先に押し寄せてくるのがこの“くやしい”という気持ちなのだと思います。

あなたは最後まで笑ってた
いつものように優しく
もっと話したかったな
あなたは最初から分かってた?
離れる日が来ること
もっとケンカしておけばよかったな

何気ないくだらない思い出が
なぜか今になって輝く
「さよなら」/BLUE ENCOUNT

 今日のうたコラムでは、そんな今は亡き人への温かくも切ない思いを綴った新曲をご紹介いたします。ふいに“くやしい”気持ちがやって来る理由とは…?それを教えてくれるのが4人組バンド、ブルエンこと“BLUE ENCOUNT”が4月26日にリリースするニューシングル「さよなら」です。尚この曲は、5月3日から公開される映画『ラストコップ THE MOVIE』の主題歌に決定している、美しいミディアムバラード。歌ネットでは一足早く、歌詞の先行公開がスタートしております。

朝、眠い僕の横で
うるさく鳴る目覚ましの声が
あなたみたいで 気づけば探してた

くだらなかった人生だった
だけど誰よりもずっとあなたが
見捨てないで向き合ってくれたんだ
寝坊も少なくなってきたよ
守りたい相手もできたんだよ
伝えたかったのに
もういないんだね
「さよなら」/BLUE ENCOUNT

 歌詞を読んでみると“くやしい”=“後悔”がやって来るタイミングは、2種類あるようです。ひとつは過去を思うとき。人が亡くなる日は、そうそうピタリとわかるものでもありません。あとから「あれが最後だったの…?」と思うことも少なくないでしょう。こんな日が来るくらいだったら<もっと話したかったな>、<もっとケンカしておけばよかったな>、どうしてもっとあのとき…そんな取り返しのつかない悔しさが心に絡みつくのです。
 
 もうひとつは、今とこれからを思うとき。もう会えないことの一番の悔しさは<伝えたかったのに もういないんだね>…このフレーズに込められているのではないでしょうか。<寝坊も少なくなってきた>ことも、<守りたい相手もできた>ことも、いつかその守りたい相手との大切な子どもができたときも、その人には伝えることができない。最も伝えたときに最も伝えたい人がいないのはやはり悲しいより、淋しいより、“くやしい”ですよね。

さよなら さよなら
出会ってくれてありがとう
涙流す勇気 生きてく意味
明日が来る喜びをくれた

さよなら さよなら
あなたと過ごした日々よ
今までもらったもの全部
誰かにもあげられるように

さよなら さよなら
あなたと歩いていくから
気が向いたら 会いに帰ってきてよ
気がついたら 僕の背中押してよ
「さよなら」/BLUE ENCOUNT

 しかし、そんな“くやしさ”の先にあるものをわたしたちの心に届けてくれるのもブルエンの「さよなら」です。この歌の“あなた”は、もうこの世にはいないけれど、その人がくれた<涙流す勇気 生きてく意味 明日が来る喜び>、<あなたと過ごした日々>、<今までもらったもの全部>が“僕”の心の中では生きて力になっているのです。だからこそ、この曲から強く伝わってくるメッセージは負の感情ではなく<ありがとう>という全身全霊の感謝なのでしょう。
 
 悲しい、よりも、淋しい、よりも、くやしいよりも、いつか心からの“ありがとう”にたどり着けるその日まで、なんとか生きよう、前に進んでみよう、という気持ちにさせてくれる「さよなら」。是非、劇場でも、物語のラストを彩る歌詞をじっくり聴いてみてください。また、MVも心を震わせる映像作となっておりますので、要チェックです。