8月の最後の切なさを切り取りたくて四畳半でペンを走らせている最中

 2022年11月16日に“Laura day romance”が新作ep『Awesome.ep』をリリースしました。彼らは「春夏秋冬」の季節に連動した4連作EPプロジェクト『Sweet Seasons, Awesome Works』を始動。2作目にあたる『Awesome.ep』は、UKフォーク/カントリーを下敷きにしつつ、秋の印象を表現した日本文学的な歌詞と、井上花月の低い声域が響く楽曲群が収録されております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“Laura day romance”の井上花月(Vo.)と鈴木迅(Gt.)による歌詞エッセイをお届け!綴っていただいたのは、今作の収録曲「olive drive | 橄欖思巡」にまつわるお話です。まだ冬には少し早く、秋の風の匂いが香るこの時期にふさわしい1曲。ぜひ歌詞と併せて、お二人のエッセイを受け取ってください。



8月、「olive drive」というタイトルを迅くんからもらったときは、何を意味するタイトルなのかよく分からないような、でもたぶん分かったような、夏の終わりいつもかならず忘れてる「秋といえばこの風」みたいな香り強いこの名前になんだかすぐに惹かれていた気がする。
 
わたしはちいさい頃から季節が移り変わっていくときの風のつめたさや、熱い雨の匂いや怖いくらいピンクの空やめまぐるしい天気やそれに左右される街を歩くことなんかがほんとに好きで。そのなかでも秋は特によくて、まるで「秋」そのものなんて無いみたいに夏と冬の移り変わる時間のことを名づけられてるようなところ。気がつくとすぐに終わってしまうところ。長袖になれるところ。ぜんぶ含めてたまらない時期である(あとはあまりに暑すぎる夏の夜、春の兆し感じる冬の終わりなども好き)。
 
だから「olive drive」のもつ、みんなさよなら!と駆け抜けてって見えなくなってしまう感じは秋EPを代表する曲にぴったりだった。そしてそれをどう歌おうかと考えた結果、ちからを抜いてひっそりと歌ったトラックを重ねることで曲のもつ疾走感を損なわないように、温かい熱量がある雰囲気にすることができた。冷えきった夜に晒されても、胸の奥に残るささやかな光のような曲であれたらうれしいです。
 
ずんずん変わる天気や気温にわたしたちは永遠にふりまわされて、1年後もどってくるたび結局抱きしめたくなるのが季節で(もし何十年後いつか飽きていやになったとしても否応なく正しく訪れていてほしい)。そんな四季のことをテーマにそれぞれ3曲ずつ、というプロジェクトから始まったのがこの前リリースされた夏盤『Seasons.ep』、今回のが秋盤『Awesome.ep』です(冬も春出す予定です、プロジェクトについて詳しくはメンバーのインスタをチェックしてね)。
 
秋の風の匂い、またはめまぐるしい季節の変わり目が恋しくなったみなさまに、どうか何度も聴いていただけますように。
 
<井上花月(Vo.)>
 


― 100から0まで、が0から100まで ―
 
7月、4連作のepの一作目であった夏盤『seasons.ep』の制作を終えたまま疲れた身体をベッドに投げ出し、ぼんやりと二作目のepのことも考えなければなと、そんな頭の中と無関係な好きな音楽を流しながら、気づいたら朝だった。
 
コーヒーを流し込み、パンを齧りながらぼんやり次の曲になる可能性を持つデモを整理していると、その中でも一際疾走感を持った「olive drive」と名を付けられた曲が耳に残る。録音の日付は2021/11/18。曲を書くタイミングで目に映るものから強く影響を受ける僕が、ちょうど去年のこの頃に書いている曲ならば秋の曲に違いないのだろう。
 
この「olive drive」は、タイトルから楽曲内の物語を連想するという作詞法をよく行う僕の他の作品と同じように、僕の頭の中とiPhoneのボイスメモに大袈裟なタイトルをつけられて、肝心な歌詞は空っぽのまま約一年大きな顔して踏ん反り返っていた。
 
自分が作った曲ながら、可能性のある曲というものはいつのまにか作者との主従関係を入れ替えてしまう。「olive drive」というやつをタイトルに見合う一人前にする為に、歌詞を改めて書く日々が始まる。
 
秋という季節は、僕にとって1番のお気に入りである。それ故に特に過ぎ去るのが早い。自分でも追いつけない程のスピード感で物事が変わっていく。景色も人との関係も、全て。それを捉えようとした試みは初期段階では全くうまくいかなかった。
 
何回目かわからない暗礁に乗り上げた時に、ありのままに肩の力を抜いて作ろうというプロジェクトの最初のコンセプトを思い出した。ライブや遠征も絶え間なくあった日々に忙殺されていたのだと思う。その隙間で歌詞で狙っていた大きな循環を描き切ろうなんて無理があった。
 
それならばと、こうして曲を作り絶え間なく届けるというサイクルの中にある自分を客観視した時、この目まぐるしさの只中にある状況をそのまま歌詞にすれば良いと思い至ったのだ。
 
8月の最後の切なさを切り取りたくて四畳半でペンを走らせている最中
 
僕が住むのは四畳半ではない。それでも普遍的な物語のように聴き手との接地面を常套句に見出していくこと。定点カメラのタイムラプスのように、あくまでゆっくりと変わるものを描くこと。去るだけではなく必ず戻ってくるもののこと。身の回りに溢れるそんなものを、自分の試みそのものも添えて、歌詞に。整合性よりも頭の中をそのまま。
 
1秒先では思ってることも変わってしまわないとも限らない。だから元々<ベイビー>だったラインを<メイビー>に。確実なのは何かが変わっていくことだけ。
 
この書き出しから最後まで自分でも信じられない速さで書き上げた。頭の中は整理していないが何よりも自分の歌だ。
 
そうしてこの曲が出来上がる。皆に届ける為にはここからまた様々な工程がある。そうしてカレンダーにまた印が連なる。目まぐるしく色の変わる日々を追い、少しずつ歌にする。そうして僕のolive driveは続くのだ。
 
<鈴木迅(Gt.)>


◆『Awesome.ep』
2022年11月16日発売
 
<収録曲>
1. olive drive | 橄欖思巡
2. maintainance
3. cardigan