裏切った男は女の踏み台にでも成り下がればいい

今日のうたコラムでは、“tonari no Hanako”のameによる歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回は第1弾です。綴っていただいたのは、彼らのメジャーデビュー曲「ヘアゴムとアイライン」にまつわるお話。一つの恋を終え、揺れ動きながらも前を向く女性の強い気持ちを“落ちないアイライン”に重ね、リアルに綴る歌詞が印象的な1曲。その歌詞の裏側にある記憶とは…。ぜひ、歌詞と併せてエッセイをお楽しみください。



高校2年の時、クラスメイトに同じクラスの彼氏を奪われた。
正確に言うと“奪われた”ことは後から知った。
私たちは校内でも仲が良いと有名なカップルだった。
だけどある日、突然「君が悪いわけじゃないけど、別れて」とメッセージが送られてきた。
 
意味が分からなかった。理由も。
いや明日も教室で会うし。てか今日も普通に一緒に喋ってたし。
電話も出ない、理由を問うメッセージは全て無視。
挙げ句の果てに届いた返事は「それで?」の一言。
もうどうしようもなかった。
 
その日から地獄が始まった。
登校した教室では、彼が隣の隣の席にいた。
どうしても視界に入るので、授業中耐えきれず教室を飛び出して中庭を徘徊したりした。
 
毎日泣いた。
「私が至らなかったのかな」
「想いなんて急には冷めないから、もう一度ヨリを戻せるように頑張ろうと思う」
2週間ほど経ち、そう周りの友達に話していた時だった。
 
1人の友達が、私にそっとこう言った。
「あまりに可哀想で見ていられないから、本当のこと教えるね。
あなたの元彼と××ちゃん、付き合ってる。浮気だよ。あの子に取られたんだよ。」
 
雷に打たれたような衝撃だった。
純粋に彼を信じ切っていた私は、そんな可能性を1ミリも想像したことがなかった。
確かに以前、その子が彼にノートを借りているのを見かけて、
なんでわざわざ私の彼に借りる? とは感じたけど、まあクラスメイトだし、彼の眼中にもあるわけないと思っていた。
でも、現実は違った。
私は彼女に負けたのだ。
 
その日から世界は変わった。
クラス中が、いや学年中が私の味方をし、一緒に怒り、守ってくれた。
私に届いた「別れて」のメッセージは、彼女が打って送っていた…と後に知ったとき、怒り狂ってここには到底書けない失礼なあだ名をつけたり、心の底から罵ったりした。
相当荒れたが、みんなが支えてくれて、私は少しずつ立ち直ることができた。
こんなクソな経験をこのままで終わらせてたまるか、という意地に近い反骨精神も生まれ、そこから猛烈にメイクやファッションを勉強し、女磨きが始まった。
 
これも後から知ったことだが、彼女は校内では有名なカップルクラッシャーだった。
圧倒的存在感と華やかさを持つ誰もが羨むカップルの男を、次々と乗り換えさせるのだ。
高1の頃にも前科があったようで、彼氏を取られた被害者たちが私の元へ来て教えてくれた。
 
あの子を超える。そして元彼にひどく後悔させてやる。
私は圧倒的に幸せになってやると、怨念を込めて誓った。
 
元彼たちは案の定、高3の夏頃には破局した。
彼女がまたもや別のカップルの彼氏に乗り換えたのだ。
受け入れる男もどうかしている…と思うのは私の勝手で、きっと男にしか分からない良さやスキルがあるのだろう。
知らんけど。
 
時は経ち、高校卒業後、同窓会で元彼と遭遇した。
そこで「別れて後悔している、もう一度やり直せない?」と言われた。
性格悪いけどね、すっごく滑稽で面白かった。ざまあみろと思った。言わなかったけどね。
心の中でガッツポーズを決めたあの瞬間が、今も自分磨きの原動力になっている。
どんどん綺麗になって、人としても成長して、こんなに楽しいことはない。
どんな失恋でも、捉え方一つで自分をドレスアップする糧にできるのだ。
 
なんてね。
上記が誰の話なのか、本当の話なのかはさておき、
「ヘアゴムとアイライン」という曲はそういう女の強さが込められている。
このようにうっかり執念深い他人を深く傷付けてしまうと十数年に渡って恨まれる可能性があるということを、教訓のようにお守りにしつつ今後も歩みたい。

<tonari no Hanako・ame>


◆紹介曲「ヘアゴムとアイライン
作詞:ame
作曲:河口京吾