小さな小さな僕の誇り

 2023年7月18日に“Anonymouz”がDigital Single「レッスン」をリリースしました。今作はwacci・橋口洋平の提供曲。真っ直ぐで不器用な主人公の、小さな小さな成長を描いた1曲。憧れのひとと恋愛をした時に感じる背伸び、不器用な自分への後悔、相手への感謝…、具体性のあるエピソードとともに描いた、心温まる失恋ソングとなっております。

 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“Anonymouz”による歌詞エッセイをお届け!綴っていただいたのは、新曲「レッスン」にまつわるお話です。wacci・橋口洋平の手がけた歌詞を読みながら膨らんだ想像は…。そして自身がもっとも好きなフレーズも明かしてくださいました。ぜひ歌詞と併せて、エッセイをお楽しみください。



いつも堂々としていて、身なりも指先まで隙がなくて、でも余裕があって、共感も助言も綺麗な言葉で難なく返す。
驚いた顔やくしゃっとした笑顔、時々流す涙でさえ演出に見えてしまうほど素敵で、憧れが詰まった人と主人公は付き合っていたんだろう。
 
はじめて「レッスン」のデモを聞いた夜、歌詞を見ながら妄想が膨らんだ。
どうしたらもっと愛されるのか、必要としてくれるのか、そんな考えでいっぱいになって、明日自分が「別れよう」と言ったら彼女、どんな顔するかなって考えたり。
なんてことない顔で「今までありがとう」って言ってきそうな相手を勝手に想像しておいて消えたくなったり。
 
彼女には彼女の世界があって上手に入り込めているのかわからなくなるような。
人と自分を比べる時の体力消費量は半端ない。それが大好きな人となるとなおさら。
考えれば考えるほど主人公の気持ちが私の中でじわじわ広がって胸が締め付けられた。
 
期待を持たせないように 僕がちゃんとわかるように
さよならを伝えてくれた 君の優しさは見事だった
憧れの君の隣で 見合う人になりたくって
背伸びをして空回った 僕のは優しさじゃない
 
歌の始まりの4行でこれだけ二人の関係性を掴める表現をした橋口洋平さんは改めて言葉の魔法使いみたいだと思った。
まるで映画を観ているような一曲を一回聴き終わったころには「レッスン」に出会えて良かったと思えていた。
それくらい真っ直ぐにこの曲が今でも大好き。
 
君を好きになったことも 恋人でいれたことも
小さな 小さな 僕の誇り
 
サビの頭のこの歌詞が強いて言うなら一番好きなフレーズかもしれない。
宝物みたいでどうしても守りたいものなように感じて「小さな小さな」と繰り返す歌詞を大切にレコーディングした。
どうして橋口さんが「小さな小さな」という言葉を選んだのかずっと考えながら。
 
そして橋口さんに直接お会いできるタイミングで聞いてみると
「恋愛でいうとまだ一年生みたいな感じで上手なわけじゃない主人公で。踏み出した小さな一歩だったり小さな成長を自分でちゃんと認めてあげたいっていう気持ちを表現した。」
とおっしゃっていて。
 
確かに慣れないことに挑戦する時、急激に成長したり完璧にこなすことなんてほとんど不可能で。
それでも小さな一歩を重ねて一つ一つのレッスンを流さず素直に受け止めることで確かな成長ができる。
主人公は振られてしまっても、相手の優しさをまっすぐ見つめて前に進もうとしていて、確実に素敵な人になっている。
小さな一歩も存在するかしないかで何もかも変わってしまうかもしれない。
 
橋口さんの書く、優しく暖かい歌を自分の曲としてリリースすることができて夢のよう。
活動を続けてきて沢山の小さな一歩が、橋口さんに、「レッスン」という曲に、私を繋げてくれたみたい。
とても特別で大切に受け取ったこの曲を丁寧に歌い続けたい。
そしてこの「レッスン」という歌が、日々小さな一歩を踏み出していく誰かの気持ちをそっと音楽で包みこむ存在になったらいいなと思います。

<Anonymouz>


 
◆紹介曲「レッスン
作詞:橋口洋平(wacci)
作曲:橋口洋平(wacci)