2024年1月24日に“ヒグチアイ”が5枚目のオリジナルフルアルバム『未成線上』をリリース! 「大航海」で始まり、「いってらっしゃい」で終わる、6つのタイアップ曲を収録した全11曲入りのアルバムとなっております。さらに自身監修の『元カレかるた』も発売中。元カレとの切なくてロクでもない思い出の数々を『かるた』にまとめた内容に…!
さて、今日のうたコラムではそんな“ヒグチアイ”による歌詞エッセイを3週連続でお届け。今回は第2弾です。綴っていただいたのは、収録曲「最後にひとつ」にも通ずるお話。ヒグチアイの引っ越しのこだわりとは。そして、引っ越しても引っ越しても、開けなかった段ボールがある理由は…。
去年の4月に引っ越しをした。上京してから16年、もう9回目の引っ越しになる。物件大好きな人間としてテレビに出演したことがあるぐらい引っ越しにはこだわりがあるのだ。
まず間取りが変なこと。綺麗すぎないこと。そして愛しがいのある欠陥があること。
今の家に引っ越す前に内見に行った。部屋の一番奥に和室があり、その壁紙はベロベロに剥がれていた。「…猫、飼ってましたかね?」そう不動産屋に尋ねると「ペット禁止です」とピシッと言われる。わかってますよ。知ってて引っ越してますよ。この壁紙、なんで剥がれてるんですか? って聞くよりちょっとウィットに富んでませんか? いらないですか、そうですか。
結局その壁紙は湿気でベロベロになったらしい。その湿気はどうすることもできないので壁紙が剥がれたら連絡ください、張り替えます、とのことだった。ずっと隠される壁。ずっと見ないふりの壁。壁…お前は今、幸せだろうか。
そんな「人によっては絶対無しがわたしには大いにあり」ってな物件を探して引っ越し続けている。
引っ越しして早10ヶ月。家の中にはまだ段ボールが残っている。前の引っ越しでも、その前の引っ越しでも開けなかった段ボールだ。もうそんなもの捨てちゃえば良いのに、と思う。何度も迷ってきた。それでもなお捨てられないのは、忘れてもいい記憶こそ思い出したくなる日が来る気がするから。その日まで押入れのずっと奥にひっそりと息を続ける段ボール。玉手箱みたいに開けたら歳を取るんじゃなくて、歳を取るから開けるんだ。歳を取ってから開けるんだ。
<ヒグチアイ>
◆『元カレかるた』より1句


◆オリジナルフルアルバム『未成線上』
2024年1月24日発売
<収録曲>
1 大航海
2 祈り
3 自販機の恋
4 わがまま
5 最後にひとつ
6 このホシよ
7 恋の色
8 誰でもない街
9 この退屈な日々を
10 mmm
11 いってらっしゃい