2024年8月28日に“Bocchi”がNew Single「ユートピア」をリリースしました。彼らは“貴方の孤独に寄り添う音楽を”をコンセプトに、美しく儚い世界を繊細なサウンドと歌で表現する東京を拠点に活動中の3人組ロックバンド。
今日のうたでは、そんな“Bocchi”のボーカル・まさやによる歌詞エッセイをお届け! 綴っていただいたのは、新曲「ユートピア」にまつわるお話です。様々なものごとに対して積み重なってきた「なぁ、うるさいんだよ」という気持ち。そして、そこから繋がる「孤独」というテーマ。歌詞に込めた想いについて明かしてくださいました。ぜひ今作と併せて、エッセイを受け取ってください。
あの時の自分が、今の自分を作っている。
今の自分が、あの時の自分に歌ってる。
子どもの頃からルールやマナーを守るのが苦手だった。平たく言えば、嫌いだった。更に言えば、誰かが勝手に決めた正義みたいなものはクソだと思った。
時間を守りましょう。給食は残さず食べましょう。規則正しい生活を心がけましょう。etc...
なぁ、うるさいんだよ。
そう思っていたわたしは、毎朝派手についた寝癖の直し方も分からず、母親に頼んで直してもらい、あぁでもないこうでもないとぶつぶつ言いながら、小学校へ向かうのでした。
学校なんて子どもからすれば小さく縮めた社会みたいなもんで、みんなが普通にやってくる宿題を普通にやってこないと咎められるし、みんなが普通に食べるものを普通に食べられないと怒られる。
なぁ、うるさいんだよ。
それをやることって当たり前かもしれないけど、その「普通」って誰が決めたんだろうね。誰がそれを正しいとしたんだろうね。
校長先生? 学習指導要領?
本当はそんなの誰も知らないんだろ。
先生、あなたのお陰で今もわたしは好き嫌いが人一倍多いです。人二.五倍くらい。
今振り返ってみれば、こういう反感を子どもながらに持ってしまったことが、ルールやマナーを嫌いになるきっかけで、自分にとっての原体験だったのだと思っている。
本題に入ります。
つまるところ、「ユートピア」という曲は自分の中で溢れ出した「なぁ、うるさいんだよ」を歌った曲です。
と、端的に説明すればそうなるのだけど、もちろんそこに至るまで紆余曲折ありまして。
ゆい(Ba.)からデモを貰っていたんだけど(ここだけの話、その頃のタイトルはしゃぼん玉)、当初テーマをどうするか悩んでいて、そこでBocchiが扱う大きなキーワードとして「孤独」というものがあるから、歌詞はそれに焦点を当てて作ってみようと思い立ったんだっけな。
20年生きてきて、「なぁ、うるさいんだよ」とこれまで自分が経験してきた様々なものに対する怨嗟と、でもあなたは孤独じゃないし変わり者なんかじゃないよということを、ポップな曲調とメロディーに乗せて歌ったら面白いんじゃないかと思って出来たのが「ユートピア」です。
当たり前のことを当たり前にすることが正しいと思う人もいれば、そう思わない人もいる。自分は後者で、ただそういう人達が、変に周囲から邪険に扱われることが自分の中で許せない節があって。
世間様が大好きなように、みんなMBTI診断気になって聞いてくるじゃないですか。
あんなので人一人の何が推し量れるんだと心底思うけど、そうやって多種多様な性格の人が居ることが分かっているのにも関わらず、自分の中の「当たり前」だとか「正義」みたいなものに抵触する人間は、お構い無しに仲間はずれにしようとする空気感みたいなものを学生時代に周りから度々感じていて。
ただ、そういう現代社会へのアンチテーゼを歌った曲ではなくて、あくまで純粋に自分の中で感じたこと、経験したことについて、「孤独」というテーマのもとに出来上がった曲だなと思っています。
みなさんは「ユートピア」を聴いて何を思いましたか。
P.S.
このコラムを書くまで、こういうことは今まで誰かに話したことがなかったように思う。
これまで、周りから「変わってるね」と言われることが多かったが、その度に自分の中では周りと何が、どう違うのだろうと自問自答を繰り返してきた。その言い方が鼻につくことも何度もあった。
自分はマイノリティだと遠回しに言われてるようで、誰かに分かってもらいたい、理解してもらいたい、自分と同じ人を見つけたいと少しずつではあるが、感じていくようになった。中学生くらいの頃からかな。
歌なら、自分を表現できるかな、少しは分かってもらえるかな、と考えたのが音楽を始めた理由の一つでもある。
とは思っていたものの、自分は幾分か天邪鬼な所があって、そんな自分の孤独なんか誰にも分かってほしくない、共感されてたまるか、とも思っていた。
その、誰かにわかってたまるかと思った感情の一つ一つを、
今は誰かに届くように、伝わるように噛み砕いて、咀嚼して歌詞にしている。
昔の自分が聞いたらきっと笑えるよな。
でも、一つだけ違うことは今はそれを受け取ってくれる人達がいることだ。
伝わるかは分からないけど、やり場のない感情をどうにか歌にして、それを聴いてくれる人がいる。自分たちの歌詞に共感までしてくれる。
あの時の自分じゃ想像も出来なかった。
でも、きっとあの時の自分がいなかったら、今の自分もいなかった。
ずっと変わらない。
あの時の自分が、今の自分を作っている。
今の自分が、あの時の自分に歌ってる。