たったひとつ大切なもののために「明日」を生きていく。

 2024年10月31日に“野田愛実”が新曲「明日」をリリースしました。同曲は、フジテレビ系10月期木曜劇場『わたしの宝物』主題歌。繊細なピアノとヴァイオリンのサウンド、そして野田愛実の聴くひとを惹きつける歌声が特徴的なバラード楽曲となっております。
 
 さて、今日のうたではそんな“野田愛実”による歌詞エッセイを3回に渡りお届け。今回は第1弾。綴っていただいたのは、新曲「明日」にまつわるお話です。ドラマ側からのオーダーを受け、作品を読んだ上で、抱いた感情。そしてこの歌に込めた想いは…。歌詞への様々なこだわりも明かしてくださいました。ぜひ歌詞と併せて、エッセイを受け取ってください。



<何故 人は叶わなかった夢に 執着してしまうの>
 
どんなに毎日を楽しく、笑顔で過ごしていても、
そうして過去を悔やんだり、迷ってしまうことがあると思います。
そんな自分の弱さや揺れ動く心を、繊細に描きたいと思いました。
 
こんにちは。野田愛実です。
冒頭の歌詞は、フジテレビ系10月期木曜劇場『わたしの宝物』の主題歌「明日」という楽曲です。
今日は、その「明日」への想いを、ここに綴りたいと思います。
 
制作のきっかけは、ドラマ『わたしの宝物』主題歌のオファーを頂いたことから始まります。
このドラマは、夫以外の男性との子どもを、夫との子と偽って産み育てる“托卵”をテーマにした作品です。
同じく木曜劇場『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』『あなたがしてくれなくても』の流れを汲む、夫婦の関係性を描いたドラマの第三弾として放送されました。
 
「主人公・美羽の声にならない想い、葛藤を、代わりに歌が語ってくれる、そんな主題歌をお願いします」というのが、頂いたオーダーでした。
 
最初にこの作品を読ませていただいたときに抱いた感情が、冒頭にも触れた、「人は何故、叶わなかった夢や、手に入らなかったものを、欲しがってしまったり、執着してしまうのか」というものでした。
 
わたし自身も、日々を過ごす中で、何度もこういった感情に襲われて、苦しくなることがあったし、きっと誰しも一度は経験したことのある感情なのではないかと思います。
だからこそ、主人公の気持ちが痛いほどわかってしまう。だけど、主人公のしてしまったことは決して肯定できることではないから、人の弱さやずるさを美化することなく、綺麗事にすることなく、責任や覚悟を持って、この楽曲を書こうと思いました。
 
さて、歌詞を書く際に、比喩や情景描写などを使って、感情を表現するという手法があります。
「明日」では、2番でそれを使いました。
1番では、シンプルで直接的な言葉を使ったのに対し、2番では名前をつけることができない感情を「空」に置き換えて書いています。
 
私たちが日々見ている空には、時間帯によって名前があって、「明日」で描いたのは、“薄明”という空でした。
薄明は、夜明け前と夕焼け後の、ほんの僅かな隙に訪れる、あたり一面が青い光に照らされて見える現象のことです。地平線の下に隠れている太陽の光が、空の高いところにあたり、より散乱しやすい青だけが空に残り、深い青に見えるのだそうです。
目の前の道を進むことも戻ることもできず自問自答する、そんな言葉にできない想いを、<明けていくのか 暮れていくのか>わからない“薄明”という空になぞらえました。
 
1・2番とも、AメロBメロでは、迷いや葛藤を書いてきましたが、サビではそれを受け止めて生きていく覚悟を、しっかりと表したいと思いました。
タイトルにもなっているサビの冒頭の「明日」という部分は、この曲で一番最初に作ったフレーズでした。私たちの生活の中であまりにもありふれた言葉で、その意味をわざわざ考えることなんてなかなかないけれど、改めて「明日」という言葉に向き合って、希望や決意を感じました。
 
何度も何度もこのフレーズを歌うことで、わたし自身も強くなれる気がします。
自分の選択によって、これから先、誰かを傷つけてしまうことも、自分が傷つくことも、きっとあるでしょう。
その責任や痛みを忘れずに、たったひとつ大切なもののために「明日」を生きていく。これからもずっと先も、覚悟を持って、この曲を歌っていきたいです。
 
<野田愛実>



◆紹介曲「明日
作詞:野田愛実
作曲:野田愛実