会いたくて

 2025年5月7日に“関取花”がニューアルバム『わるくない』をリリースしました。今年2月に独立を発表した彼女が自身のレーベルより発表する第一弾目のアルバム。全7曲が収録されております。
 
 さて、今日のうたではそんな“関取花”による歌詞エッセイを3週連続でお届け。最終回は収録曲「会いたくて」にまつわるお話です。スマホのメモ帳に残っていたワンフレーズ。自身が音楽を続けてきた理由とは。そして、続けてきた先に在ったものは…。ぜひ歌詞と併せて、エッセイをお楽しみください。



生きていると、自分はこの人やこの景色、この瞬間のためにここまでいろんな道を歩いてきたんだなと思う時がたまにある。遠回りをしながら、つまずきながら、何度も諦めそうになりながら、それでもいつか何かに誰かに会えると信じて、歩いてきたのだなと。
 
生まれた時からそばにいてくれた家族というものに始まり、友人、恋人、仕事、環境、感情と、人は様々なものと出会い、そして別れ、また何かを探しに旅に出てを繰り返して生きていく。
 
30歳を過ぎた頃あたりから、自分の中でなんというか出会えるべき人たちに出会えているという感覚になることが増えた。20代で膨れ上がった人脈やガッツもいい意味で落ち着いてきて、「結局自分は何を選びたいのか」というところと向き合うようになったのがそのあたりだったのだと思う。
 
スマホのメモ帳に、「たった一人の恋人と 片手で足りる友達と」というメモ書きを残していたのもその頃だった。べつに歌詞にするために書いたわけではなく、ただなんとなくふと残したものだった。ちなみに私は普段からこういうのをメモするタイプではない。メモしたとしても大体忘れてしまうのだが、なぜかこのワードだけはずっと頭に残っていた。
 
「会いたくて」という曲を書いたのは1年半くらい前だった気がする。思い出したようにギターを手に取ったある日、「たった一人の恋人と 片手で足りる友達と」のところにメロディーがついた状態でいきなり口から出てきたのだから驚いた。ああ、この瞬間に出会うために音楽を続けてきたんだな、あの時メモを残したんだな、と思った。
 
大切な人やものに出会えた時、私は同時に自分自身にも出会えていると感じる。自分が心から尊敬し愛せる人やものに出会い、相手も同じように自分のことを思ってくれていたとしたら、これまでの自分が歩んできた道はきっと間違いではなかったと思える。過去の大嫌いだった自分もやるせない日々もやっと肯定してあげられる時がくる。その時、私はやっと私に出会えたと感じる。今の私に出会うために、これまでのすべての自分は必要不可欠だったのだと。
 
私は私に会いたくて、音楽をずっと続けてきた。その道中で、たくさんの人やものに出会うことができた。会いたくて、会いたくてと手探りで続けてきたその先にいたのは、「わるくない」と思える自分自身だった。
 
<関取花>


◆紹介曲「会いたくて
作詞:関取花
作曲:関取花

◆ニューアルバム『わるくない』
2025年5月7日発売
 
<収録曲>
1.わるくない
2.VRぼく
3.いつかね
4.空飛ぶリリー
5.安心したい
6.二十歳の君よ
7.会いたくて