2025年7月23日に“クジラ夜の街”が2025年第二弾となる配信シングル「REAL FANTASY」をリリースしました。7月3日に渋谷WWW Xで開催した自主企画「QUJILA 8th ANNIVERSARY "リアル×ファンタジー"」に向けて書き下ろしたロックチューン。アレンジャー兼サウンドプロデューサーに、Teleのアレンジ・キーボード演奏をはじめ、BRADIOのアレンジ等にも参加している奥野大樹氏を起用した1曲となっております。
さて、今日のうたではそんな“クジラ夜の街”の宮崎一晴による歌詞エッセイをお届け。かつては、あえて自分たちを形容しないようにしていた彼が、“ファンタジーを創るバンド”という軸にたどり着いた理由とは。そして自身にとってのファンタジーとは…。ぜひ新曲「REAL FANTASY」と併せて、エッセイを受け取ってください。
5年くらい前に
あるオーディション(街のテーマソングを募集するコンペ企画)があって、クジラ夜の街は一次審査を通過して、偉い人と面接することになったんですけど
「君たちってどういうバンドなんですか?」
って訊かれた時、ほんと、何も思いつかなかったんですね。
「歌詞が売りで…」とか
「演奏の巧妙さが…」とか
「ジャンルレスな音楽性で…」とか
当たり障りのない紹介文を、呪文のように、ダラダラダラダラ喋りまくって
「…まあ、的な感じっすね笑」
『なるほど笑』
みたいなやり取りをした時の、大人の顔に絶望して、そのあとの会話はあんま覚えてないです。
かなり自分にがっかりしました。
当時19歳で、バンド始めて3年が過ぎた頃だったんですけど。3年もやって自己紹介すらまともにできないって、なんだよそれってなっちゃって。
たぶんあの頃は、自分たちを形容することからずっと逃げていたんです。型にハマったらバンドは死ぬって思っちゃってて。当てずっぽうに色んな曲を書いてたと思います。
自分たちのやりたい事は言葉で説明するもんじゃない、音楽で伝えるんだ! みたいなのって聞こえはいいですけど、結局それって逃げでしかなくて。自分が何者で、何をしたいのかわからなければ、音楽に芯は生まれない。
あの頃のクジラ夜の街は、完全に迷子だったわけです。それもタチの悪いことに、迷っている自覚のない迷子です。
オーディションには普通に落ちました。
そのあと。
やっと俺たちは
「どういうバンドなんですか?」という問いに
1秒で切り返せるようにしたいと思い。やがて今の
“ファンタジーを創るバンド”にたどり着きました。
ちっちゃい頃から、RPG(FFとかテイルズ)やジブリ、ディズニー作品に多く触れてきて、そういう御伽噺的世界観が俺は大好きだったので。そこで得た体験を、ロックバンドという器に落とし込めたら、ユニークでかっこいいんじゃないかな、と思って。
で、毎ライブ絶対に
「ファンタジーを創るバンド、クジラ夜の街です」と自己紹介するようにしていきました。するとライブの反応が圧倒的によくなって、よりたくさんのお客さんが見にきてくれるようになりました。
どういうふうにライブをするべきかの指針が明確に定まって、表現にブレが無くなったのがきっと良かったのだと思います。
なにより楽曲作りがすごく楽しくなりました。
型にハマるのを恐れていた自分でしたが
一度型を作ることで、その型から少しはみ出たり、壊したり。遊び方次第でむしろ曲作りの幅が広がっていったといいますか。やはり一個自分のスタイルを決めるのって大事なんだなと実感したわけです。
さまようばかりだった自分に、道を提示してくれたのが「ファンタジー」です。俺はこの興味深いテーマと、これからも真摯に向き合っていきたいと思っています。
よく、ファンタジーは現実逃避だと、言う人がいますが、自分はそうとも限らないと考えています。
子どもから大人まで、多くの人が幻想を追い求める理由は、辛い現実を忘れたいからではなく、むしろ、現実を生き抜くためのヒントをそこに見出したいからだと思います。
迷子だったクジラ夜の街が、進路を切り拓けたように。
ファンタジーは逃避ではなく
どこまでも冒険で
どこまでも挑戦な
我々が前へ進んでいく為の灯りです。
ミッキーも
パズーも
ネスも
ティーダも
停滞しない。
物語の先を見つめています。
なのに僕らが、尻尾巻いて逃げるわけにはいかんわけです…。
さて次はどんな世界の曲を書こうかなーと、その前に
「REAL FANTASY」では一旦、自分のファンタジー観を共有するような歌詞を書きました。いわばクジラ夜の街の中間レポートのようなものです。これを皮切りに自分たちの音楽はもっと深い幻想へ進んでいきます。