今秋に“ヒグチアイ”がメジャー3枚目となるニューアルバムをリリースします。さらにその発売に先駆け、2019年6月19日を皮切りにデジタルシングル三部作を配信することが決定。すでに第1弾「前線」が配信中です。さて、今日のうたコラムでは、そんなリリースを記念して“ヒグチアイ”本人がエッセイを執筆してくださいました。
7月~9月の期間に月1度、スペシャルな記事をお届け…!尚、待望のニューアルバムは、ヒグチアイが自身の過去を振り返って、これまでの自分と向き合いながら制作されているとのこと。今回のコラムも、何かの収録曲に、どこかのフレーズに、繋がっているのかもしれません。それではまず、第1回エッセイをじっくりとご堪能ください!
【第一回:ウオノメと幼きわたし】
良い毛抜きを買う。
わたしのこだわりの一つである。
こだわり、に、個性、があると言っても過言ではない。それがどんなに小さなこだわりだとしても。
実家には大量の毛抜きがあった。家系なのか、足の裏にウオノメがよくできる家族だった。ウオノメ、というのは直径5ミリほどのイボで、中心にある芯を抜くと治る、と樋口家では言われていた。母親が、ウオノメの芯を抜くのが、死ぬほど好きだった。それはもう、すごかった。母は、巻き爪で、よくその爪を自分で抜いていた。ぼろぼろで血だらけになった足を見て満足げだった。
母に見つかるとウオノメの芯を抜かれてしまう。そしてあんな風にぼろぼろの血だらけにされてしまう。そう思ったわたし、兄、妹は、こっそり自分でウオノメの芯を抜いていたのだ。そしてその作業をするうちに、わたしにもその血が流れていることを知った。わたしは、ウオノメの芯を抜くのが死ぬほど好きだと。
家にあった毛抜きは、先が四角く持ち手まで同じ太さの「定番毛抜き」、そして先が少し細くなっている「台形毛抜き」、そして先がとても細く少し曲がっている「ピンセット毛抜き」の三種類だった。わたしの一番のお気に入りはピンセット毛抜き。どんな隙間でも追い求められるし、掴めば離さない、それはサバンナで生きる蛇のようでもあった。
実はこのピンセット毛抜きがうちの一番人気。常にトップを走り続ける看板ピンセットだったため、よく借り出されていた。家族五人暮らしだったため、ウオノメ時期が重なるとかなりの確率で借りることができない。
「あ、あのさ、ピンセット毛抜きどこ行ったかな?」なんて言おうもんなら母親の餌食になる。そして、芯を抜き終わった誰かは元の場所に毛抜きを戻したりなんかしない。自分の手元に置いて、常に監視していたいのだ。束縛したいのだ。だってピンセット毛抜き以外毛抜きじゃないの…。
大人になり、ウオノメの出来ない身体になったわたしはもうピンセット毛抜きへの依存はなくなった。しかし、驚いたことに、大人の女性というのは、毛抜きが必要な生き物だったのだ。わたしはピンセット毛抜きを探した。いやピンセット毛抜きよりもっといい毛抜きがあるのかもしれない。Amazonをかき分け、楽天市場で迷子になり、そしてたどり着いた東急ハンズで出会った。壁一面に並んだ毛抜きの中でそいつは輝いて見えた。値段も意味わからんぐらい高かった。
買った。買ってやった。そして勝った。勝ったのだ。
以来一度も浮気せずその毛抜きを使い続けている。
こだわり、に、個性、があると言っても過言ではない。それがどんなに小さなこだわりだとしても。そしてそのこだわりは幼少期に作られたものがとても多い。思い返してみてほしい。あなたのこだわりはなんですか?
<ヒグチアイ>
◆3rd Album 今秋リリース決定!
先行デジタルシングル三部作
第一弾「前線」配信中
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<LIVE>
■ヒグチアイ アルバムリリース記念
新曲披露独演会 [ 闇市 ]
2019年8月3日(土) 代官山 晴れたら空に豆まいて
2019年8月10日(土) 大阪 GANZ toi,toi,toi
■HIGUCHIAI presents 好きな人の好きな人 - 氷 山 -
2019年8月24日(土) 渋谷CLUB QUATTRO
act:mol-74 / ヒグチアイ +1act(後日発表)
■HIGUCHIAI band one-man live 2019
2019年11月16日(土) 東京 Veats shibuya
2019年11月24日(日) 大阪 梅田 Banana Hall