ふと、あの日に帰りたくなって“あの曲”を聴いてしまう。

mol-74
ふと、あの日に帰りたくなって“あの曲”を聴いてしまう。
2023年7月9日に“mol-74”がnew mini album『きおくのすみか』をリリースしました。今作は自主レーベル「11.7」の設立後初となるミニアルバム。そしてアーティスト写真とジャケット写真は、今回のコンセプト「あるひとつの集合住宅を舞台とし、住人それぞれの“記憶”に纏わる物語」をなぞったビジュアルとなっております。 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放った“mol-74”の武市和希による歌詞エッセイをお届け! 綴っていただいたのは、今作の収録曲「 0.1s 」にまつわるお話です。この曲の制作時、ふと結びついたある夏の思い出とは…。あなたにとって、心をタイムスリップさせてくれる楽曲は何ですか? ふと、あの日に帰りたくなって“あの曲”を聴いてしまう。 音楽にはそんなタイムスリップをさせてくれるような魔法がある。 高校や大学の通学時によく聴いたあの曲。 昔の恋人が好きだったあの曲。 適当にかけていたラジオから流れてきたあの曲。 仕事終わり、電車に揺られながら聴いたあの曲。 そんな“あの曲”を久しぶりに聴いてみると、懐かしい景色や音が蘇ってくる。そんな経験がみなさんにもきっとあるのではないだろうか。 僕にもそんな“あの曲”がいくつか思い当たる。 中でも、特にこの季節になると聴いてしまうのがBase Ball Bearの「BREEEEZE GIRL」という曲だ。 高校を卒業してから製菓の専門学校に通っていた僕は、卒業したその年の夏に、クラスメイト5人とレンタカーを借りて三重県の鳥羽に1泊2日の旅行に出かけた。僕にとってははじめて友人たちと出かけた旅行ということもあって、その思い出自体がとても特別なのだけれど、道中の車内で友人が流してくれたBase Ball Bearの「BREEEEZE GIRL」という曲は、今聴いてもあの日のレンタカーの車内に連れ戻してくれる。 車内から眺めた高速道路の風景、サービスエリアで食べたソフトクリーム、旅館で嗜んだ贅沢な料理の数々、夜遅くまでチューハイを飲みながら打ち興じたくだらない話や笑い声。曲を聴いたその瞬間だけでなく、朧げながらもあの日のハイライトが瞼の裏や鼓膜の奥を駆け巡る。 昨日、僕たちは新しいミニアルバム『きおくのすみか』という作品をリリースした。昨年12月に自主レーベル「11.7」を立ち上げてからはじめてリリースしたミニアルバムだ。僕たちとしては珍しく夏をテーマにした曲も収録されていて、中でも「0.1s」という曲は、mol-74の曲として最も爽やかで疾走感のある夏らしい曲に仕上がった。 そんな「0.1s」の歌詞を書くために何度も繰り返し仮歌の入ったデモ音源を聴いていると、あの夏、友人たちと鳥羽に出かけたときの記憶と結びついた。勿論、この曲が昔から存在していた訳ではないし、あの日聴いた訳でもない。でも、そんなことが僕にはよくある。メロディーが生まれたのはたった今なのに、なぜか遠い記憶と重なったりする。理由は分からないけれど、そんな時は素直にその記憶をなぞって歌詞を書いてみる。そんなふうにして「0.1s」も、あの夏の記憶をなぞって、当時の自分の視点で歌詞を書いた。 この「0.1s」という曲をあなたは、いつ、どこで、誰と、どのようにして出会ってくれるだろうか。 高校や大学の通学中だろうか。 恋人のスマホのスピーカーからだろうか。 適当にかけていたラジオからだろうか。 仕事終わりの電車の中だろうか。 もしかすると、友人たちとの旅行中の車内だろうか。 「0.1s」という曲が、あなたが今目にしている、耳にしている景色をまるごと閉じ込めて、いつの日か、またその瞬間に帰ってこられるような“あの曲”になってくれたら、僕としてはとても嬉しい。 「BREEEEZE GIRL」が僕にそうしてくれたみたいに。 <mol-74・武市和希> ◆紹介曲「 0.1s 」 作詞:武市和希 作曲:mol-74 ◆new mini album『きおくのすみか』 2023年7月9日発売 <収録曲> 1.忘れたくない 2. 0.1s 3.Summer Pages 4.花瓶 5.此方へ 6.アンニット 7.ひびき