「…春のうちに」とつぶやいた。
松室政哉
「…春のうちに」とつぶやいた。
2024年9月18日に“松室政哉”がニューアルバム『LABORATORY』をリリースしました。今作には、BRADIO、矢井田 瞳、堂島孝平&岸本ゆめの(ex:つばきファクトリー)など、様々なアーティストとのコラボ楽曲を中心に全11曲が収録。さらに、音源化が熱望されていた人気曲「フレンチブルドック」などの新曲や、“福耳”の「イッツ・オールライト・ママ」も収録されるなど、バラエイティーに富んだ豪華な作品となっております。 さて、今日のうたではそんな“松室政哉”による歌詞エッセイを3週連続でお届け!今回が最終回。綴っていただいたのは、収録曲「 春のうちに with The Songbards 」にまつわるお話です。その音楽にいつも心地よい風が吹いているような印象を抱いていたバンド・The Songbardsとのコラボ楽曲。その制作の様々なエピソードを明かしてくださいました。ぜひ楽曲と併せて、エッセイをお楽しみください。 今回は「春のうちに with The Songbards」について書きたいと思う。 振り返ってみれば、松室の楽曲の中で「春」をテーマにしたものはあまり多くない。そんなこともあり、The Songbardsとのコラボレーションは春の歌にしたいと伝えた。彼らの音楽にはいつも心地よい風が吹いている印象があって、そのエッセンスと春のイメージは相性が良いのではないかと考えていた。 制作もこれまで同様にスムーズに進んでいった。まずはThe Songbardsがデモを制作してくれたのだが、その時点で既に彼らのキャラクターが溢れていて、とても素敵な仕上がりだった。そこに僕なりの要素を加えて再構築していく。具体的には、新たにBメロを追加し、鍵盤系のサウンドを重ねていった。 そしてあっという間にレコーディング当日を迎えた。 余談になるが、レコーディング当日は強めの雨が降っていた。駅からスタジオまで折り畳み傘をさして向かったのだが、到着して傘を畳む時に、手を怪我してしまった。結構しっかりと怪我をしてしまい、応急処置をする羽目に。そのせいで少しテンションが下がってしまったのだが、結果的にはそのアンニュイなテンションがこの曲の歌入れに効果的に働いた。 レコーディング自体は順調に進んだ。 コーラスには松原くんと岩田くんも参加してくれたのだが、全員が歌えるのがこのバンドの強みだと実感する瞬間であった。 実はレコーディングが終わるまで、この曲のタイトルは決まっていなかった。全ての録りが終わってロビーに集まり、メンバーで色々とタイトルを出し合ったものの、なかなか決まらない。そんな時、ラフミックスを終えたエンジニアのいまぜきさんが、コーヒーをすすりながら、「この曲って春のうちにリリースするんだっけ?」と何気なく言った。その瞬間、上野くんがパッと閃いたような表情をして「…春のうちに」とつぶやいた。それでタイトルが決まったのだが、その時の上野くんの表情がまるでドラマのワンシーンのようで今でも忘れられない。 The Songbardsの浮遊するようなサウンドは、僕にとっては新鮮なものだった。意識と無意識の間を行ったり来たりするようなこの曲は、アルバム『LABORATORY』を作品として完成させる上で、非常に重要な一曲となった。 < 松室政哉> ◆紹介曲「 春のうちに with The Songbards 」 作詞:松室政哉・The Songbards 作曲:松室政哉・The Songbards ◆ニューアルバム『LABORATORY』 2024年9月18日発売 <収録曲> 1.星屑箱 2.LOVEなシーン with BRADIO 3.2人のコンプライアンス(松室政哉×山崎まさよし) 4.ラ・タ・タ ~すべてはフィーリング~ feat.堂島孝平&岸本ゆめの 5.Breathing feat.MORISAKI WIN 6.ホットミルク feat.井上苑子 7.春のうちに with The Songbards 8.Rewrite(浜端ヨウヘイ×松室政哉) 9.Life is Beautiful feat.矢井田 瞳 10.イッツ・オールライト・ママ(福耳) 11.フレンチブルドッグ