それが無ければ僕は音楽を続けてなかっただろう。

 2020年3月11日に“松室政哉”が最新EP『ハジマリノ鐘』をリリース!つらく苦しい日常が続いても、今の人生を、今の自分を、今生きているこの世界を愛したい。主人公の苦悩と葛藤を綴った【ハジマリ】のラブソングとなっているタイトル曲「ハジマリノ鐘」他、全5曲が収録されております。

 さて、今日のうたコラムではそんな最新作を放つ“松室政哉”本人による歌詞エッセイを、3週に渡りお届け!第1弾第2弾に続く最終回は、今作の収録曲「どんな名前つけよう」にまつわるお話。ご自身の“曲作りの歴史”を、小学校時代まで遡って綴っていただきました。是非、最後までご堪能ください…!

~最終回歌詞エッセイ「どんな名前つけよう」~

 第2弾のコラムで、僕がサザンオールスターズがきっかけで小学生の頃から曲作りを始めた事を書かせて頂いた。今回は僕の曲作りの歴史を書いてみようと思う。

 僕はおもちゃのピアノを使って独学で作曲を始めた。ピアノを弾きながら歌う“弾き語り”は出来なかったので、ピアノをラジカセに録音しそれを鳴らしながら歌っていた。途中から、歌も一緒に録音したい!と思い始めた。どうすれば出来るか…。必死に考えた結果、ラジカセで録音したピアノの音と僕の歌を、もう一つのラジカセで録音する方法を思いついた。音楽に詳しい人が周りにいない環境でこれを思いついた時、少年時代の僕は発明だと思っていた。

 その後、そこに他の音を重ねていく方法も取り入れた。やり方は同じ。想像してもらうとわかると思うが、歌とピアノを録ってその後に色んな音(キーボードで違う音色を鳴らしたり、ドラム風に机を叩いたり...)を同じ方法で重ねていくと、どんどん音質が悪くなって最初に録った歌がもうほぼ聴こえないのだ。それでも、僕は満足していた。とても楽しかった。

 小学校6年生の頃になると、パソコンでの作曲をしていた。ネット上で見つけたフリーの打ち込みソフトで何百曲と作った。このソフトがフリーの割に色んなことができた。16のパートを同時に鳴らすことができ、譜面上に視覚的に音符を乗せていくだけで曲になっていくのだ。16もトラックがあるので、ストリングスやブラスなども曲に入れることができた。音はチープ(イメージは昔のホームページで自動で流れてくるBGMみたいな)だが、このソフトで作曲やアレンジを独学で学んだのである。

 中学2年生の頃に、親に頼んでMTRを買ってもらった。MTRとはマルチトラックレコーダーの略。マイクやギター等をそれに繋いで色んな音を重ねていけるのだ。先述したソフトでドラムとベースだけを打ち込み、MTRでそれにギターや歌を重ねていった。ソフトだけではチープだった音が、少しずつそれらしくなってきた。

 中3で僕はバンドを組んだ。ここで初めて人と一緒に曲を作り上げていく事を学ぶのである。ドラム、ギター、ベース、そして僕がギターボーカル。4人で一つの曲を作り上げる作業は非常に新鮮だった。他のアイデアを聞くことで、自分で一人で行ってきた作業がどんなものだったのか客観的に見ることが出来た。この経験は今の制作に非常に大きな影響を与えている。

 これが僕の曲作りの始まりの景色だ。何をしても飽き性だった僕が、唯一集中して熱くなれたものが音楽であり、曲作りだった。あの時の曲作りの楽しさが今も同じ温度で続いている気がする。

“ボロボロになってもまだ鳴らしてるおもちゃのピアノ”

 それが無ければ僕は音楽を続けてなかっただろう。

 3回にわたって自分の音楽人生を振り返ってきた。書きながら、自分でも忘れかけていた事がどんどん鮮明に思い出された。この様な場所を作ってくださったUta-Netさんに感謝したい。

<松室政哉>

◆紹介曲「どんな名前つけよう
作詞:松室政哉
作曲:松室政哉

◆EP『ハジマリノ鐘』
2020年3月11日発売
UMCA-10073 ¥3,300(税別)

<収録曲>
M1.ハジマリノ鐘
M2.にらめっこ
M3.My Hero
M4.どんな名前つけよう
M5.マーマレードジャム