私は“正しく理解されないこと”が、すごく潔癖的にイヤなんです。

 2020年1月22日に“阿部真央”がニューアルバム『まだいけます』をリリースしました。アルバムタイトル曲である「まだいけます」をはじめ「お前が求める私なんか全部壊してやる」や「どうにもなっちゃいけない貴方とどうにかなりたい夜」など、もう曲名から気になる楽曲揃い…!デビュー10周年を駆け抜けた彼女の“今”が詰まっております。
 
 そして今日のうたコラムでは、そんな阿部真央のインタビューを【前編】【中編】【後編】に分けてお届けいたします!読めばいっそうアルバムを楽しめる、濃厚なトーク内容となっておりますので、是非チェックを。今回は【前編】をご堪能ください!

― まず、10周年イヤーの2019年は、振り返ってみてどんな一年でしたか?

とくにライブへの姿勢を通じて、覚悟が決まっていった一年でしたね。パフォーマンス中にもっと自分のリミッターを外して表現する覚悟。やっぱりライブとなると、音程を外さないようにしなきゃとか、曲順や歌詞を間違えないようにしなきゃとか、頭のなかに雑念が多くて、本当の意味で集中ができてないんじゃないかなって去年の前半ぐらいに思っていて。もっと言えば、ひとりの29歳の女性としてちょっとは可愛く見られたいとか、いち社会人としてまともでないといけないって気持ちもありましたし。

でも、そんなこと気にしなくなるくらい集中して表現し尽くす、リミッターを外すという感覚を、秋の弾き語りツアーでなんとなく掴んでいくことができたんです。そこで改めて、ステージの上では、たとえ周りに引かれようと、普通だったら目も当てられないような生々しい姿になろうと、常識的な範囲を超えて、振り切った表現をしてやるって決めたんですよね。そういう覚悟がないと、いろんなものに囚われている自分からは抜け出せないんだなと実感したのが2019年だったかなぁ。

― その「リミッターを外す」という覚悟は、今回のアルバム『まだいけます』の勢いにも表れていますね。

そうなんですよ。とくにアルバムのために書いた新曲は、ちょうど作った時期も良くて。その秋の弾き語りツアーが終わった11月の中旬ぐらいから、制作に取り掛かり、レコーディングを始めたので。2019年の総括的な音が録音されている感じはありますね。

― また1曲目の「dark side」というタイトルからも伝わってきますが、わりとアルバム全体の雰囲気が“dark side”ではないでしょうか。

ですね。というのも、ちょうど一年前の1月にベストアルバムをリリースする時点で、もう2020年1月にオリジナルアルバムを出すことは決まっていまして。さらに、2019年5月にシングルのリリースも決まっていて。そのベスト前後のシングルは、すごく明るい曲が続くなぁとわかっていたんです。で、私は同じテイストの曲が続くのはあまり好きじゃないので、次のオリジナルアルバムは暗くしようと、2019年頭の時点で漠然と思っていました。そして、まさに今言っていただいたように、誰もが持っているけれど、あえて光を当てないような“dark side”を切り取った新曲が多いアルバムになりましたね。

― アルバムタイトル『まだいけます』はどのように決まったのですか?

まず、もともとのタイトルは『dark side』だったんです。でも、阿部真央、9枚目のニューアルバム『dark side』って、どうなんだろう…って急にためらっちゃって。インパクトにも欠けるし、私がファンだったら見逃すかも…と思って(笑)。それでやめたんですね。じゃあ何にしよう?と考えていたときに、曲タイトルだった「まだいけます」とか…? と、ハメてみたらすごくしっくり来たから、これで行こう!という感じでした。

まだ まだ 終わらせないで
まだ まだ まだいけます
今描く 放物線を
まだ まだ まだいけます
まだ まだ まだいけます
まだ まだ まだいけます
まだ まだ まだいけます
まだいけます」/阿部真央 


ひらがな6文字の「まだいけます」がパワーワードでしたね。曲自体もこの言葉に引っ張られる感覚で出来上がったんですよ。歌詞としては、官能的な要素も入れつつ、男のひとの立場で、自分たちの関係は“まだいけるはずだから、終わらせないでくれ”という抽象的な気持ちを書いて。でも同じ「まだいけます」という言葉でも、もっといろんな意味を持たせることができるし、アルバムタイトルとしても“阿部真央、10周年以降もまだいけますよ!”というテンションを感じてもらえるんじゃないかと。面白い言葉に引っ張ってもらえたと思います。

― 1曲目「dark side」と2曲目「お前が求める私なんか全部壊してやる」はどちらにも"相手が描く自分は自分ではない"という憤りの気持ちが通じていますね。どこか阿部真央さんの代表曲「貴方が好きな私」の"dark side"版にも感じました。

たしかに!意識してなかった(笑)。でもやっぱり過去にそういう曲も書いていますし、このアルバムの2曲からもわかるように私は"正しく理解されないこと"が、すごく潔癖的にイヤなんですね。決めつけられることも嫌い。それはみんないろんな場面であると思っていて。たとえば「妻なんだからこうあらねば」とか「社会人なんだから」とか。そういうものに対して常に人一倍、嫌悪感があります。過去の「貴方が好きな私」では<上手にやり切るから、愛して>とか歌っていますけれども、今回はただただ怒っているというか、もう頑張るのはやめました、という感じはありますね。

― また、どちらの楽曲も二人称が<貴方>ではなく、ひらがなの<あなた>だったり、<お前>だったりするので、相手は<私>にとって恋愛対象ではなさそうですね。

まさに。この2曲はラブソングとしては書いていなくて、もっと言うと、私に対する世間のイメージみたいなものを頭に浮かべながら書いた曲ですね。

あなたの中の私を勝手に愛さないでよ
あなたの中の私はもう息をしてないわ
あなたの中の私はあなたが仕立てたまがい物
あなた何を見てたの? それは私じゃない
dark side」/阿部真央

お前が求める私なんか全部壊してやる
お前が求める私なんか全部壊してやる
お前が求める私なんか全部壊してやる
お前が求める私なんか 全部全部全部全部全部全部
ぜーんぶ バイバイ
お前が求める私なんか全部壊してやる」/阿部真央


― やはり活動のなかで“自分に求められているもの”って感じますか?

感じます。なんかね…抱かれているイメージというよりは「こうあってほしい」みたいなものが明確にあるのはわかっていて。まずファンのひとは1曲目や2曲目のような“怒っている”歌が好きなんですよ。これぞ阿部真央だみたいな。過去曲で言うと「デッドライン」とか「19歳の唄」とか。それは別に全然いいんだけど。なんとなくこう…世の中に対してとか、いち個人に対しての反骨みたいなものを代弁してほしいのかな?とは思います。

あとは、叶わない恋。要は、怒って泣いていてくれと(笑)。でもね、そういうものを求められるのはもう、しょうがないと思います。そういう曲が私も好きだし、みんなが喜んでくれるものがそれならそれでいいかなって。それも2019年に思ったことなんですよね。私が本当に幸せかどうかは別として、表現者として見せる主立った姿として、そういうものを打ち出せる強みはあるからいいか!と割り切ったというか。

― 阿部真央さんの歌で「幸せ!大好き!」みたいな歌って、なかなかないですもんね。

そうなんですよ。まぁ書くけれど結局、自分もね、ライブでやるとつまらないんですよ。そういうハッピーな曲って。しいて言うなら子どもに対する歌だけかな。幸せな気持ちを歌っても大丈夫なのは。でもラブソングで「大好き!」みたいな、ストレートな感情を表現するのは、あまり手ごたえがないですね。どっか変なことを入れたがるというか。それを好きだと言ってくれる私のファンの子も、本当に変わっているなと思います(笑)。

― アルバムの冒頭2曲で、とくにお気に入りのフレーズはありますか?

好きなのは「お前が求める私なんか全部壊してやる」の<「ちょっとなんか、違った」とか ほざいてんな バーカが>ですね(笑)。この一行にものすごく言いたいことが詰まっているというか。もう2回くらい年末にフェスで歌ったんですけど、ライブで歌っていても楽しいし、多分聴いていても気持ちいいだろうし、お気に入りのフレーズですね。

― 「ちょっとなんか、違った」って…言われるとイラッとしますよね。

ね(笑)!ホント。作品を出すごとに思う。なんだろ…自分が好きじゃないもの以外は良しとしないひとってやっぱりいて。私はそういうひとはファンじゃないと思っているし、そういうひともだいぶ離れていきましたけど…。でも世間を見ていても、ちょっと自分のイメージと違う曲が出て来たり、女優さんや俳優さんがこれまでと違うタイプの役を演じたりすると「えー、なんかイメージ変わったー」とか「これはちょっと違う気がするー」とか言うひとが多いなぁって。

まぁそれはどんな立場でも、大なり小なり出くわす、普遍的な気持ちなのかなぁ。こんなこと言いながら私だって、誰かに対して「あー、なんかイメージ変わったな」とか思うことあるから。しょうがないっていうか。でも思うのは勝手だけれど、思うだけにしとけば?って思いますね。

― 私はYouTuberさんのコメント欄などもよく読むのですが、それこそ自身のイメージと違ったことで「ガッカリしました」とか「嫌いになりました」とか書いちゃう方が少なくないですよね。

いる!いるいる!そういうひと。そうなんですよねぇ。とくにYouTuberさんって一般の方と近い存在だし、そういうコメントも拾っていかないといけない仕事だから、より大変だと思う。辛辣。しかも芸能人なようで、芸能人みたいに守られてないというか。

― SNSによって、何を言ってもいいような距離感に勘違いしてしまうのかもしれませんね。

そう。私も一回それでTwitterやめてますから。やっぱり距離感がわからなくなったひとからの攻撃はしんどいんですよ。他のアーティストを見ていても、そういうコメントをされている方って多いし。それによって周りのファンのひとも嫌な気持ちになるので、本当SNSって難しいですよねぇ…。そういう意味でもこのアルバムの1曲目と2曲目は、今の時代だからこそ共感してもらえることが多い歌詞なんじゃないかなって思います。

【インタビュー中編に続く!】

(取材・文 / 井出美緒)

◆9thアルバム『まだいけます』
2020年1月22日発売
初回限定盤 PCCA-04885 ¥3,182+税
通常盤 PCCA-04886 ¥2,727+税

<収録曲>
01. dark side
02. お前が求める私なんか全部壊してやる
03. まだいけます
04. どうしますか、あなたなら
05. pharmacy
06. どうにもなっちゃいけない貴方とどうにかなりたい夜
07. 今夜は眠るまで
08. テンション
09. 答
10. 君の唄(キミノウタ)
11. おもしろい彼氏