1番不幸がいい。

 2022年8月24日に“みゆな”が1st Full Album『ガイダンス』をリリースしました。タイトルには、『みんなを指導していったり、強制するものではない。"音楽"は人の気持ちをいい方向にも、そうでない方向にも人を操作できてしまうもの。それぞれの環境や心境によって、聴いている音楽の印象は変わってくる。どんな色であれ、この「ガイダンス」を聴いた時に生まれた感情が、それぞれの道標や1つの"鍵"となってほしい』という想いが込められております。
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“みゆな”による歌詞エッセイをお届け。綴っていただいたのは、今作『ガイダンス』が生まれるきっかけのお話です。自分より苦しんでいるひとはたくさんいるのだから、もっと頑張らなきゃ。そう自分に言い聞かせている方へ、この作品とエッセイが届きますように。



私が1番不幸である。

朝が私を呼んでいる。
堕落した生活で鈍った足が
不自然だが確実に動こうとしていた。
「動きたくないし、ただ動かないのも嫌だ」
「眠りたくないし、ただ眠れないのも嫌だ」
矛盾した思考が私の頭の中で対立している。
 
体感10秒で朝日が顔を出しきった。
夏の準備をするかのように外では虫が鳴いている。
学生の話し声も聞こえる。
私はこの時間が1番苦手だ。
 
どれくらいの時間が経っただろう。
やっと上半身だけ起こし
ギターを手に取る。
元に戻すのが面倒くさいからという情けない理由だけで、
必要なものは全てベッドから手の届く場所に置いていた。
置きっぱなしにしていた。が正しいのかな。
 
ギターをゆっくり抱きしめる。
自然と私の両手がボディをなぞって
ゆっくり定位置に着く。
左手が向かう場所は大体決まっていて
右手の規則的な動きに合わせて
好きな曲を歌う。
好きな曲を歌い切れば
またベッドに張り付く。
いつもだったらこのまま二度寝をするはずなのだが、
何故か今日は過去を思い出していた。
 
転校先でいじめられた小学生
怖くなって逃げ出した中学生
音楽と学業の両立で悩んだ高校生
 
あの時は毎日酷い夢を見ていたような気がする。
「自分よりもっと苦しんでいる人がいるから大丈夫だ」
と言い聞かせて精神を保っていた。
支えてくれていた仲間や家族でさえ全員敵だと思っていた。
けれどその不幸が今の私を作り出してくれたんだと実感する。
過去の私は今の私に出会うために指導してくれていたんだとも思う。
そう思えたのはギターに出会えたから。
もしギターに出会えていなかったら私はきっと何も出来ずに死んでいた。
ギターのおかげで全てが変わった。
 
だが、今は今の苦しみに悶えている。
私の苦しみはきっと誰にも理解されない。
人の苦しみというのは実際に自分も体験しないと理解できるはずがないのだ。
だから私は他人の苦しみを理解しようとはしない。
理解したふりは失礼だと思うからだ。
 
ある夜、友人が泣きながら苦しみを話してくれたことがあった。
その時の私はもちろん頷くことしかできなかったが、
ふと私が発した言葉が
今回の1st Full Album『ガイダンス』のきっかけになった。
 
「自分が1番不幸だと思いなさい。
誰かの苦しみと比較するから
自分の苦しみがちっぽけにみえるだけだ」
 
この言葉を言った時、
私自身も救われたのだ。

誰かの苦しみと比較して
まだ自分は大丈夫だと言い聞かせて
実はもう限界だと言うことに気づけない人は沢山いると思う。
自分の苦しみと他人の苦しみを比較できるわけがないのに。

なのにそう考えてしまうのは、
「あの子も頑張ってるんだからあなたも頑張りなさい」と
言われたことがあるからなのではないかなと私は思う。
この言葉は時に背中を押してくれるのだが
使い方や捉え方を間違えると徐々に、
「あの子も頑張ってるんだから私も頑張“らないと”」に変換されていく。
私も友人もずっとその言葉に苦しまされていたんだと気づいた。
 
そこからは苦しみに正直になれた。
引きずることも少なくなった。
だから私は読んでくれたあなたが、
もし苦しんでいるのなら言いたい。
「あなたが1番苦しいんだよ」
苦しむきっかけも人それぞれ。
でもその苦しみから少しでも解放されて
新たな一歩を踏み出すきっかけになってほしい。
その思いが、1st Full Album『ガイダンス』と言う存在に全て注ぎ込まれている。

<みゆな>


◆1stフルオリジナルアルバム『ガイダンス』
2022年8月24日発売

<収録曲>
1.埋葬
2.凝視
3.奇術
4.頂戴
5.秘密
6.朝曇 
7.彩色
8.貪欲 
9.狂愛
10.甘苦
11.神様
12.願い