最寄り駅から二つ手前の駅で降りて、改札をでた。

 2022年8月でデビュー5周年を迎えた“足立佳奈”が、毎月の連続配信リリースを行うことを発表。その連続リリース第8弾として、11月30日に「WALK」を配信リリースしました。今年5月にリリースした「Me」以来2度目のタッグとなるShin Sakiuraをアレンジャーに迎え、作詞・作曲は足立佳奈本人が手掛けております。
 
 さて、今日のうたコラムでは、アニバーサリーイヤーを記念して、5月~12月に毎月“足立佳奈”による歌詞エッセイをお届けいたします!今回は第7弾です。綴っていただいたのは、新曲「WALK」にまつわるお話。みなさんも時々、急にどうしても一人になりたくなること、スイッチが切れてしまうこと、ありませんか…? そんなときにこそ、この曲とエッセイを受け取ってください。



「ご馳走様でした!今日はありがとうございましたー!!」
 
元気な挨拶でお店を出て、
ネオン街をすり抜けて電車に駆け込んだ。
奇跡的に席が空いていて、私は肩を細めながら座った。
少しマスクが苦しくて、マスクを人差し指と親指で摘んで空気を吸った。
きっと今、ほんのり顔が赤いんだろうなぁ。
久々に集まる学生時代の先輩達は、なんかキラキラしてた。
 
今何してるんですか? わぁそれは大変ですね!!
えー!あの人とまだ付き合ってるんですか?!
今度みんなで会いたいですー!
それにしてももう20代半ばって人生ってあっという間ですよね!
でもーとにかく今は頑張りたいですよね!!
 
色んな会話ができてとても良い夜だった。
 
気づいたら少し寝てしまったみたいだ。
まだ電車は混んでいて席は埋まっていた。
 
すぐ感じた、
自分のやる気スイッチが完全に切れてしまってることに。
ほんと急にやってくるこの感じ。
 
きたきた。
どうしても一人になりたいっていう瞬間だ。
 
なんで? って聞かれても、
一人になりたいの。の一点張りか、
あるいはそれすらも言いたくない、
無視してしまいたくなるような。
 
今は、無視してしまいたくなる。
そんな気分。
 
電車の中の暖房のきいたどんよりとした雰囲気とか、
キラキラしたカップルやお店で溢れてる街とか、
LINEの通知音にも。
なんにも気にせず一人になりたい、そんな気分。
 
 
だから、
というか体が自然に、
最寄り駅から二つ手前の駅で降りて、改札をでた。
 
最寄り駅は人が多いから、
今はそんなところに行きたくなかった。
なんか世界についていきたくない。って感じ。
 
フラフラ地図も見ないで大体の方向で歩き始める。
昔はお店がズラっと並んでいたんだろうなという商店街の通りにでた。
きっとこの道真っ直ぐだ。
 
車道と歩道の区切りは綺麗に引かれた白線だけ。
少し白線の上を歩いてみることにした。
飲酒運転をした人は、警察にこの白線を歩かされるのをテレビでみたことがある。
私はさほど酔ってないらしい、
ちゃんと白線を歩ける。
 
街頭も少ないこの道で青々と光ってるコンビニは、
今の私には眩しかった。
コンビニを通り過ぎて5分くらい歩いたところに公園があった。
誰もいない真っ暗な公園のベンチに座った。
ジャングルジムと、パンダとラッコの前後に動く乗り物がある、家とマンションの間にある縦に長い公園。
 
真っ暗な空を見上げて、
少し呼吸が止まるような、その瞬間きゅーうって体を締め付けられた。
不安が襲ってきた。
私はただでさえ夜になると少し余計なことを考えてしまうタイプだ。
 
誰かと自分を比較したり、
過去の失敗を思い出したり、
未来が見えるようで見えなくて悔しくなる。
 
とにかく落ち込んで苦しくなって
何を見ても何を思っても涙が溢れた。
 
 
その時、
商店街の方から何人かの笑い声が聞こえた。
さっきまでは誰とも会いたくなくて、誰の笑い声も聞きなくなかったのに、ひとしきり泣いたせいか、なんなのか、彼らの笑い声に温かさを感じた。
ふいに微笑んでしまった。
 
あー、そうか。
 
私の代わりに彼らが笑ってるんだ。
 
そう思ったら、
こんな夜もそんなに悪くない気がした。
 
不思議だけど、
人の気持ちはそんなもんだ。
ひょんなことから、
考え方だったり、気持ちが変わったりする。
 
彼らの笑い声に引き寄せられるように、
服の右袖で頬を伝う涙を拭いながら、公園を後にしてまた一本道を歩き始めた。
 
焦らなくていい、孤独な夜があったっていい。
朝になればきっとまた笑顔になる。
きっとその繰り返しだ。
 
ウォーク、ウォーク、歩いていこう。
ゆっくりでいいから、
これでいいから。

<足立佳奈>



◆紹介曲「WALK
作詞:足立佳奈
作曲:足立佳奈