自分を見つめ直した時、僕を取り巻く色々な物の見方が変わった。

 2023年6月16日に“saji”がNew Digital Single「スターチス」をリリースしました。タイトル曲は、TVアニメ『Helck』第1クール エンディングテーマです。誰かにとって永遠であることを誓ったミディアムバラード。さらに7月1日には「フラッシュバック」をリリース。こちらはTVアニメ『AYAKA - あやか -』エンディングテーマであり、己の弱さや過去と対峙し、前に進む決意を込めたダンサンブルな1曲となっております。
 
 さて、今日のうたコラムでは、そんな最新作を放った“saji”のヨシダタクミによる歌詞エッセイを2ヶ月連続でお届け!今回は第1弾です。綴っていただいたのは、新曲「スターチス」にまつわるお話。今の人生に影響を与えた思春期の経験。そして、大人になって変わった“物の見方”について明かしてくださいました。また、今回は音声版もございます。本人の朗読でもエッセイをお楽しみください。


ヨシダタクミの朗読を聞く
大人になって変わったことの一つとして、
世の中に在る色々な物への興味関心が増えた。
正確には興味の方向性が変わった。
 
子供の頃というのは目に映るそれら総てが未知で、これはなんだろう? という好奇心が世の中を支配していた。
 
知らないものを知りたいというのは人間の性であるが、小さな頃にどれだけの知的好奇心を満たせたかで
のち人生を大きく左右するように思う。
 
6歳までの教育が天才と凡人を分かつと、イタリアの教育者が言っていた気がするが
僕が音楽の道を志したのも、元は小学生の時に出会った蘊蓄(うんちく)辞典(難読漢字ばかり網羅した辞典)から
大人でも知らない言葉を覚えようと家中の書籍(主に漫画と小説)を読み漁り、
国語というものが好きになったのが源流である気がする。
 
特に国語の授業中は、学んでいる箇所の要点だけ押さえて
あとは別のページ(授業で学ばない部分)を読み進めるのが密かな楽しみであった。
授業態度でバレていた気もするが、当時の教科担任が、
当てられた時にさえしっかり応えていればある程度黙認してくれる人だったので
それも授業を好きになれた要因の一つかもしれない。
 
書いていてもう一つ思い出した。
中学の時、英語の授業がとても苦手だったのだが、苦手な分、どれだけ考えても答えは出てこないだろうと
テストの際に穴埋めを進めるのも早くて時間の半分以上を持て余していた。
 
その時間の余白を埋める為に、答案用紙の隅に歌詞の真似事というか詩みたいなものを書いていたのだが、
当時の先生がテストを返却する際に毎回赤文字でこっそりそれの感想を書いてくれていた。
 
最初は気恥ずかしかったけれど、それより自分の書いた拙い創作物に感想をくれるというのが嬉しくて、
毎回テストの度にそれを楽しみにしていた。
 
こんなことをやっている場合じゃないでしょ! といつか怒られる気がしたので、
それから多少英語だけはテスト対策に真面目に取り組んだ結果、ある程度上位の点数を取れるようになった。
 
あれが先生の深謀遠慮だとしたら、今もまだ僕は先生の手のひらで転がされているのかもしれない。
 
そう考えると、思春期までに影響を受けたものが大人になった今の僕の人生を形成している。
大人になってから人生を変える出来事というのには中々出会えない。
 
大人になってから興味の方向性がどのように変わったのかと云うと
子どもの頃はなぜこれらは生まれてきたのだろう? というのが疑問の全てだった。
 
しかし大人になった今は、
これらはなんのために存在するのか?
生まれてきた事ではなく、存在意義を問うようになった。
それは即ち、自分という存在の理由というものに疑問を持ち始めたことに他ならない。
 
小さな頃は自分が生まれてきたことや生きていくことに何ら疑問を抱かなかった。
それは当たり前のことで、世界は当たり前だと思っていたから。
 
然(しか)し、人生の歩を進めていくうちに、自分には何ができるのか。
自分は何のために生きているのかという事を考えるようになった。
これは決して病んでいる訳でも厭なことがあった訳でもない。
 
自分の人生が今ちょうど全体の半分だとして
ここから先の人生は運命の余韻なのか、はたまたまだスタートラインに過ぎないのか。
 
そういったことを考えるフェーズに入ったのだと思う。これが30の壁か。
 
自分を見つめ直した時、僕を取り巻く色々な物の見方が変わった。
これまではまるで興味のなかった造形物や花など、目につく物の在るべき意味を考えるようになったのだ。
 
今仕事場の玄関にはいつも一輪挿しの花が置いてある。
近所のお花屋さんでその日見つけたものを定期的に買っているのだが、
日を経過するごとに咲き、枯れてゆくのを何度も見届ける度に、
まるで人生のようだなと隠遁(いんとん)した老人のような事を考えている。
 
咲かせるまでにどれだけの苦労があったとしても、人前で花開く期間はとても短い。
然(しか)してそれはそう在るべきために生まれてきたのだとしたら、
僕らの人生もまた一瞬の輝きのために長く耐え忍ぶ時間が必要なのではないか。
今がその時なのではないかと自答している。
 
スターチスという花は、時を経ても色褪せないことから永遠の花と呼ばれている。
永遠なんてものはないと知っているからこそ僕らはそれに憧憬するのだ。
 
僕らの花もいつか咲くように、今は未だ韓信匍匐(かんしんほふく)の時を過ごそう。
 
<saji・ヨシダタクミ>


◆New Digital Single「スターチス」
2023年6月16日発売
 
◆New Digital Single「フラッシュバック」
2023年7月1日発売