いつか王子様が

 2024年2月28日に“saji”が3rd Digital Full Album『カルト』をリリースしました。タイトルはフランス語で”地図”の意。今作には新録を含む全10曲を収録。これまでの軌跡を辿る<宝の地図>であり、コロナ禍を経てsajiは今ここからが<冒険の始まり-スタート->といった決意表明の1枚となっております。
 
 さて、今日のうたではそんな“saji”のヨシダタクミによる歌詞エッセイを3週連続でお届け! 今回は第2弾。綴っていただいたのは、収録曲「月とワルツ」にまつわるお話です。自身にとっての創作物とはどんな存在なのか。そしてどんな思いで音楽を続けているのか…。歌詞と併せて、エッセイを受け取ってください。



人は物語が好きだ。
これは誰の言葉だったか。
彼の作品のようにウィットに富んだことは言えないが、
僕も創作には希望が宿るべきだと思っている。
 
ハッピーエンドであれと言っている訳ではない。
世の中に在るものには総て理由があり、
誰かの望んだ願いであると思う。
陳腐な例えになってしまうが、
缶詰を誰もが手軽に開けられるように缶切りが生まれ、
いつでも声が届けられるように電話が生まれた。
 
物事には機序があり、誰かの願いが込められている。
 
鳥は何千万年という時間をかけて、
大空を手に入れた。
そこに至るまでに
沢山の物語があっただろう。
 
話が少し逸れてしまったが
漫画でも映画でも、
なぜそれを創ろうと思ったのか。
創作者の願いがそこにはある。
 
僕を含め音楽人だってそうだ。
創作物とは、誰かの心を動かすために存在し
それが 共感、感動、苦悩、怒り、悲しみ
さまざまな言葉を借りて感情へとアップデートされてゆく。
 
僕にとってのそれら総ての嗜好物(カルチャー)は、
人生を豊かに生きる為のスパイスだと思っている。
なくても死ぬわけではないが、
無ければ人生がすっかり希薄なものになってしまう。
 
感情の代弁者は誰にだって必要なのだ。
言葉だけではない心の通信手段は
人類にとってもはや不可欠なものである。
 
だからこそ敢えて言いたい。
僕にとって創作はリアルな現実を侵さない
あくまでファンタジーな領域であってほしい。
 
ただでさえ苦しいこの現実において、
それを真正面からぶつけてくるような乱暴な作品が僕は嫌いなのだ。
 
「君に言われなくても分かってるよ。」
「とっくにこの世界は地獄だ。」
 
僕にとっての創作物とは、
ほんのちょっとの心の逃げ場であり、居場所であってほしい存在。
 
人は自分以外の誰かに心の居場所を求める。
だからこそ、
例えば僕らの歌が誰かにとって
少しでも明日を何とか生きる理由になってくれたなら、
それだけで僕らが生まれてきた意味があるのではないか。
 
そう思うことで僕も救われるのではないか。
そんな思いで音楽を続けている。
 
今回書いた「月とワルツ」という歌は、
夢はその誰かにとって
生きる希望であり、願いであるということを
テーマにした曲になっている。
 
夢なら何度でも見よう。
何度でも明日を語ろう。
それが僕たちの生きる理由になるから。
 
人は物語が好きだ。
 
<saji・ヨシダタクミ>



◆紹介曲「月とワルツ
作詞:ヨシダタクミ
作曲:ヨシダタクミ

◆3rd Digital Full Album『カルト』
2024年2月28日発売
 
<収録曲>
01. 感脳性リベレーション
02. 並いる敵蹴散らし侍
03. Magic Writer
04. エチカ
05. 月とワルツ
06. スターチス
07. フラッシュバック
08. EVERY DANCE SING
09. Live in Peace
10. Circle