爆音のうねりの中を溺れないように泳ぎ切る。

 2023年11月22日に“シンガーズハイ”が1st Full Album『SINGER'S HIGH』をリリースしました。全会場SOLD OUTで終えた「DOG」ツアーで、さらにキレと立体感を増したサウンドの今作。自身のバンド名をアルバムタイトルに付けるなど、勝負の1枚となっております。
 
 さて、今日のうたコラムではそんな“シンガーズハイ”の内山ショートによる歌詞エッセイを2週連続でお届け。今回は第2弾です。綴っていただいたのは、収録曲「climax」にまつわるお話。アルバムにとって大きな存在となったこの曲は、どのように生まれたのでしょうか。そして自身にとっての、歌詞を書くという行為とは…。ぜひ歌詞と併せてエッセイをお楽しみください。



僕は音楽が好きです。ロックが、バンドが、とかそういうのじゃなくて音楽というものが好きで、できることならば何でもかんでも挑戦していけたらなと思っています。そして今回のフルアルバムはいつにも増して音楽性を散らかしていった実感があるのですが、僕はこれらの曲を作るにあたって「climax」という曲が出来たことが何よりも大きな足がかりになってくれたんじゃないかなと思います。
 
僕は非常に気分の浮き沈みが激しい人間でして、他人に何かを伝えようにも言葉が何も出てこなくなることが多々あります。自分が口を開けば開くほど周りの状況が悪くなっていってしまうんじゃないかと怖くなる。
 
「climax」は正にそんな状況のときにギターを弾いて歌う自分を思い出しながら書いた曲でした。汗だくになりながら、他の楽器に掻き消されないように精一杯デカい音を出して自分を主張する。爆音のうねりの中を溺れないように泳ぎ切る感覚。"衝動"って言葉は正にこういうものを言うのではないかなと改めて思います。
 
難しいことは本当に何一つ考えていませんでした。“中身がない”といった批判が飛んできそうですが…、ないというか、必要ないと思って書いたのだから仕方がありません。King Gnuの「Slumberland」という曲のサビで常田さんは<Rock'n roller sing only ‘bout love and life.(所詮ロックンローラーは愛と人生しか歌えない)>と書いているが、本当にその通りだと思う。というかそれしか書かなくていい。別に突拍子もない新しいことなんて言おうとしなくたっていいし、見えないものを見ようとしなくていい。それでも今目の前に居る人にどう向き合うかだけは考えていたい。
 
歌詞を書くという行為は、どこまでも自分を曝け出していくことだと思う。自分の情けなく、醜いところを他人に見せるってのはなかなか恥ずかしい。だけどそれらをアウトプットすることによって初めて自分と向き合えることもあるんじゃないかなと思います。
 
最近はインターネットのお陰もあって沢山の人に見つかりやすく、物好きな人たちはフラフラと他人の作品を覗きに来てはそれを本物かフェイクか30秒で品定めしたがる。そういった音楽の聴き方も面白いとは思いますが、その人が相手に伝えるために腹の底から出た言葉ならば、それがどれだけ拙くても僕は本物だと思います。
 
<シンガーズハイ・内山ショート>



◆紹介曲「climax
作詞:内山ショート
作曲:内山ショート

◆1st Full Album『SINGER'S HIGH』
2023年11月22日発売
 
<収録曲>
M-1 愛の屍
M-2 グッドバイ 
M-3 パンザマスト
M-4 かすみ
M-5 Kid
M-6 サーセン
M-7 daybreak
M-8 ノールス
M-9 SHE
M-10 Soft
M-11 フリーター
M-12 climax