住んでいた街

 2024年1月31日に“EASTOKLAB”が1stフルアルバム『泡のような光たち』をリリースしました。繊細で些細なこと、誰もが当たり前に通り過ぎてしまうこと、そんな儚い美しさを拾い上げて心を震わせ、喪失に手を振り前に進む。誰もが経験する日々の些細な一節。聴き終わったあとに、遠い昔の匂いを思い出すようなアルバムとなっております。
 
 さて、今日のうたではそんな“EASTOKLAB”の日置逸人によるエッセイを3ヶ月連続でお届け! 今回が最終回です。綴っていただいたのは、今作『泡のような光たち』に詰まっている“あの街の匂い”のお話。時が経っても自身のどこかに在り続ける思い出を、エッセイから、歌詞から、受け取ってください。



名古屋の片隅に名東区という街があって、部屋こそ転々としながらも10年近くそこに住んでいた。
 
初めは大学の近くだからと何の気なしに住み始めただけだったのに、その場所でたくさんの友達ができて、たくさんの出会いや別れがあり、たくさんの思い出が生まれた。
 
そして、その全てが音楽に繋がっていると思う。
 
だから『泡のような光たち』というアルバムには、あの街の匂いがみちみちと詰まっている。
 
よく思い出すのは、近所にあった大きな池のこと。時間があればいつもベンチに座って池の上を飛び交う鳥を眺めていた。
 
よく思い出すのは、近所にあった小さな居酒屋のこと。うだつの上がらない毎日をアルコールで薄めてくだを巻いていた。
 
よく思い出すのは、毎日のように通っていたスタジオのこと。数えきれないくらいの音を拾って、それと同じくらいに捨てた。
 
そうやって、いつもあの街のなかにいた。
 
考えて、想像して、間違えて、もういいや!ってなったり、まだやれる!ってなったり。
 
僕にとってのそんな日々を『泡のような光たち』というアルバムがそっと肯定してくれているような気がする。
 
最近、名東区を出て新しい街に引っ越した。
 
呼吸をする度に、あの頃の匂いが抜けて、新しい空気が胸いっぱいに広がっていく。
 
だけど、どれだけ時間が経ってもきっと、体の隅っこに、もっと奥の、ずっと奥の方に、きっと形もなく存在している、そういう朧げな光のようなものが残ってしまう。
 
ツアーの練習を通して、改めて自分が書いた歌詞と向き合って、そんなことを思った。
 
そんな記憶にさえ残らないような心の機微を、このアルバムを聴いてくれた人がふと思い出してくれたらいいなとか考えながら、今日も新しい街で、4人で練習をしていた。
 
きっとまたすぐに忘れちゃうんだけど、今日ふと思い出してここに書いたこと、できるだけ長く覚えていられたらいい。
 
<EASTOKLAB・日置逸人>


 
◆1stフルアルバム『泡のような光たち』
2024年1月31日発売
 
<収録曲>
1. Dawn for Lovers
2. Error
3. Lights Out
4. 栞
5. Faint Signal
6. Melt
7. See You
8. うつくしいひと
9. Echoes
10. Our Place