2024年7月17日に“Penthouse”が配信シングル「花束のような人生を君に」をリリースしました。同曲はドラマ『そんな家族なら捨てちゃえば?』主題歌。家族崩壊を描いたドラマとは対照的に、“愛で満ちた世界は君がくれた奇跡”と親子愛を歌い上げた、久しぶりの王道バラードに仕上がっております。
今日のうたではそんな“Penthouse”の大原拓真による歌詞エッセイをお届け! 綴っていただいたのは、新曲「花束のような人生を君に」のお話です。これまでの自身の作詞法から、大きく方向転換をして作ったこの歌。親から子への気持ちを考えたときに見えてきたものは…。
この世には歌詞つきの歌がありふれている。歌ネットの登録曲数だけでも35万曲以上あるらしい。
それでも世の中のアーティストたちは、新たに人に聴いてもらうべく新曲を書き続ける。
まだ書かれていないテーマはあるか? 使われていない単語はあるか? 聞いたことない言い回しはあるか?
聴いた人の耳をなんとか掴もうとする、たくさんの試行錯誤がそこにはある。
ただ、新しければいいというわけではない、というのが歌詞作りの難しいところだ。
新曲「花束のような人生を君に」は、これまでリリースした曲の中で最もシンプルで普通の言葉で書いた歌詞だ。
歌詞の中に出てくる言葉を歌ネットの歌詞検索にかけると、「奇跡」は12000件以上、「花束」で1900件以上、「日曜日」でも1100件以上のヒットがあった。
Penthouseのこれまでの歌詞作りでは、サビはシンプルな言葉で作りつつもそれ以外の部分は引っかかりのあるアイテムや工夫した表現をちりばめて作る、というやり方をとることが多く、今回も当初はその方向性で進めていた。
しかし、そのやり方はこの楽曲においても本当に合っているのだろうか? という疑問が制作過程で生まれ、大きく方向転換をすることになった。
そもそもいつものやり方をとっている理由は、先人たちの表現に倣ってということももちろんあるが、おそらく心の細かな揺れ動きを描きたいがためである。
例えば歌詞のテーマにおける最大派閥ともいえる「恋愛」には、あまのじゃくな心の動きが日常茶飯事だ。
拗ねてみたり、試してみたり、嘘をついてみたり。
そのようなテーマでは歌詞においてもストレートでない言い方をした方がかえってグッとくることも多く、そういう表現を画策してきた。
これは「恋愛」以外でも、「青春時代」や「自分探し」など若さとリンクしているテーマには同じようにアプローチしていると思う。
だが、今作は「親から子への愛」をテーマにした王道バラードである。
果たして、親から子への気持ちとはどういうものなのだろうか。まだ親になっていないなりに想像してみる。
嫌いになることはあるか。あるかもしれない。どれだけ言っても手に負えない時とか。
試すことはあるか。あるかもしれない。自分が追い込まれてたら子に対してもそういう接し方をしちゃうかも。親も弱い人間だし。
思ってもないことを言ってしまうことはあるか。ケンカしたらきっと言っちゃうよな。ほんとは言いたくないのに。
あれ? 恋愛と大して変わんないのかな。
でもきっと違う。
親から子への気持ち。
そのど真ん中には、この子を守るという使命、愛おしい我が子への尊さ、そして無償の愛、そういったまっすぐな感情が変わらずに存在する。
この太い幹だけはきっとブレない。それが他の感情とのいちばん大きな違いなのではないか。
あまりにも普遍的で、あまりにもストレートな感情。
これを伝えるには、もっと抽象的でありふれた言葉の方がイメージしやすいのではないか。
そんな思いから今回は思い切ってシンプルに、まっすぐな言葉で歌詞を書いた。
「奇跡」「勇気」「光」
こういった言葉を歌詞に使うのはかえって勇気が要った。
どこにでもあるようなメッセージになってしまいやしないか。初めて聴いた人が聞き流してしまいやしないか。
今でもその葛藤や心配は尽きない。きっとしばらくは尽きることはない。
それでも聴いてくれた人から、自分の生活に重ね合わせて涙を流した、というようなメッセージをもらえると、とてもうれしいし安心する。
普通のありふれた言葉だからこそ、より多くの人が生活や感情をこの歌に重ねてもらえたら作詞者冥利に尽きるだろう。
「花束のような人生を君に」が、あなたの人生の隣で一緒に笑ってくれる、そんな楽曲になるよう願っています。
<Penthouse・大原拓真>
◆紹介曲「花束のような人生を君に」作詞:大原拓真・浪岡真太郎
作曲:浪岡真太郎